第078話:ティブルエイドの全貌!一悶着を巡るシノヴァシア襲撃の真相!!(後編)
文字数 7,994文字
(中編のあらすじ)
アレドシアとヴェスターによる
急襲に遭ってしまった忍者の里"シノヴァシア" 。
2人の猛攻が次々と師範達、森の巫女族の皆に
襲い掛かる中、シモンとイムラが打破されてしまい
マツカゼ宅内にいるブラウン達に容赦ない
魔の手が迫ろうとしていた。
そして、ギンジの邸宅に
向かおうとしていたブルーノを見つけてしまい
家族を失ったアレドシアと同じ思いをさせようと
彼に急接近を果たす中、息子を守る為に
ギンジの腹部に家宝の剣が貫通されてしまう……。
両長のヴァル・ルミシーも
生前のアレドシアの父親に第3者の手により
狼族の捕虜を依頼されていた事も知らずに、事態は困難を増す。
こんな静寂と化した場所じゃ
誰の助けも来ないよな。潮時じゃないのか?
オレは狼族を治める
長。
見ず知らずの人に答える義務は無い。
ははっ。お得意の牙と爪で
攻撃して来ても良いんだぜ。それで
アレドシアの両親含めて使用人も
亡き者にしたんだろ?
あの現場には俺達も出向いた。
今は物寂しい城だけど、所々に痛々しい
生傷の跡が残っていたな。
オレは何にも知らなかったんだ。
それなのに、里の皆は勝手に……
ふん。そんなの
粗方オメェを守る為だろう。
巻き添えにしたくない一心が
招いた悲劇と言う所かな。
只、アレドシアだけは延命してしまった。
その褒美として牢獄島の獄長に
一族の名を使い連行命令を
発出したんだろう。
まぁー、責任を感じてるんだったら
大人しくオレ達に付いて来るんだな。
横にいる巫女族に危害を加えるまでだ。
何、口答えするの?
えっ!?だ、駄目だよ。行ったらもう2度と
会えなくなっちゃうんだよ!?
ごめん。でもオマエが
傷付けられる姿は見たくないんだ。
里の者の責任は長であるオレが
片を付けないといけない。
おい、アグニブ。
丁重にフェルマータ城へ連行しろ。
あの閉ざされた扉の向こうに監禁しとけ。
ああ。ちょっと
空大陸で気になる動きがあってな。
まぁー、最近
領空侵犯を仕出かした
空賊が居るみたいだ。せいぜい
気を付ける事だな。
未だ名前も知らない彼は常に
世界の情勢を知り尽くし、ほんの少しの動きが
あっただけでも自分の目で確かめるまでは
信じる事が出来ず、ヴァルを捕虜し
フェルマータ城へと連行しようとする最中でも
一緒に行動を共にするアグニブに
全てを委ね、その場を後にする――。
そして、もう会う事は無いだろうと察し
ヴァルは長の関係に止まらず、友達同士でもあった
巫女族の長ルミシーに最後の挨拶をする。
ルミシーちゃん、皆に宜しく!
ここで一旦お別れだね。
いっぱい遊んでくれて、ありがとね。
楽しかったよ!!
逆らったら何を仕出かすか分からない。
住民達に代わり、長であるヴァル自身が責任を取る。
その1つの勇気を振り絞って
皆に別れを告げ、いつか来る "彼の処刑" に向けて
彼の時計の針は現代へと動き出す――。
※ この後、ヴァル=バーンズの
時間軸としての次話は第016話となります。
ヴァルサイドの一悶着の全貌、
これにて伏線回収完了。
****
息子のブルーノを守るべく
アレドシアの右手に構えた家宝の剣を腹部を
貫通する形で受け止めてしまったのは父親、ギンジ。
今の一部始終を見ただろ。父親として息子を守るのは当然の事だ。
父さん、しっかりしてくれよ!!!
俺はまだ長なんかに……
そうだ。所詮は子供。
長の地位に就く器なんてありはしない。
き、貴様が
長殿の腹部に剣を刺していなかったら、
このような事態に陥ってない。未だ現役で
この里を最前線で守ってくれていたんだぞ。
こらこら。そんなに怒るでない。もう少しで
拙者の命も終わりを迎えるだけの事だ。
駄目だ。
終わりだなんて申すな。
今、シャノンを連れて参る。
雪の上に横たわり、
大量出血、そして意識が朦朧としていく中
ギンジは最後の力を振り絞って
自宅に向かおうとするマツカゼの腕を
ギュッと掴み始め、首を横に振りながら
自分への治療はしなくて良いよと
何処か優しい笑顔で彼を引き止めてしまう――。
もう、良いんだ……。結局は長としてアレドシアの狼族への恨みを
改めさせる事が出来なかった。
彼を改善させる為には優しくて、何処か純粋な者に限るだろう。
拙者はその性格に属してなかっただけの事。
この世界は広いからな。必ず1人位は彼の理解者が現れる筈だ。
その日を夢見て、拙者は幕を閉じ……
ブルーノ、彼はもう息をしていない。
他界してしまった。
やはり命と言う物は儚いな。
全て、私の指示通りに動いていれば
この里も平穏な暮らしを遂げていたのに。
お前のせいじゃないか!!!
その剣で、全てを終わらせんだろ!?
くっ。息子なのに何にも出来なかった……。
庇ってまで俺を助けてくれたのに
感謝すらも言えないのかよ。
アレドシア、お前を殴ってやる。
この恨みを全て拳に……
よ、止すんだ!!!
憂さ晴らしをした所で、何の解決にも……
ギンジを殺され、
恨みが詰まった拳をアレドシアに向けて
父親と同じ痛みを、そして人生訓や誠拳道を
無視してまで、殴る事しか考えてないブルーノは
彼の元に駆け出すけど、その右手を
ガシッと掴まれてしまう。
あ、アレドシアだ。
そこを退け。ギンジを亡き者にし
里の平和を奪ったお前等も一緒に殴って……
ブルーノ、
気をしっかりと持つんだ。
ギンジ殿の意思を受け継いで欲しい。
拳で全てを終わらせようとするな。
ヴェスター、遅かったな。
奴の姿が見当たらないけど、捕らえたのか?
その件について、彼から話があるそうだ。
しっかりとヴァルを連れてるな。
当たり前だ。テメェの父親
シルギムからの命令は絶対案件だからな。
ここじゃ言えねぇ。
ちょっと離れた場所に工事現場がある。
そこまで付いて来てくれ。話してやる。
勿論。それにテメェからは罪の匂いがする。
そういう奴は大歓迎だ。
里の偉人が亡くなって意気消沈してる所か。
それなら、オレ達は邪魔な存在だな。
さっさとトンズラするぞ。
ふーん。こんな状況下でも
こんな狼の未来を期待しているとはな。
何処をどう見ても、人に害を成す生き物だ。
裁かれない方が可笑しいぞ。
そんな事より、
今は里の皆を救ったらどうだ!?
お前の家中でも、大いに暴れ回ったんだぜ。
オレなりのお
灸を据えてやった。
只、退屈な時間もブラウンだけは違ったな。
彼等は何も成す術も無く
狼族の長ヴァルはアグニブによって捕虜され
アレドシアとヴェスターの手により里はほぼ半壊状態。
圧倒的な実力を
見せ付けられてしまい完敗。
失ったモノはデカい。何かが壊された訳じゃなく
1人の命が尽きた。雪が降り積もる地面の上で
寒そうにギンジの身体が横たわっている。
ヴェスターの魔の手により
マツカゼ宅の庭付近で倒れていたシモンとイムラ
そして、和室で倒れていたブラウン達も
気絶から目を覚まし、外で師範2人と合流していた――。
もうっ! 無断で
人の家に入るなんてダメなのにー!!
俺達が気絶させられていた最中に
お前等も同じ目に遭っていたとはな……。
ボクが皆を守ったんだよ!!おしっこチビりそうだったんだけど。
そうか。勇気を振り絞って人前に立つ。
なかなか出来ない芸当だ。
100点満点だな。
ああ。後はお前達が
一足先に逃がしてくれた
ヴァルと合流すれば俺達の完全勝利だ。
程々にしないと
前みたいにマツカゼ様にお叱りになるぞ。
別に良いだろ。
あの2人の撃退をした祝い酒と思えば。
あっ、ズルいー!!!
また2人で酒の席を設けるなんて。
ボクも参加したいのにー!!!
ふふっ。今日は全員で卓を囲もう。
思う存分楽しめばいい。
しかし、彼等は未だ本当に起きた "里の悲劇" を知らない。
てっきり気絶から目を覚ました頃には
ギンジとマツカゼがあの2人を
追い払ったと思い込んでいる。
ただ、最悪な脚本がこれから始まる。
その瞬間は間隔を置かず、突如として
巫女族の長ルミシーの泣き声が里に響き渡ってしまう。
ぎ、ギンジ様!!!
お願いです。目を覚まして下さいっ!
ギンジ殿の
邸宅前から聞こえる。
まさか……
シモン、行くぞ!!!
お前等は来るな。もしかしたら
見たくない光景があるかもしれない……
わ、分かった。
まだコレッタが完治していない。
ここで療養させながら待たせて貰うよ。
シャノン、お願い出来るか?
やはり、彼女が泣き声を発していたのは確かだった。
これは大事だと、
師範の2人は何かを察知し
一目散に地面に敷き詰められている雪に
思い切り足跡を残しながら邸宅前に向かうと
気持ちが落ち込んでいるブルーノ、師範代表マツカゼ。
そして、眠るように
良い笑顔で天国に旅立ってしまったギンジの姿が。
おいおい、嘘だろ。
情けない面で寝てると風邪引くぞ。
何で死んじまったんだよ!!!お前と一緒に交わす酒が楽しかったのにさ。
ギンジ様、起きて下さい!!!
ボク達を置いて逝かないでよー!!!
ぐすん。
僕達の元にはヴェスターが居たんだ。
長殿にとどめを刺したのは
彼しかいないだろう。
ごめんなさいっ。
ヴァル様も彼等に連れて行かれちゃったの。
マツカゼ様、彼等がヴァル様を
如何にして処刑するか聞いてませんか?
『来年初旬に新メンバーが入る。
その者達と計画を綿密に話し合い
処刑方法を決定する。日時は未定だ。』
それに、拙者達は
彼等の支援をしない限り
今度こそ里を潰しに掛かるともな。
何処まで卑怯な輩なんだ。
冗談じゃねぇ!!! 何で
奴等の計画に加担しないと行けないんだ。
な、何で僕の父さんが
死ななくちゃいけないんだよ!!!
雪が積もった地面の上では寒くて可哀想だ。
シモン、イムラ。取り敢えず今は
ギンジの遺体を丁重にブルーノの
自宅に運んでくれ。
わ、分かった!!!
シモン、こっちを支えてくれると助かる。
この雪が解けた頃に
改めて地面を掘り起こし埋葬するとしよう。
その方が彼もきっと喜ぶだろう。
こんなに里の者にも支えられて
天国へ旅立って行ったギンジもきっと幸せだろう。
残念な結果として
狼族の長であるヴァルは捕虜されてしまった。
しかしながら、
師範含め里の者や森の巫女族は命拾いをした為
まだ逆転の余地はあると、今は壊滅させられてしまった
里の復興を目指し、今再び生計を立て直しながら
いずれ来る "その時" に向けて
彼等は新たな1歩を踏み始める。
それでも、ブルーノだけは
ずっと側に居た父親が旅立たれてしまった事で
急激な心の変化と喪失感に押しつぶされていた。
今の彼に
何て言えば良いんだろう……。
少しソッとして置こうっと。きっと
心を落ち着かせる時間が必要だよね。
****
そして、時は春を通り過ぎ
季節は夏――。
熱い日差しと共に
港町ビューウェーブに停泊中の
豪華客船に乗船しようとしている
ブルーノの見送りに師範代表のマツカゼと
町長のアジールが波止場で会話を交わしていた。
まさか、
長自らアレドシアを
改善させる御方を探しに行くとは。
はい。きっと
父さんも長である自分を
天国で見てくれていると思うので
誇りであった父さんを越える為に
名に恥じない姿を見せる努力をしようと。
ブルーノ殿、ミムは
貴方の帰りを気長にお待ちしておりますよ。
うむ。其方が戻って来るまで
この猫は拙者がお世話をして置くぞ。
分かりました。ミムは
裏山に生えている竹の削り節が大好物なので
朝昼夜、3食の餌与えの方
宜しくお願いします。
ブルーノ様、
フレンドモンスターと過ごすようになって
より命の尊さを知った君なら必ず同じ
意見を持つ心良き理解者が現れる筈。
ブルーノ様、
ちょっと両目を拙者の前に出してくれ。
見ず知らずの人に出会う訳だ。
少し細工を施そう。
ブルーノは
少しばかり不安になりながらも
マツカゼに呼ばれるまま両手で
両目を塞ぎ、知的で尚且つ
人相学的で言うと頑張り屋で粘り強く
相手の気持ちを考える優しい男性と思われる為に
ちょっとした御呪いを施し、第一印象を良くし始める。
ま、マツカゼ様!?
ぼ、僕の顔が可笑しくなってるんですけど。
うむ。より凛々しくなった。
これで心置きなく其方を見送り出来そうだ。
此処から其方の台詞は
漢字無しの片仮名・平仮名表記だ。
作者の粋な計らいを堪能してくれ。
斯くして
ブルーノは港町ビューウェーブの波止場で
マツカゼに揶揄われながらも、クロスウッド行きの
豪華客船に乗り、大陸ティブルエイド発の
約2時間の船旅が始まった。
その頃、彼を見送った
町長アジールが所持していた遠距離でも
通話が出来る端末を耳元にあて、彼と会話をし始める。
あっ、フロスト兄さん!!
こうやって話すのは久しぶりだよな。
あ、あれ、グラス!?
珍しいな。クランチャードに来てたのか?
まぁ、グライド研究所の再建が完了し
新人研修の日々が続いてるから、
これからの未来を担う若手の卵を
育てるのに、少し位は
気分転換も必要だろ。
はぁ。まったく
くだらん!なんて言っていたあの日々が
今思えば懐かしい程だぞ。
出た。グラス兄さんの口癖。
俺も昔は目一杯言われてたな。
で、いきなり通話して来たって言う事は
何か良い報せでもあるのか?
聞いてくれよ!!!
お前と似た答えを出した奴が居たんだ。
ふふっ。成程。
その様子だと冒険者の卵として
フロスト兄さんのお墨付きを
発見したのかな?
さっきから感極まってて
俺の脳裏はそいつの事ばっかりなんだ。
早くお前に会わせてやりたいって
さっきから連呼しっ放しでな。
だって、冒険者は色んな事出来るんだよ!?
色んな大陸を冒険して、仲間作ったり
それが年を経て立派な人生の
思い出になるんだ。俺は彼の
旅路をサポートしていてな。
****
そして、豪華客船のトイレ。
所持していた護身用の剣を
便座の横に立てかけるように置きながら、用を足していた。
ふう。ビューウェーブからたびだって
どれぐらいじかんがたったかな?
【船内アナウンス】
本日はアクアホープ豪華客船へのご乗船
誠に有難う御座います。乗客の皆さまに
お知らせいたします。当船はまもなく
クロスウッドへと停船致します。
御上陸のお客様はスロープの方迄
お越し下さい。
そう。彼が家宝の剣を失くした瞬間はこんな流れだった。
それからスタッフの方に拾われるまで
そんな時間は掛からないだろう。
近くの洗面台で
石鹸を念入りに沁み込ませて綺麗に洗った後
彼はもうすぐ辿り着くクロスウッドが見える甲板に
置かれている長椅子に深々と腰を下げる。
よし。あとはクロスウッドに
じょうりくしてぼくのりにかなった
りかいしゃがいればいいんだけど……。
後は降りるだけと
身の回りを見て忘れ物が無いか、と
確認すると、彼の懐にさっきまで所持していた
家宝の剣が無い事に気付き、慌てふためいてしまう。
あっ、あれ!?
ぼくのかほーがなくなっちゃった!
もしかしたらあのトイレにおいたままかな?
いそいでみつけないと
マツカゼさまにおこられちゃうよー。
その後、無事に
クロスウッドに辿り着いたものの
ブルーノは停船時間内に無くした物を
見つけ出す事が出来ずに、そのままティブルエイドに
戻る事になるけれど、その行為がまさか
あんな出会いに発展するとは――。
もうピュアブルーが見えないなー。
出港してから時間経ってるし、
当たり前かあ……。
でも、この先にティブルエイドがあるなんて
今からワクワクだなあー。
早くこの目でみたいよっ!
そんな時、
ちょっとふっくらした和風な着物を
身に付けている男子が泣きながら甲板へとやって来た。
君、どうしたの?
僕で良かったら聞かせてくれないかなー?
答えられる範囲だったら何でも良いよー!
ぼくのかほー(家宝)が
なくなっちゃったんだよー!
おにーちゃん、いっしょに
さがしてくれない?
そう、これが
冒険者シルドラとの出会いの物語。
そして現在は……
レブロンさん、
待っていて下さい!!
僕が貴方の心を必ず取り戻してみせます。
数々の勇気の試練や
色んな人との交流を経て、此処まで成長出来た。
仲間と呼べる存在が様々な絆を1つに繋げて来た。
彼はブルーノにとっての理解者。
きっと、ギンジも自分が出来ずに終わった
アレドシアへの想いの吐露、シルドラなら出来るだろうと
天国から見守ってくれている筈。
いよいよ
フェルマータ城編大詰め。
最終決戦は間近。先ずはレブロンの元へ急げ。
※ ブルーノとシルドラの出会いに関する
詳しい内容は、時間軸として繋がる第02話をご覧下さい。
これにて、一悶着の全貌は
全て伏線回収完了。
第079話へ続く。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)