第44話 ツーリング
文字数 981文字
これまでにも、何度かバイクに乗せてもらったことはあるけれど、本格的なツーリングは初めてだ。
バイクのエンジンがかかると、まだ半分眠っているかのような街に、けたたましい音が響き渡る。
「ほいたら、行くでぇ」
掛け声とともに、誠はゆっくりと走り出す。住宅街を抜け、国道へ出るうちに、どんどん加速してゆく。
誠に
いくつかの橋を渡るたび、転倒するかと思うほどの横風を受けた。わずかな恐怖心と、爽快感とが目まぐるしく入れ替わり、やがて混ざり合う。景色が飛ぶように流れてゆくのを目の端で追っていると、誠がバイクに魅せられる理由が分かるような気がした。
「この先、カーブがつづくでにゃあ」
風に負けない大声で誠が言った。
「俺の背中に貼りついて、同じ方へ体重のせぇや」
樹は誠の背と腰に身体を密着させると、カーブに合わせて左右に傾く誠に身を預けるようにして、体重をのせてゆく。
誠は十分にスピードを落としているが、下り坂のために、実際の速度よりも速く感じた。
道に落ちた小石に乗り上げ、車体が滑る。
一瞬、ひやりとしたけれど、誠は動じることなく走りとおした。
「実際に乗ってみるまでは、よう分からざったけんど、バイクち、
ヘルメットを脱ぎ、心地よい潮風を受けながら、樹は感嘆の声をあげた。
「俺も運転してみとうなった。高校出たら、免許取りにいこうかにゃあ」
「言うたち、そんな暇ありゃせんでぇ」
誠はからかうような笑みを浮かべる。
「お前はどうせ、大学へ行くがやろう? ほんで、部活もやるがやろう? バイトして、勉強もして、あいまに遊びもするがやけんにゃあ」
「そういうお前は、どうながや? 大学へ行くがか?」
「行かん」
誠は即答した。
「行く意味がないけんにゃ。俺は早う一人前になりたいが。自分で稼いだ金で、誰っちゃあ文句言わせんと、好きなように生きていくがや」
強い意志を秘めた瞳が、一心に何かを見つめている。
視線を追うと、朝日を浴びて白く浮き上がる砂浜の先に、絵の具を塗りこめたような、深い海の