第48話 紫煙
文字数 1,105文字
誠のことばを、
母親が昭子に母乳を分け与えたせいで、赤ん坊が死んでしまったのも——
長男であるというだけで、誠が高知の高校へ行くことを許されなかったのも——
バイトで金を稼がなければならない
何の功績も、犠牲を払うこともなしに、樹が恵まれた境遇を手に入れたことも——
すべて、星のめぐりあわせなのだろうか?
いま初めて、樹は胸のざわつきの正体を知った。
それは、まぎれもない「罪の意識」だった。
誠はくしゃくしゃになった箱から煙草を一本取り出すと、口にくわえて火をつけた。
深く息を吸いこんだあと、心持ち口をすぼめて、細く、長く、煙を吐きだす。
「誠……」
白っぽい煙が、あたりの空気へ溶けるように消えていくのを眺めながら、自分でも気づかないうちに、樹は口に出していた。
「俺にも、くれんか?」
ほんの短いあいだ、誠は逡巡するような目で樹を見つめた。
煙草の箱を渡そうとして、手をとめると、代わりに自分の吸いかけを差しだす。
火のついた煙草を口にくわえ、息を吸いこんだとたん、樹は激しくむせた。
「坊ちゃんには十年早いでぇ」
おかしそうに笑いながら、誠は煙草を取り上げる。
「無理しなや。お前は、そのままでえい」
誠の笑顔が、涙でにじむ。
煙がしみたふりをして、樹は乱暴に目をこすった。
「俺、明日の朝、帰ろうと思うがや……」
唐突に、誠が言った。
「
「そうながやけんどにゃあ……金四郎に、ちゃんと別れを言い含めてこんかったけん、なんや、気になってしもうて、ならんがよ」
誠は照れくさそうに笑う。
「そうか……すまざったにゃあ。部活があったけん、どこっちゃあ連れて行かれんと」
「何ちゃあ。それなりに楽しんだでぇ。お前の高校の
含みのある笑みを浮かべながら、誠が片手を上げる。
樹も片手を上げてハイタッチをする。
その手を離してしまうのが、なんだか寂しく思えてきて、不器用な握手のように、ふたりは手を握り合った。
翌朝早く、誠は祖父母の家を出た。
「気ぃつけてなぁ」
「家に
見送りに出た祖父母と伯父一家が誠に声をかけるなか、樹は誠の耳元へ、そっとささやいた。
「アレは、ほどほどにしぃや……」
いたずらっ子のような顔で、誠がニッと笑い返す。
「じいちゃん、ばあちゃん、色々ありがとう。今度の祭りには、
笑顔で皆に手をふって、誠は