奇跡を信じるのならば白昼夢に問いかけよ

文字数 782文字

   奇跡を信じるのならば白昼夢に問いかけよ

 真っ白な砂漠の中、僕のジープはガス欠で助けを待つしかなかった。
もう喉はカラカラで水筒に水は一雫も残っていなかった。
額から流れる汗もなく、
このままでは乾涸びてしまうから大きめな布を広げて車体に影を作った。

 太陽は燦々と頭上にあって、
もはやこれまでかと諦めの境地に至って、ぐったりとしていた。
 
 すると遥か向こうからラクダの大群がやってきた。
目を凝らしてみるとそれらは華やかな一隊で、
これからお祭りにでも参加するのかといった賑やかさだった。

 それらは僕の前までやってきて、列は僕をよけ通り過ぎていくようだった。
唖然としてしまい、あまりの突飛なその存在に驚いて声も出なかった。
 楽隊を連れているのか、音楽が鳴っている。
先頭のラクダたちは虹色のマフラーをつけていた。
僕は乾涸びた自分の体のことなど忘れて、すっかり見入ってしまった。
 しばらく眺めていると隊の真ん中あたりに、一番華やかな背格好をした若者がいた。
リーダーなのだろうか。
するとちょうど通り過ぎていくとき、彼と目があった。
黒い肌にぎょろっとした大きい瞳の白い部分が輝いている。
僕は煌びやかなその若者が僕という存在に目を止めたのに驚いた。
若者の片方の指が頭上を泳いだ。
一隊はぴたりと立ち止まった。
「君はここで一人何をしている?」
 威厳のある澄んだ声だった。
僕は怖気付いて唇を震わせた。
 若者は返事を待たずに自分の腰にある水筒を僕に差し出した。
「目的地に着くまで枯れることはない」
「受け取れ」と仕草したので僕はその人の足元まで擦り寄った。
 たまらず水を飲んでいると、一隊は歩き出した。
言われた通り、水筒はいくら飲んでも明らかに減ることはないようだった。

 不思議な人たちは、いつの間にかもう遥か向こうにいた。
 シャンシャンと音を奏で夕日の砂漠を泳ぐように消えていった。

 

/了

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