第66話 部活
文字数 1,387文字
「あんたらぁ、高校生になったら急に男臭うなったがやなぁい?」
千代子はしかめ面をして窓を開け放つ。けれど、その様子はどこか楽しげでもあった。
「千代子姉ちゃんの部屋にみんなぁでおると、中学んとき、テニス部の練習メニューを考えちょったがを思い出すでぇ」
樹はしみじみと言った。
練習内容に改良の余地があるのではないかと、最初に言い出したのは岡林だった。
それを受けた誠が中心となって、千代子のアドバイスを元に試行錯誤の末、新たな練習メニューを作り上げたのだ。
「いま思うたら、がた爺は、なかなかどうして、たいしたヤツやったでにゃあ……」
誠がぽつりとつぶやく。
樹たちは驚いて顔を見合わせた。「がた爺」こと山形は体罰も辞さないスパルタ教師で、テニス部の顧問でありながらルールさえろくに把握していなかったのだ。
「考えてみぃや。十四五の小僧が、『練習メニュー作ってみました』言うたち、普通はまともに取り合わんろう? やけんど、あいつぁ、俺らぁが思うようにやらしてくれたがよ」
「ほいでも、あいつ、俺らぁが作ってきたメニュー、手にとって見ぃもせんかったやいか?」
納得できない様子の佑介に、誠はきっぱりと言った。
「どんな内容じゃち、あいつは
「ほんまに、そうかもしれん。
樹は誠に同意した。
がた爺にとって、部活とはあくまで生徒の人格形成の手段であり、テニスの上達など二の次、三の次だったに違いない。
「がた爺のこたぁ思い出したくもないわえ。こじゃんち張りまわされたけんにゃ」
「ほんまぞ。痛い記憶しかないけん、俺ぁ卒業の寄書きにもそう書いちゃったがで」
堅悟と耕太郎が口を挟んだのを
「佑介、高校のテニス部はどうな? 中学とは違うかや」
「すごいヤツらぁがざまにおるけん、勉強になるでぇ」
佑介は目を輝かせて言った。
「耕太郎が自己流でやっちょった、モーションなぁ、コツを教えてもろうて、なんとか、それらしいことができるようになったがで」
「そりゃあたいしたモンちや。佑介はコツコツやりよるタイプやけん、大器晩成型ながやにゃ」
樹が感心すると、佑介は顔を紅潮させた。
「俺ぁ不器用やけん、あんまり、いろんなことはできんがよ。それに比べたら樹はたいしたモンちや。軟式に飽き足らんと、硬式テニスやりに高知まで行ったがやけんにゃあ」
人を疑うことを知らない佑介は、樹の苦し紛れの方便を本気で信じているらしい。
樹が返事に困っていると、堅悟が茶々を入れてきた。
「高校で部活やるヤツの気がしれんちや。朝から晩まで気兼ねなしに遊べるがぁ、今だけながぞ!」
「あんたぁ、真っ昼間から遊び回っちょうらしいやいか? たまには学校に顔出さんと、一生卒業できんでぇ」
千代子の小言を、堅悟は笑い飛ばす。
「そこらへんは抜かりないが。持ち回りで
「代返らぁ、すぐにバレるわえ」
「俺らぁがいつまでも居座っちょったら、困るがは