第62話 祭りの夜
文字数 1,120文字
「たまぁるか! 水着で踊りよう女がおるぞ」
「水着やないろう。レオタードやないか?」
「どっちじゃち
そんな仲間たちを、
「見てみぃや! トラックの上で楽器鳴らしようぞ」
「なんや、前とはえらい感じが変わった気がするでにゃあ」
「曲や踊りも、時代に合わせてアレンジしちょうがやないか?」
前回、祭りを見にきたときには、樹たちはまだ小学生だった。当時は正調よさこい節が主流で、音源は
「こっちの方が
「若い女が多いがも最高ちや!」
確かに、踊り子や見物客のなかには、まだ学生のような若い連中がたくさんいた。男女を問わず、露出度の高い服装が多い。さらしを巻いただけの素肌に
ふいに、狂おしいほどの切なさで、
祭りは嫌いだと言っていたから、ここにいるはずはない。
それでも、ほとんど無意識のうちに、人混みのなかに幸弥の姿を探していた。
——上手いこといったら、お前にも彼女の友達を紹介しちゃおき
幸弥の無邪気な声が、耳にこだまする。
樹の気持ちは、当然知っていると思っていた。
幸弥だって、気のあるような
それなのに、どうして、あんなことが言えるのだろう?
いくら考えても、答えが見つからない……
夕焼け色に染まる雲の隙間からのぞく空は、まだかすかに明るさを残していた。夜と昼のはざまで、踊り子たちの顔には気怠さと恍惚の入り混じった色が浮かんでいる。
「樹、元気ないやか。疲れちょうがか?」
樹の顔をのぞきこむようにして誠が尋ねると、堅悟が割って入った。
「何を爺ぃみたいなこと言いようがや。夜はこれからながぞ!」
堅悟の声が、エレキギターの爆音にかき消される。
しだいに濃さを増してゆく夜の闇のなかで、ライトアップされた地方車と提灯の灯りとが、暴力的なほどの「若さ」を象徴するように、怪しい光を放っていた。