第77話 意地悪
文字数 996文字
そう言って、
「どうな? 徳弘と組んでみた感想は。ちったぁ俺の苦労が分かったかや」
心地よい風を身体に感じながら、幸弥は樹の背中に話しかける。
「確かに、考えちょった以上に強烈やったにゃあ」
樹はさもおかしそうに笑う。
「えらい変わっちょうけんど、慣れてきよったら
「あいつはテニスしゆうときが一番マトモながや。それやき、大﨑先輩を巻きこんでダブルスの試合をセッティングしちゃったがぞ」
「気ぃ遣うてもろうたがか? ありがとうにゃ」
弾むような声で、樹は礼を言った。
幸弥の胸がちくりと痛む。ダブルスの試合を思いついたのは、確かに樹のためでもあったけれど、正直なところ、また大﨑とペアを組みたいという気持ちの方が強かったのだ。
何も知らない樹は、さらにことばを継いだ。
「お礼ちうわけでもないけんど、メシ食うていかんか? バイト代が入ったけん、奢っちゃお」
「お前、バイトする暇らぁあるがか?」
「バイトいうか、部活が休みのときだけ親戚の工場を手伝うちょうがで」
「なんや、親戚の手伝いやち、小遣い稼ぎみたいなモンやいか」
そこで止めておくつもりだったのに、引きずられるようにして、よけいな
「ほんまに、お前は身内に恵まれて、えい身分でなぁ」
「よう分かっちょう。やけん、お前に奢っちゃりたいがよ」
まったく気を悪くした様子もなく、明るく答える樹に、一度は
——お前と
大﨑にそう言われた瞬間、自分にとって、樹がどれほど大きな存在なのかということを、幸弥はあらためて思い知ったのだった。
思えば、これまで、樹にはずいぶんとひどい仕打ちをしてきた。
樹の優しさにつけこんで、ほかの人間には絶対に言わないような、底意地の悪いことばを平気で投げつけた。そのくせ、樹の些細なことば尻をとらえては食ってかかったりもした。
それを、悪いとすら思っていなかったのだ。
大﨑のことばで、ようやく自分の過ちに気づけたというのに……
幸弥はまた、同じことを繰り返している。