第097話:青空と空賊のクライシス(ファイル:奪取)
文字数 5,687文字
前回のあらすじ。
インディム街道を急襲した
空賊『デッドアッシュ』狙撃手のハドリスに
実行犯のヴァレッド。彼等の矛先は由緒正しき王冠。
上空を漂う飛空艇『ホークスオッド』の
様子を伺っていたダリアが捕獲されてしまい、
更には奪取の阻止をすべく立ち上がった
レブロン・ライガー筋肉組の
2人でも敵わないようで――
吐血するまでに発展した
ヴァレッドとの争い。
今その全貌が明らかに。
物語は空大陸から立ち去れと
レブロンとライガーが吐き捨てるかのように
断固拒否した時間まで遡る。
****
ライガー、
先ずは態勢を崩すぞ。
足元を狙う事だけに集中しろ。
一斉に2人はヴァレッドの元に駆け出し
ライガーは左側、レブロンは右側から
50m走7秒代の記録を所持する
キレのある走りを交互に行い、1番手にライガーが攻撃を仕掛ける。
藪から棒に走りやがって
オレが何の対処も無しにずっと此処に
突っ立てるとでも?
…………!!!
ま、不味い。足を押さえられたら終わりだ。
くそっ。今は余計な事を考えるな。
身体で動け。右足で奴の大腿四頭筋を――
しゃがんだ態勢で
足元に狙いを定めた攻撃を仕掛けて来ると
咄嗟に読み取ったヴァレッドは
ライガーの毛髪を睨みを利かせて思い切り引っ張り上げる。
い、痛てえだろ!!!は、早く離しやがれ、クソッ!!!!
ああ、良いぜ。
このままお前の体をレブロンに投げてやる。
彼の体重は
98kg。
軽々と持ち上げられる程の
鍛え上げられた腕力、利き手である右手で
迫って来ていたレブロンの腹部にライガーの身体を投げ付ける。
そのまま2人は地面に倒れ込んでしまい
走り込みの疲労と腹部への苦痛が徐々に襲い掛かる。
ヴァレッドに指一本も触れられない。
アレドシア以上の強敵と言われる程の実力者。
そんな奴に敵うのか、と必死に痛みを堪えながらも
相手の強さに絶望と挫折を味わう事に。
髪の毛引っ張られたんたぞ!!!平気な訳無いだろ!!!
何だ。お前等の実力はこんな物か?
楽しませると約束したよな?
う、うるせぇ!!!投げ飛ばされた時の後遺症が残ってるんだ!!
そうか。
なら無理に動かない方が良い。
大人しく疲れ果てた体を休ませる事だな。
おい、レブロン。足を掴め。絶対に中央広場へ行かせるな。
そんな
妄想劇を語る余裕があるなら
オレを攻撃したらどうだ?
出来もしないで口だけで言うのは簡単だ!!
行動で示せ。そんな汚らわしい手で
オレの足を掴むんじゃねぇよ!!!
だ、黙れ!!!こっちには守らないといけないモノがある。
お前如きに分かってたまるか!!!
ははっ、そうか。
なら全て守りきれるんだろうな?
仲間、王冠、そして空大陸の未来の3つを。
必死の2人の抵抗もヴァレッドの前では無理難題。
倒れ込んでしまった2人は彼の足元を掴み
中央広場へ向かう行為を阻止しようと努力を目論む。
只、今まで出会った誰よりも絶対に
敵に回してはいけない。
特に繊細な性格をしているシルドラに
天然で腕白過ぎるブラウン等、仲間を守る為にも
身体を引き摺ってまで守り抜くと心に誓うけれど
圧倒的な力を見せ付けられてしまった。
****
中央広場、王冠特別展示会場前。
ああ。この中央広場は災害時の避難先。
東西南北に繋がる道の中央に位置するお陰で
地域住民や業者の方々も安心して
此処へと避難出来る。
でも、この混み具合は
尋常じゃないぞ!!!
空大陸の人口ってどれ位なんだ!?
多くも無ければ少なくも無いな。
ざっと300人程度だ。
でも、空賊の襲撃が
また何時起きるか分かりません。
今は出来る限り皆で纏まっていた方が――
うーん、そう言えば
オリバー君が見当たらないんですけど……
あっ、彼ならお手洗いに行ったよー。
すぐ戻るって言ってた気がする!
多分、用を足し終えて
手でも洗ってるんじゃないかなー。
あっ、そうだ。彼の
ハンカチにパンダの絵が描かれてたんだ。
もしかして、好きな動物なのかな!?
何、心配してるんだよ!!!
アイツもお前と一緒で男なんだ。
用足したらすぐ戻って来ると思うぞ。
いや、違います。僕は
そう言う事を言ってる訳では無くて……。
さっきまで迷子になっていた
彼が1人でお手洗いに向かったので
僕に偽りの顔でも見せているのかと……。
臆病って言うのは
演技の可能性が浮上して来ましたね。
オリバー君に限ってそんな真似事
絶対に無いと思うんですけど……
それは絶対に無い!!
シルドラ君の勝手な思い込みだと思うよ!!
そうですよね。神とまで
崇めてくれた彼を
絶対に疑ってはいけません。
うん!!!
彼は推しを愛してやまないファンの鏡。
表情を偽って交流するのは推し活じゃない!
それにレブロンさんと
ライガーさんが必死になって
悪者を懲らしめる為に対峙してくれてます。
固唾を飲みながらも
空賊ヴァレッドの猛追を阻止する
ライガーとレブロンを見守るけれど、
成す術も無く倒されてしまい
必死に足を押さえながらも中央広場へ
向かわせないと傷だらけになりながらも挑む
2人の有様にブラウンとミルフは見ていられなかった。
何、言葉に詰まってるんですか?
正義を貫く拳の所持者ですよ。
あの2人は絶対に負けません。
何時までオレの足を
掴んでるんだよ!!!
さっさと諦めろ!!!
2人を追いて逃げるなんて
ぼ、僕には出来ません!!!!!
そうだよな。こんな所で
へばるような2人でもお前にとっては
大事な仲間。その絆のお陰でアレドシアは
やむを得ず改心させられたって言う訳か。
やむを得ず、って何だよ!!!
アイツの過去も知らないで良く言えたな。
その心の葛藤に寄り添ったシルドラの
努力を嘲笑うなんて恥を知れ!!!!
そんな事はどうでも良い。
成功は成功しか産み出さないんだ。
壁は打ち砕く為にある。オレは
その信念の元、親父と共に空賊を務めてる。
安心しろ。急所は外してない。
十分に息を吐ける余裕は残してあるさ。
…………。
お前が噂に聞く冒険者、シルドラだな。
このオレに
牙と拳を向けた事への謝罪要求。
歯向かって申し訳ございませんでした。
ここから先が、
56話で動かしていた本編の続きとなります。
****
既に所定位置にて待機中。
何時でも対象地点を沈黙にさせられるぞ。
指示通りの
催涙弾を
装填してるだけだ。
中央広場に煙を巻けば良いんだろ?
その
隙にヴァレッドが厳重警戒中の
目標物に警備の目を掻い潜り近付く寸法か。
そう言えば、
あの方から連絡が入った。
オメェ、ダリアを捕捉したってホントか?
偶然居合わせただけの事。
相変わらずの女装で余計に目立ってた。
ふっ。愛着してる
紅のドレスが仇となったな。
丁重にオークスオッドへ連れ戻せ。
空賊の
嗜みなのさ。
何処をどう見ても気持ち悪いだろ。
そんな時は奴の余興を楽しみ嘲笑うだけ。
気に食わない状況になり次第
そのまま身体ごと下海へと落とせば良い。
俺等、空賊の
元メンバーだからな!!!
勝手に逃亡しやがって、クソッ!!
ヴァレッドが中央広場にまもなく到達する。
それに誰かと口論してるようだ。
ツンツンとした
黒髪。
額に白黒模様のバンダナ。
黒を基調とした服装を身に着けている。
大体の
詳細は当たってる
筈だ。
お前の所からでも十分に目視出来るぞ。
中央都市スカイテラスの
上空付近を飛び続けている飛空艇『ホークスオッド』の
甲板で王冠奪取の一部始終を監視していた
頭領のエドガーは一目散に口論に達してた
息子のヴァレッドの様子を確認し出す。
あの方が空大陸の何処かに潜む
諜報員と同一人物かは未だ定かではないけれど
確実に言える事は、空賊『デッドアッシュ』と何らかの関わりが。
間違いない。彼こそが
ティブルエイドの英雄であり要注意人物。
名前はシルドラ=ロッド!!!
世間から注目される程の冒険者だ!!!
(
此奴が機関をザワつかせてる
クルディーとプリメラの息子か……。)
何黙ってるんだよ!!!
謝罪要求も伝えられないのかよ!!!
この2人は何も悪くありません!!!
謝るのは貴方の方です!!!
は? こっちは空賊なんだよ。
襲撃と略奪を生業としている職業なのに
そんな易々と謝罪なんか出来るとでも?
おい!!! お前今何したか分かってるんだろうな!?
ははっ。
邪魔者への制裁だ。
誰であろうが計画の邪魔するようなら
例え女や年下の冒険者だろうが
手加減だけは絶対にしない。
ポチッ(左耳に嵌めてるイヤホンのスイッチが入る)
【
あの方】
ハドリス様の所有銃が
中央広場の王冠ケース前に放たれます。
その算段に応じてとある方を
人質に取って下さい。
××××……。ヴァレッド様から見て右斜めに居る方。
把握して頂けましたでしょうか?
不味い!!!お前等、急いで王冠を守るんだ!!
残りの隊列は避難者全員の安全確保を!!
ふっ。何時まで威勢振ってられるかな?
ハドリスが
所有する銃によって発射された催涙弾。
その計3発は見事に王冠ケースの前に行き渡り
地域住民や居合わせた冒険者達は勿論
シルドラ達をも混乱を招く煙騒動劇へと発展してしまう。
混沌と化した
煙の中では全く前が見えない状態。下手に動くと
ヴァレッドに勘付かれて、邪魔者でも非情に
対処する彼の逆鱗に触れる恐れも大。
しかし、
是が非でも親父が望む「王冠」に執着した
計画を遂行する為にも、容赦ない卑劣な攻撃を浴びせて行く。
苦し
紛れに言うセリフか!?
馬鹿言うな。苦痛を味わった癖によ。
その時、この煙騒動で
皆と離れ離れになってしまった「人質候補」が現れる。
シルドラ君、
何処に居るのー!?
ボクは此処だよー!!!
だ、誰が来るんですか!?
この煙の中じゃ誰も身動きが取れ――
鴨が葱を背負って来るとは
こう言う事を言うんだな。手間が省けたぜ。
そうだ。お前を人質に取り
戴冠式で王妃に授ける王冠を奪い取る。
所謂、交換条件って言う手法かな。
その時はその時だ。
空賊に歯向かう敵とみなし徹底的排除。
オレ達の手荒い歓迎を受けて、その後は――
空大陸ごと、海へ引き摺り落とすまで!!
狙撃手ハドリス、
頭領エドガーの息子ヴァレッドによる
空賊『デッドアッシュ』の強力タッグにより
完膚なきまでに中央広場に波乱を起こして行く。
そして、猛追の矛先がブラウンに向けられてしまう事に。
次回、遂にシリーズ5部作完結。
開催中の王冠特別展示中に起きた襲撃が幕を閉じる。
その行く末を是非とも見届けて下さい。
第098話「青空と空賊のクライシス(鎮静)」へ続く。
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