第40話 オミブラ
文字数 1,081文字
夏休みに入ったせいか、繁華街はいつも以上に人であふれかえっている。
「ほんま言うたら、俺ぁオミブラらぁ好かんがよ。
げんなりする樹を見て、誠はおかしそうに笑う。
「お前は昔っから人に酔うタイプやったけんにゃあ」
「ガキのころに比べたら、これでもちっとはマシになったがで。頭痛もめったにないなったけん」
そんなたわいもない話をしつつ繁華街をぶらついていると、
「おい!」
怒気を含んだ誠の声に、ハッと我に返る。
「…あいつ、ここでバイトしちょうがか?」
誠があごで店を指す。
「
「そんな呆けたツラしよったら、誰じゃち分かるわえ!」
声を抑えてはいるものの、
「誰かと一緒におるとき、絶対に店んなかのぞいたりすな!」
誠がピシャリと言い渡した直後、前方から声がした。
「おったでぇ。
ジャージ姿の集団が近づいてくるのを見て、誠は即座に怒りを呑みこむ。
「なんちゃない顔しちょけや」
声を落として言うと、誠はがらりと表情を変えた。虫も殺さぬ笑顔で、樹の仲間たちと対面する。
「たまぁ! バイクで来よったがか?」
「免許取ったばぁながやろう?」
「休み休み来よったけん、そればぁキツくはなかったでぇ」
初対面にもかかわらず、誠は実にそつなく仲間の輪に溶けこんだ。
「あんた
井上が誠に尋ねたとたん、どういうわけか、そばで聞いていた森の顔が曇る。
「ああ。米やら葉たばこやら、ちまちま作りようぞ」
誠が答えると、井上の口元に冷笑が浮かんだ。
「そりゃ難儀なこっちゃ。今どき百姓らぁて、時代おくれも
「どういう意味な?」
樹は思わず口を挟む。
「時代らぁ関係あるかえ。百姓が米や野菜作らざったら、いったい何を食うがや?」
「食いモンらぁ、なんぼじゃち輸入できるがぞ」
したり顔で井上が言う。
「仕事には二種類あるが。頭を使うがと、身体を使うがや。」
「ばか言うなや。そんな単純に分けれるもんかよ。畑仕事じゃち、頭は使うでぇ」
「それやき、役割分担ちうモンがあるがぞ。野菜ひとつ作るにしたち、作業工程のプランを練るがと、現場の指揮をとるがは賢い人間がやって、畑を耕したりするがぁ、頭の足りんヤツにやらせりゃえいが」
驚きのあまり、樹は声も出なかった。
井上は、本気で言っているのだろうか?