第33話 疾駆
文字数 975文字
いきなり視界が暗くなり、慌ててヘルメットのシールドを上げる。隙間から飛びこんできた爆音が、鼓膜をぶるぶる震わせる。
トンネルを抜けたとたん、今度はまぶしさに目がくらむ。メットのシールドを下ろすと、カプセルに閉じ込められたかのように、周囲の音が遠のいてゆく。
道の両脇に田園が広がる一本道を走り抜けたら、お次は鬱蒼とした木々に囲まれた上り坂だ。
——頭で考えたらいかん。身体に覚えこませるがぞ
耳の奥で社長の声がした。
呼応するように、自然と身体が動きだす。
右手はアクセルを戻し、左手はクラッチを切り、左足がシフトペダルを踏んでギアを落とす。
エンジン音が一段ずつ高くなる。車体がわずかに重くなる感覚とともに、風の勢いが弱まる。
トンネルを抜けて坂を下り、緩やかなカーブを曲がるとふたたび海が見えてくる。
この先しばらくは海岸沿いを進んでゆく。
小学生のころ、夏休みのたびに樹の父である
中型の免許を取ってから、まだひと月にしかならない。心配した保が車で送ってやると言ってきたが、断った。免許を取ってからというもの、社長と専務が連日きっちり運転技術を仕込んでくれた。ふたりの教えを忠実に守っていれば、何も問題はないはずだ。
社長から、必ず休憩を挟むようにと念を押されていた。
最初の休憩ポイントである
風を感じなくなったとたん、汗が噴きだした。ヘルメットを脱ぐより先に革ジャンのファスナーを下ろし、
ヘルメットをはずし、革ジャンを脱いでTシャツ一枚になった誠は大きく伸びをすると、まぶしそうに目を細めて空を見上げた。
まだ九時を過ぎたばかりだというのに、七月なかばの太陽は容赦なく照りつけてくる。