第038話:語り継がれる想い!ヴェスターの過去を乗り越えて!!
文字数 5,372文字
おい、トランド!
話は聞いたぞ。ヴェスターの家を
取り壊してヴァリングスを
建てる契約なのか?
何だ。そんな事か。
ホットソープの復興の為だ。
それで何の文句がある?
悪いけど、私に逆らったら
契約違反だと賠償金を払えと言ってやった。
何だと!!!
俺達は温泉を愛して止まないんだぞ。
そんなキナ臭い根性でホットソープを
救い出そうと言うのか?
ふん。それで何が悪い?
私は常に正しい事しかやってない。
ヴェスターが言って来た
親孝行なんかどうせ出来っこしない。
目を見れば分かるんだ!!!
痺れを切らしたヴェスターが
応対室の扉を突き破って、社長の発言を全て
罵詈雑言、誹謗中傷と捉えてしまい胸倉を掴む。
お前にもミルフって言った娘がいるんだろ。
よくそんな口が叩けるな。
私の誘いを拒んではすぐ出掛けようとする。
あんな風に育てた覚えはないのに。
変わってしまった……
ひ、酷い……
ミルフだってあの子らしい
生き方してるのよ。貴方と同じ
少し頑固な所はあるけど……
私は、それで構わない。
だって同じ家族なんですもん。
格闘家になるって言う夢、応援
してるからねって言ってあげたら
満面の笑みで喜んでくれたの覚えてる。
そういう強い夢や憧れを
持つのは貴方譲り。だもんね。
くっ!!!
おい、いつまで私の一張羅を掴んでるんだ?
さっさとその手を退けろ。
と、とりあえずだ。
誰であろうとも私に逆らうのは
決して許されない。それを肝に据えて置け。
ルミナ、帰る支度をするんだ。
灰だらけの部屋にいつまでも居られるか!
おい! 誰が灰だと言ってるんだ?
お前の廃れた性格の方が灰だ。
澱みやがって!!!
バタンッ(扉が閉まる音)
応対室の空気が一瞬にして重くなったのも束の間
ルミナも薄々自分が社長の言い成りとして
動かされていたと気付いていた事を
反省として認め、少しでも改心
させてあげたいと奮闘するけど
今のオランドには通用しない。
そして、その次の日からいよいよ
ヴァリングス完工を目指し、各業者や従業員は
複雑な思いを胸に秘めたまま、着工された。
そんなある日、ヴェスターは
再び兄であるゴッシュの元を訪れていた。
私の、せいなのか……?
ヒートリンスの社長に源泉の事を伝えた。
お前が怒るのも無理ないな。
今更言っても遅いよ。
そのせいで、現にオレ達の
家族はもうこの世に居ないんだぞ……
兄さんだって、分かって
くれてたじゃないか。
確かに自殺に追い込んだのは許し難い。
だけど、成す術が無いだろう。
今日の朝刊にヴァリングスの
施工順調の記事が掲載されてたからな。
その点に関しては大丈夫だ。
兄さんには絶対に迷惑掛けない。
此処には当分来れなくなる。
必ず全て終わったら会いに行くから
それまで待っててくれ!!!
玄関の扉を強く開け、
思い切り地面を蹴るように走り出す。
密かに兄であるゴッシュに全て打ち明けていた。
悩み、憎しみ、怒り、
ホットソープの有様や建設途中の
ヴァリングスの事情。ヴェスターがこの数日で
味わった事を涙1粒で語る事は出来ない。
ヒートリンスへの恨みは募っていくばかり。
そして、いよいよ
運命を左右する決行の時間に。
****
ヒートリンス、屋上――。
ヴァリングスを建設している様子を眺めている
ルミナと社長オランド。
やはり私の計画に狂いは無い。
この調子で行けば3、4カ月後には必ず。
ねえ、貴方……
本当にヴェスターさんに何にも
してあげなくて良いの? せめて
彼の両親のお墓参りに。
諄いぞ!!
勝手に死んだんじゃないか。
お前も余計な事する暇があるなら、
きちんと秘書らしく私の指示に従うんだ。
その時、瞬時に
屋上の扉を開ける音を感じ取り
事前に社長の元に連絡をしていたヴェスターが
何やら覚悟を秘めた表情でやって来る。
ふん。ようやく来たか……
こんな場所に呼び出した訳を
聞かせて貰うぞ。
そんな事で呼び出したのか?
何回でも言うけど、もう始まってる
施工に対して釘を刺すな。私は
ホットソープの住民に期待されてるんだ。
だから、何だよ!!期待されてるからと言って、家族の家を
ぶち壊してまでやる事か。と
聞いてるんだ!!
落ち着いていられるかよ!
お前には分からねぇよな。ミルフって
言った娘がいるんだから。オレには兄しか
頼れる人が居なくなったんだぞ!!!
お前、その腕に
嵌めてあるのは
リンクリングか。性に合わない物を
身に着けてると思えば……
じゃあ、聞かせてくれ。
何人の人と絆や交流を深めたんだ?
その顔見れれば充分だ。
もう言わなくて結構。情けねぇな……
その時、自分の怒りが頂点に達してしまい
ヴェスターはオランドを屋上から
突き落としてしまった。
彼の身体はまっすぐに落下し、
ヴァリングス建設用の資材に頭を強く打ち付けて
そのまま他界してしまう。
ざけんじゃねぇよ!!!
人の不幸をどこまで嘲笑うんだよ。
死んで当然だ。性根が腐ってやがる。
…………。
最後にもう1回聞かせてくれ。
本当に怖くないのか?
うん。って言ったらウソになるかな。
本当言えば怖い。だけど貴方を一瞬にして
不幸にさせた罪は重いもんね。
ホットソープはどんな人も幸せになれる
コンセプトをテーマに掲げて来たのよ。
そういう場所に私達が居たら、せっかくの
ヴァリングス建設が台無しになるわ。
これは、私と貴方の約束。
ヴァリングスが完成したら
必ず入湯して、これからを幸せに生きる事。
そして、最後まで迷惑かけてゴメンね。
私も幕を閉じるわ。
このホットソープを活性させるが故に
掟を破ってまで救いたかった。
社長と言う立場を使って、温泉宿施工を
割とあらゆる方向で進めて行く。彼の側に
ずっといながらも止める事が出来なかった。
間違ってる事をしてる。と悔やんでいた。
絶対にこの罪からは逃れられない。
ヴェスターの将来、そしてヴァリングスの未来に託し
ルミナは足場にゆっくりと向かい
そのまま笑顔で落ちて行く。
急いで2人の様子を見に、屋上を後にし
正面玄関口と非常階段近くに横たわっている
彼等が亡くなっている光景を
目の当たりにする。
これがヴァリングスの誕生に纏わる
過去の全貌だ……。
済まねぇな、シルドラ。
お前の両親は悪くなかったんだ。
それを当の今までオレは……
何でだよ!!オレはお前のダチであるシルヴェスを
殴ったんだぞ。それにミルフの両親までも
手にかけた。そんな犯罪者の何処が
好きなんだよ!!!
だって、最後まで戦ったじゃないですか!
それって本当に家族と共に生まれ育った
ホットソープが大好きだから
だと思いますよ。
確かに他に方法はあったのかもしれない。
僕もミルフさんと一緒に冒険してるから
1回位顔を合わせたかった。だけど……
僕の両親、そしてルミナさん……
ヴェスターさんをずっと守ってくれた
じゃないですかっ! その想いを
ホットソープの未来に繋いで行って
くれると嬉しいです!!
もちろんですっ。
ヴェスターさんがリンクリングを
所持している以上、必ず導いてくれますよ!
"
大好きなこの温泉街がいつか花笑む場所になる事を。"
そうか。やっぱりお前には勝てなかったな。
オレを改心させるとは凄いぜ!
シルドラ、ありがとな!罪を償っていつかホットソープを更に
盛り上げてやると誓ってやる。
もちろんだ!!
シルヴェスや皆に謝らないといけないな。
ヴェスターは悪人ではなかった。
ただ素直に温泉が大好きで
父親といがみ合いながらも
一緒に過ごす瞬間が大好きで
家族をとことん愛する熱い男。両親を巡る過去と
必死に戦い抜き、最後まで信じ抜いた。
いつか、彼は必ずホットソープを更に活性化させ
後にティブルエイドの港町ビューウェーブで
開催される名誉たる授与式で起きる "事件" で
更なる活躍してくれるのは、また
別のお話――。
この声、エンディアさんですよね……
でも、何で悲鳴を上げてるんですか?
あっ! もしもの保険の為に
もう1匹リブマッドを檻の中に
匿っているの忘れてたぜ……
早く助けましょう!
じゃないと、手遅れになっちゃいますよ。
3階、会議室――。
檻に閉じ込めていたリブマッドを前に
腰から崩れ落ち、その場から動けなくなっている
エンディアの姿が。
り、リブマッド……!
まさか、もう1匹居るなんて!!
く、くそっ。足が震えて
思うように身動きが取れない……
ど、どうすれば良いんだ?
エンディアさん、助けに来ましたよ!
待たせてすみませんっ。
何だよ、情けねぇな。身体大きいくせに
リブマッド怖がってるじゃないか……
色々済まなかったな。
今檻から解放してやる!
獰猛だけど、接し方1つで可愛いんだぜ。
シルドラ、お前もしかして……
改心させる事に成功したのか?
もちろんですっ。
もう、ヴェスターさんは大丈夫ですよ。
後で一緒にリンクリングするんで
今から楽しみなんですよー。
よし。鍵を開けて今ヤツを解放してあげた。
もう大丈夫だぜ。本能的に自分の
居場所に帰った筈だからな。オレが
手懐けたから間違いない!
お前もありがとな!
何だ。ヴェスターの笑顔も最高じゃないか。
もう悪の気配は感じ取れない……
それなら俺の友達だ。良いな?
さあ、ヴァリングスに帰りましょう!
皆が待ってますよー。
次回、ヴェスター含むヴァリングスの
従業員、シルドラ達を踏まえたホットソープの
今後の発展を願い、食事処 "囃子ノ宴" にて大宴会開始。
****
一方、その頃……
えーっ!
ここ森の中だよね。なんか
出て来そうで怖いよっ!!
お兄ちゃん、何とかしてよー。
くんくん。
ほら、この辺り空気の匂いが変わったぞ。
もしかしたら目的地は近いかもしれない!
と、言う事は
もうすぐホットソープに到着するんだね。
ちゃんとした小道ではなく、
森の中にある獣道を移動してた狐族の3人。
ティブルエイドは全く無知。初めて行く場所に
戸惑いを隠せず、もうすぐ目的地に到着すると思い
方向を無視し、近くにある茂みを通ると
少し広がりを見せる空地のような
広場に辿り着く。
ちょっと、ランザー。
違うじゃないの! 貴方の嗅覚って
ホント頼りにならないんだから。
ただの空地じゃない……
レルナ、ヒューナ……
俺の背後に隠れろ。誰か居るぞ。
彼等には何にも無い空地のように見えるけど
此処には昔、とある町があった。
ティブルエイドは緑に恵まれ、
五感を感じ取れる様々なスポットが点在する。
それこそ海や森、自然が生み出した鍾乳洞、洞窟など。
その大陸の中でも特に、
この土地らしからぬ1つの町が存在した。
町の名は "シノヴァルド" 。
今は禁じられた場所と認知されている。そこで
何かを思い浮かべながら空を見上げていたのは……
貴方達、ここは神聖だった里
シノヴァルドです。輩が揃って立ち入る
場所ではありません。気が散るので
颯爽と立ち去ってくれませんか?
突然、話しかけてそれは無いだろ。
礼儀って言うモノを知らないのか?
まずは名前を教えろよ!
部外者に教える程、馬鹿ではありません。
ただ、礼儀と言う言葉に弱いので
正直にお教え致します。
私の名はグレンド。
フレンドモンスターの1匹で、現在任務中の
主の帰りを気長に待っている者です。
特徴的な耳、尻から生えている尻尾。
貴方達、スティンゼアに棲む狐族ですね……
いや。ただ懐かしんでるだけです。
私のお師匠の事を思い出していました。
名はテンゲン。言葉遣いから沢山の
知識を吹き込んでくれた事、今でも
鮮明に覚えています……
あっ、テンちゃんだね!
今、五変妖精のオルミちゃんと一緒に
悟りを開いてると思いますよー。
えっ!?お、オルミ様ですか……。
そう言う事でしたら、一刻も早く
シルドラさん達をスティンゼアに
招待しなければいけません。
さもなければ、彼の両親が居る
牢獄島への道が断たれてしまいます……
あの妖精達はそこへ繋がる "役目" を。
狐族3人と思わぬ
邂逅を経て、
物語は新たな局面へ。
ホットソープ編完結まで残り2話。
衝撃的過ぎる展開が待ち受ける40話に向けて
第039話へ続く――。
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