第25話 青写真
文字数 1,000文字
「おぉの、やかましいねや!」
騒音に負けない大声で
「勘弁してくれぇや。俺ぁ二日酔いながよ。頭が割れそうちや……」
そんなふたりのやり取りを笑って見ていた樹の頭に、ふと、雨に打たれる実家の田畑が浮かぶ。
「音はうるさいけんど、屋根があるがはありがたいでにゃあ……」
天井を見上げながら、ぽつりとつぶやく。
終戦後に祖父の
「たしかに、雨はしのげるけんどなぁ」
大きく伸びをしながら、正が言った。
「吹けば飛ぶような零細企業やき、不景気の嵐にはガタガタ揺れゆう。おじいがやっちょったころも、『もういかん!』ゆうときが、なんべんもあったがよ。ほいでも、おばあは肝が座っちょったわえ。『どうせ裸一貫から始めたがやき、また元に戻ったち、なんちゃない』ち、豪語しよったき。そうこうしよるうちに、まぁなんとかなる。そんなことの繰り返しぞ」
正が母屋へ用を足しに行ってしまうと、敏郎がにじり寄ってきて、秘密を打ち明けるかのように小声でささやいた。
「今は部品ばぁ作りよるけんど、俺の代になったら、船や車の修理やら、手広くやりたい思いゆうがよ」
「俊郎兄ちゃん、修理らぁできるがか?」
「だてに工業高校出ちょらぁせんき」
俊郎は胸を張った。
「腕はあるけんど、悲しいかな、頭が足りんねや。これからの時代、親父みたいに、ただ鉄を削りゆうだけではいかん! お前は賢いき、大学へ行って金の儲け方を勉強しぃや。俺らぁで、このちんまい工場をいっぱしの大企業にしちゃおうやいか」
「金儲けのやり方らぁて、大学で教えてくれるが?」
「当たり前ちや! 元が取れんがやったら、高い銭払うてまで誰が行くかいや」
言われてみれば、たしかに「経済学」という分野がある。敏郎の話も、まったく根拠がないわけではないのかもしれない。
突然、目の前に一本の道がひらけた気がした。
敏郎とともに、田中工務店を経営してゆく——
これまでまったく形を