第096話:青空と空賊のクライシス(ファイル:奮戦)
文字数 4,665文字
中央都市スカイテラス、
王冠特別展示会場、中央広場――。
前回のあらすじ。
中央広場スカイテラスに
無事に到着したシルドラ達は現在
戴冠式の前座である王冠の特別展示が催されている
噴水広場でミルフの旧友リザレアと再会し
自由に閲覧していると、かつてブラウンが
コンフェクトフェスティバル(お菓子祭)の大会で
審査員を務めた際の優勝者クレーヌとも再会を果たす。
日頃の労いとして
ミルフが自費で彼女の手作り菓子を奢って
皆と食しようと思った矢先、
少し離れたインディム街道の
高層住宅最上階に何者かが襲撃を仕掛け
空大陸に波乱の幕開けを告げる狼煙が上がり、同時に空賊も到着。
今、空賊エドガーの息子
ヴァレッドの魔の手が王冠に伸びようとしていた。
****
インディム街道。
飛空艇『ホークスオッド』から降り立ち
誰も居なくなった静観と化した軒下のお店を見つめる。
ちっ。誰も居ねぇ!!
オレに怖気付いて逃げたのか!?
手荒い歓迎を余興の
1つとして楽しみにしていたのによ!!!
空大陸の地域住民が精を込めて
一から育て上げた野菜・果物・穀物も
ヴァレッドが睨みを効かせるように積まれた箱を蹴り
自分の前に転げ落ちた綺麗な艶をしている
レッドクイーンと呼ばれる完熟の実を靴で潰す。
まぁ、いいさ。
此処は通過点に過ぎない。
厳重な警備態勢の中でも王冠を奪取。
邪魔者が来ても蹴散らすまで。ははっ。
****
場所は戻り
中央都市スカイテラス、
王冠を特別展示している中央広場。
インディム街道の襲撃から逃げて来た地域住民や
そこに偶然居合わせた冒険者が会場に
少しずつ溢れ返る場面に居合わせてしまう。
わっ!!!さっきから
人混みが凄いんだけど何かあったの!?
そ、それが大変なんだよー。
突然インディム街道が何者かに襲われてさ。
オイラ、臆病だからお店の他スタッフと
一緒にここまで逃げて来たんだ!!!
何でも良いんだよ!!!
身に着けている物、言葉遣いとかさ!!!
そんな事言ったって
オイラ、掃除の最中だったから
突然ドカンって爆発音が店内に響いたのを
耳にしただけで、何も目撃してないし
犯人の背格好とか分からないの!!
うーん。一体何が
起き始めようとしているんでしょうか……。
耳を
凝らしてよく聞いてくれ。
緊急事態だ。空大陸に空賊の姿を確認した。
く、空賊だと!?海賊のゼルガスみたいに良い奴なんだろ!?
馬鹿言うな!!
卑怯な手で財宝を得て富を欲する。
そんな奴に良心なんかあってたまるか!!
さっきから何処を探しても
オリバー君が居ないんだ!!!!
えっ!?この人混みで僕達と逸れたのでは……。
多くの人々が押し寄せ
もう既に中央広場はあっという間に大混雑。
その様子はもう自由に歩けない程。
大勢の人混みにオリバーが巻き込まれてしまい
シルドラ達と離れ離れになってしまう。
しかし、冒険者向けのお店が
隣接している通路まで響いていた「シルドラ」の声に
頼まれた買い出しを終えたライガーが
周辺の微かな違和感と共に気付く。
よし。これにて買い出し終了だ。
値段交渉してみるもんだな。
安く手に入れられたぜ。
シルドラ君、助けてーーーー!!!
僕はここだよーーー!!!
おいおいおい!!!
誰かが助けを求めてる声、だよな!?
中央広場で何か遭ったのか!?
いや、こんな
大型の鷹がこの世に存在してたまるか!!
私なんかに
構うより
さっきの助けを求める声の正体、
シルドラの連れの者だから助けてあげて。
路地裏から
突如と現れたダリアが
現在、この空大陸に空賊『デッドアッシュ』の
魔の手により襲撃されてる事をライガーに伝えると
彼は血相を変えて、その声が聞こえた
中央広場へと駆け出して行く。
ただ、ずっと
スカイテラスの上空しか移動していない
飛空艇『ホークスオッド』の状況を
何度も伺ってる彼も何処かと様子が可笑しい……。
私の女装をこっぴどく侮辱した
報いをエドガーとヴァレッドの2人に
与えてやるんだから、覚悟しなさい!!!
どうやら、ダリアには
空賊『デッドアッシュ』に忘れもしない恨みがある。
彼等の動向を常に確認しようと
上空を見上げてる間に、背後から音も立てず
見覚えのある特徴的な紅のドレスを目印に
獲物を刈り取るような目付きの
ハドリスが彼の元に忍び寄る。
両手を頭の後ろに置け。
まさか、こんな所で再会出来るとはな。
手荒な強制連行を許せ。
これは、あの方からの命令だ。
ダリアは
ハドリスが右手に所持していた散弾銃の
銃床と言う箇所で彼の後頭部を思い切り
殴り付けられてしまい、地面に横たわった体を
引き摺りながら、飛空艇が着陸する
合流ポイントまで戻り始める。
****
中央広場、混雑地点。
おい、テメェ。
俺の足を踏むんじゃねぇ!!!
痛い目に遭いたいのか、あぁん!?
何で僕を疑うの!?
周りを見たら分かるでしょ!?
皆さん逃げるのに必死なんだよ!!!
もし、推しのシルドラ君を
この算段に応じて傷付けたりしたら――
お前がシルドラの連れの者だろ?
叫び声がしたから助けに来てやったぜ。
筋肉は裏切らない!!!
鍛えられた肉体は嘘付かない
愛と鋼の超戦士、ライガーさん!!!
ここで会えるなんてマジ嬉しいいい!!!
おっ。
最上級の誉め言葉じゃねぇか!!!
これはきちんとシルドラ達の元に
送り届けないといけないな!!!
おい、そこを
退け!!!!
大の大人がはしたない声を出すな。
こいつは仲間と逸れてるんだぞ!!!
そーだそーだ!!
ライガーさん、もっと言ってやれええ!!
あ、あれ!?
皆、あそこを見て下さい。
ライガーさんとオリバー君が居ますよ!!
おい、見てみろ!!!
ようやくシルドラ達を見つけたぞ。
必死に声を掛け続けた成果が出たな!!!
ああ、もう!!!
空賊の襲撃、王冠展示の取り止め。
結局俺達は空大陸に来てもツイてないな。
くそおおおおおおお!!!
あたい等に
安息の日々は訪れないのかよ!!!
ボクが加わった初めての冒険を返してよー!
浮かれ気分が台無しじゃんかー!!!
ホント、お前等済まない。
ワタシ等の警備態勢が甘かったんだ。
ああ、そうだ。
指名手配犯、空賊『デッドアッシュ』
頭領エドガーの息子、確か名前は――
馬鹿言うな!!!アイツはアレドシア以上の危険人物だ。
血も涙も無い奴と一緒にするな!!!
そこを
退け。
オレはその王冠に用事がある。
歯向かったら怪我だけじゃ済まないぞ。
退くのはお前だ!!!!
この王冠は次期王妃に受け継がれる代物。
6日後に迫った戴冠式を
台無しにするつもりか!?
ふっ。空賊が
戴冠式を素直に祝うと思うか?
ここで王冠を奪いさえすれば
そんな大層な祝祭も開催出来なくなるだろ。
さあ、どうする!?
お前等の判断で全ての状況が一変する。
渡すのか渡さないのか、どっちなんだ!?
さっさと空大陸から立ち去れ!!!二度と来るな!!!
中央広場から南正門へ
直結しているタイル状の道路を力強く蹴り上げ
飾られている王冠奪取を意地でも阻止する為に
レブロン・ライガーvsヴァレッド戦
第1章の1番の見せ場、2人と強敵の力比べが始まる。
早くも空大陸編
第1章終了まで残り3話。
無事に王冠は守り切れるのか?
それとも空賊に軍配が上がってしまうのか?
初日の出来事がいよいよ終幕を遂げようとしていた。
うーん、そう言えば
オリバー君が見当たらないんですけど……
あっ、彼ならお手洗いに行ったよー。
すぐ戻るって言ってた気がする!
何、心配してるんだよ!!!
アイツもお前と一緒で男なんだ。
用足したらすぐ戻って来ると思うぞ。
いや、違います。僕は
そう言う事を言ってる訳では無くて……。
さっきまで迷子になっていた
彼が1人でお手洗いに向かったので
僕に偽りの顔でも見せているのかと……。
臆病って言うのは
演技の可能性が浮上して来ましたね。
オリバー君に限ってそんな真似事
絶対に無いと思うんですけど……
それは絶対に無い!!
シルドラ君の勝手な思い込みだと思うよ!!
そうですよね。神とまで
崇めてくれた彼を
絶対に疑ってはいけません。
それにレブロンさんと
ライガーさんが必死になって
悪者を懲らしめる為に対峙してくれてます。
何、言葉に詰まってるんですか?
正義を貫く拳の所持者ですよ。
あの2人は絶対に負けません。
安心しろ。急所は外してない。
十分に息を吐ける余裕は残してあるさ。
…………。
お前が噂に聞く冒険者、シルドラだな。
このオレに
牙と拳を向けた事への謝罪要求。
歯向かって申し訳ございませんでした。
空賊『デッドアッシュ』
頭領エドガーの息子ヴァレッド、圧倒的勝利。
シリーズ5部作、波乱なる襲撃はいよいよ大詰め。
次回、レブロン・ライガーvsヴァレッド戦の全貌大公開。
そして彼の魔の手は意外なキャラにまで。
第097話「青空と空賊のクライシス(奪取)」へ続く。
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