第45話 遠くにありて……
文字数 759文字
静かに、しかし決然と、誠は言い放つ。
「お前も、いつまでもこんな
「
樹は、尋ねずにはいられなかった。
「俺らぁ、
かんかんと照りつける真夏の太陽の下、もぐって遊んだ荷緒川。水中で目を開けると、ひんやりと透き通った水のなかで、無数の小さな空気の粒が踊る。
風が吹くたび、木漏れ日がゆらゆらと泳ぐ裏山に、一歩足を踏み入れたとたん、湿った土の匂いとともに、木々の呼気を感じた。
縁もゆかりもない人々にしてみれば、ありきたりの里山の風景なのかもしれない。けれど、樹たちはその景色のなかで、日々何かを感じながら、成長していった。
「俺は……離れてしもうたけん、よけいに分かるがや。俺らぁの身体を作ったがは、喰うたモンだけやない。荷緒の川の水や、山の空気やらで出来ちょうがよ」
誠の目を見つめながら、樹は懸命に訴える。
「お前らぁや、金四郎に会えんがも、ざまに辛いけんどにゃあ……荷緒の景色が、たまらんばぁ恋しゅうなることがある。荷緒の山並みの向こうに陽が沈んでいきよる光景を、もう、何べんも夢に見ちょうがで……」
「それでえいが」
振り下ろされた斧のように、誠の声が、樹をバッサリと切り捨てる。
「歌にもあるろう? 『ふるさとは、遠くにありて思うもの……』あんまり近くにおったらにゃあ、嫌なとこばぁ、見えてしまうがぞ……」
それきり口をつぐむと、誠は大きく伸びをしてから駐車場を見やった。
「観光バスが来よったで。そろそろ帰るか。なんぼ景色がえいところじゃち、人があふれちょったら興ざめやけんにゃあ」
樹の返事も待たずに、誠はバイクを停めた駐車場へ向けて歩きだした。