第96話 野球部
文字数 885文字
練習を終えて片づけをしている最中、
「ほんまぞ! 俺、思わず見とれてしもうたがやき」
熱をこめた声で、森が賛同した。
井上の口調が皮肉めいていることには、まったく気づいていないようだ。
「
川村に
「ああ、そうで。やけんど、小学生のころは朝から晩まで野球ばぁしよったけんにゃ。お盆に
「そうながか? そりゃ、たいしたモンやなぁ」
川村がしみじみと言い、森は不思議そうな顔で尋ねた。
「あればぁ上手いに、なんで野球部に入らざったが?」
「それは、まぁ、色々とにゃ……」
樹はことばを濁した。
集落の仲間は一心同体だと信じていた当時の樹は、当然、全員で同じ部活に入るものと考えていた。多数決でテニス部に決まったのだから、樹だけ我を通すわけにはいかなかったのだ。
けれど、それを説明したところで、理解してもらえるとは思えなかった。三方を山に囲まれた故郷の
「そんなこと、聞かんじゃち分かるろう?」
裏返ったような、奇妙に甲高い声で、井上が横から口を挟んだ。
「野球部には、ガキのころから、ちゃんとしたチームで鍛えちょるヤツらぁがざらに
一瞬、樹の呼吸が止まった。
背後から、いきなり急所を刺されたような気分だった。
まさしく、井上の言う通りなのだ。
野球で頂点に立つことはできない。兄の
(最低ちや……)
胸のうちで、樹は掃き捨てるようにつぶやいた。