第39話 田舎者
文字数 1,146文字
井上が声をあげた。
高知市内でも有数のお洒落スポットである大宮町の繁華街を、「オミブラ」と称して散策するのが、当時の若者たちのあいだではちょっとしたブームとなっていた。
「俺はいかん」
間髪入れずに断った
「何な、
「心配せんじゃち、田舎モンやからゆうて、取って食われたりせんでぇ」
樹は慌てて弁解する。
「そういうわけやない。
「そいつも連れてきたらえいやか? 俺らぁその辺ぶらぶらしちゅうき」
「そうやにゃ……ほいたら、そいつが行きたい言うたら連れてくわ」
自転車で走りだした樹へ向けて、茶化すような声が飛んでくる。
「田舎からはるばるやって来るがやき、オミブラくらいさせちゃらにゃいかんでぇ」
仲間たちの笑い声を背中に聞きながら、樹はなんとも言えない気分になった。
田舎者だと揶揄されるのは日常茶飯事だ。仲間たちにしても悪気があるわけではないし、いちいち気に留めていたらキリがない。それでもときおり、無性に腹が立つことがある。
(何がオミブラちや! 用もないがに、人ごみをやたらめったら歩き回りよって、何が楽しいがや?)
腹のなかで毒づくと、モヤモヤした思いはスッと消えた。入れ替わるようにして、久しぶりに誠に会える喜びが込みあげてくる。
何度電話しても家におらず、かけ直してもくれなかった誠から突然電話がきたのは、夏休みを目前に控えたころだった。泊まりがけで遊びにくると聞いたときには、それまでの不義理を帳消しにするほど嬉しかった。
「誠、来ちょうがか?」
玄関を開けるなり、樹は声をあげた。
「来ちゅうでぇ。えらい疲れちょったき、あんたの部屋で寝かしちゅうき」
台所から顔を出した祖母の
小走りに部屋へ行くと、いま目覚めたばかりといった様子で、誠が大儀そうに上半身を起こす。
「おおの……身体じゅうが痛い」
「畳の上に直に寝よるからぞ。布団敷いたらよかったに」
「ばぁちゃんもそう言うてくれたけんど、布団に横になったらほんまに寝てしまうけんにゃあ」
つもる話もあるけれど、ふたりとも目が回るほど空腹だった。祥子の作ってくれた昼飯を食いながら、樹は誠に尋ねてみた。
「部活の仲間らぁがにゃ、いま大宮町ゆう繁華街におるがやけんど、お前も連れて来い言いよったがで……」
てっきり興味ないだろうと思っていたのに、誠は乗り気になった。
「オミブラやろう?
「兄ちゃんは買いモンばぁしよるでにゃあ。市内の店のことらぁ、俺より知っちょうがぞ」
「オミブラもえいけんどにゃあ、俺ぁ、お前の高校の連中に会うてみたいがで」