第064話:ブラウン頬張る団子!雨の茶屋と霧の森に迫る足音!!(前編)
文字数 5,760文字
ヤバい!!
シルドラ君がお手洗い行ってる最中に
お団子全部食べちゃった!!!
あっ。お皿を
下げて貰えば証拠隠滅出来る。
すみません。急いで下げて貰っても……
茶屋の軸となっている柱から
少しだけ顔を覗かせながら、
いつものようにブラウンを黒い表情で見つめるのは
キズワン恒例のあのシルドラの闇掛かった悪の顔。
ねぇ、ブラウン。鬼の居ぬ間に洗濯って言う言葉知ってる?
そう。怖い僕が居ない間にのんびりと団子全部食い尽くしたんだ。
何の断りも無く、勝手に平らげた。
此処の勘定は全部君持ちだから。
宜しくね。あははははは。
何でだよおおおおおお!!!
全部食べたのは謝るからさ、許してよ!?
【???】
合計300ジャラとなります。
支払いは現金でお願いしますね。
何本もお代わりするからだろ。
でも、マツカゼからお前の懐は温かいって
報告を受けてるんだ。あたい等
3人の分も払ってくれたら助かる。
只、支払えないならブラウンには此処で働いて貰って
僕達はフェルマータ城に向かうから。
分かった?
ちゃ、ちゃんと支払うからさ
ボクを置いてかないでよーーー!!!
前回のあらすじ
長きに渡って企てた
フランバージュの計画が遂に始動。
ティブルエイドの各所では
アレドシアの魔の手から被害を阻止する為に、
様々な動きを見せる。計画開始時間10時。
港町ビューウェーブ含め全土にフェルマータ城からの
中継が始まり、彼等が見てしまったのは
狼族の長ヴァル=バーンズの公開処刑。
正確な位置を刺した為、彼が死ぬまでの時間は残り12時間。
その間にシルドラ達は猛攻を抑え込み
無事に阻止し成功を収める事が出来るのか?
物語はその続きへ。
****
港町ビューウェーブ。
中央広場に突如として現れたモニターに
映し出されたヴァルの処刑シーン。一瞬にて
生中継を見ていた視聴者達に衝撃が走る。
おいおい、本当に刺したぞ!!!
見てみろよ。腹部から血液が垂れてる。
あーあ。もうアイツは死ぬな。
でもさ、狼族って
確か過去にビューウェーブに現れて
住民を襲撃した過去があるみたいだぞ。
葬って正解じゃないのか?
おい!!!
今の言葉撤回しろ。
お前等はアレドシアの味方なのか!?
あんなに苦しい表情をしてるんだ。
狼族でも立派に生きてる人間と一緒だぞ!!
アジール聞こえてるか。
同じ有権者同士でも、人々から
狼族は世間一般的に考えて恐怖でしかない。
お前は誰もが平等だと思える
意見の持ち主だけどな……
私は違う。現に
ティブルエイドでは狼族の
襲撃を受けて亡くなっている奴が他にもいる。
怖がられている存在だからこそ、
徹底的にこの大陸から我が一族の
力を使い抹消させた。
この右目に負った傷も、
その一悶着の際に遭った時のモンだ。
それ以来、
憎き者と認定し、お前達の共感を得る為に
水面下でどのように復讐するかを
私の計画に賛同してくれたメンバーと
一緒に企てて行ったんだ。
うおおおお!!!!
お前の行動は間違ってないぞ。
どんどん刺して殺してしまえ!!!
何なら
牢獄島の奴等に
死刑にして貰った方が事も早く
済むんじゃね?
もっと前の方で
アレドシア様の主張を聞きに行こうぜ。
それもそうだな。
おい、退け。そこのチビ!!!
群衆を
搔き分けてまで
狼族に恨みを持ち、この大陸から
徹底的排除を目論んで来たモニター越しの
熱いアレドシアの主張に心を打たれ、目の前に
洋服屋に勤める可愛い女の子が居ても
そんな事お構いなしに、押し倒しても前方へと走り始める。
おい、お前等!!!奴の手の平に踊らされるな、って……
この時点で、アレドシアが優勢。
現実世界で言う所の選挙。
立会演説を聞き、共感を得た人に票を入れる。
今、彼のティブルエイドの過去から現在まで
頭を悩ませて来た狼族の未来を決める
主張を生で聞き、今までアジールを
支持して来た者も彼の味方に――。
噴水広場に居る人数は全員で30人。
現在、アレドシアの支持者25人。アジールの支持者5人。
巻き返しは出来るのか?
****
フェルマータ城、1階。
アレドシアが
最上階のテラスで計画の全貌を
間近で眺めている間、グラッツは
ヴァールブルグ海賊団が所有する海賊船の避難をすべく
地下1階にいるゼルガスの収容エリアに
慎重に急いでいると、何処か
ソワソワとしているアッジと出くわす。
よう。アッジ。
どうした。額から汗が噴き出してるぞ。
アレドシアが仕掛けた
爆弾の位置を示した地図を見てたんや。
ああ。奴は計画が
どっちに傾いても爆破させる筈だからな。
この城同様、アレドシアを裏切った
シノヴァシアとヴァンウッドも
その標的にされているんだ。
その様子だと、
爆弾が仕掛けられた近くにアッジの
馴染みの場所があるって言う事か。
ヴァンウッドの森、忍者の里シノヴァシア周辺に
張り巡らせた幾つもの爆弾の数。
その場所を示した
アレドシア自作の地図をくすね
偶然居合わせたグラッツに初めて自分の素性を明かす。
ちょうどこの辺りや。
こう見えて、此処の川沿いにある
ちょっとした小店の主人を務めていてな。
今はワイの娘が切り持ってくれてんのや。
ずっと任せっきりで、今日も店の灯を
点けていると思うから心配やのう。
今はアレドシアの
側から離れる事が出来ん。
久しぶりに娘の顔が見たくなってな。
確かに。俺も早くこの計画を終わらせて
フレンドモンスターの牧場に
戻らないと行けないからな。
同じ境遇って言う訳だ。
何処か似てると思いきや
2人の帰りを待ってる人、或いはモンスター達がいる。
同士として
同じ境遇を持ち合わせている事に
ホッと一息出来たようで、本調子に
戻り始めるアッジはポケットから
煙草を取り出し、城壁にマッチを擦り付け着火。
タバコがその合図や。
しょーもない話に付き合ってくれて堪忍な。
****
同じフェルマータ城、テラス。
ティブルエイド全土に
処刑の生中継を行うアレドシア。
現在は腹部を刺され、苦痛を味わっている
ヴァルにカメラが向けられ、ビューウェーブの
噴水広場に設置されたモニターや映像が
再生できる機械等に、ヴァルの死を告げる
カウントダウンが表示されていた。
痛いだろ。
私も同じ痛みを狼族から味わったんだ。
お前もその気持ちが分かっただろ?
家族も温かい家庭も一瞬にして全て失った。
かつての城の活気も消え失せた。
私は天涯孤独となり、
お前を処刑する事だけを考え続けて来た。
一族の力は私の力だからな。
権力を以って制を成す、父上からの教えだ。
その時、
ポツン と
アレドシアの顔に一粒雨が当たると思い
空を見上げると……
彼の悔恨に呼応するように
少しずつ音を立てて、滅多に降る事が無い
大雨が港町ビューウェーブを中心とし、
ティブルエイド全土にザーッ と降り始める。
こういう日に限って雨か。
天気なんて気紛れだよな。
生中継が台無しだ。
と言いながらも、テラスを退出。
只、カメラを通しての処刑中継は続行。
びしょ濡れになりながらも、ゆっくりと
歩幅を小刻みにし、城内へと一時避難する。
それもその筈。彼にはまだやる事が残っているからだ。
アレドシアの計画は未だ始まったばかり。
****
フェルマータ城に向かう道中。
愉快過ぎるブラウンの陽気さとは
裏腹に天気はそう上手く行かない。
シノヴァシアを旅立ち、川沿いの小道を歩いてると
突然の大雨に降られてしまうシルドラ達。
えっ!?ボク達、雨具とか何にも持ってないのに。
何で突然降るんだよー!!!
服を少しでも濡らさないようにと
舗装されてない道を急ぎ早になりながらも
シルヴェスが偶然見つけた一軒の建物で
雨宿りさせて貰おうと向かう事、3分後。
うわああああああん。
服が濡れちゃったじゃんかー!!!!
【???】
この辺りは、川に生息する蛙達が沢山居てね
一斉に鳴き出すと、大雨が降り出す
言い伝えがあるのよ。
ふふ。お足元の悪い中
お茶屋「甘蜜」にお越し下さり
ありがとうございます。
【コトハ】
はい。ブラウン君も
元気そうな顔付きで何よりです。
うん。彼女はね
元々シノヴァシアに住んでたんだよー。
いつも美味しい創作菓子を
振舞ってくれてたんだ!
でもね、
とある時期を境に引っ越しちゃって。
すっごく寂しかったんだ。
心配させて申し訳御座いません。
別に深い理由は無いのよ。
私の父が
お菓子の修行から戻って来たのよ。
お茶屋を開きたい、って突然言い出してね。
でも、以前師範御三方揃って
私共の店に来店した事ありますよ。
言わなかったのかしら?
えっ!? そんな話
これっぽっちも聞いてないよ!!!
あっ、もしかしたら
このお茶屋が穴場だからだと思いますよ。
ふふ。正解。
食通のマツカゼさんに
お墨付きを貰えてね。彼の口から
ブラウン君には内緒って言われたのよ。
「コトハ殿、此処の
××は拙者のお墨付きだ。
今後も贔屓にさせて頂くぞ。」
「只、こんな美味しい物
ブラウンの口にはもったいない味だ。
彼には黙って置くとしよう。」
勿論です。
身体を拭かないでいると
風邪を引く可能性がありますからね。
あら。立派な音ね。
匂いに誘われて鳴き出したのかしら?
あー、もう我慢出来ない!!!シルドラ君、せっかく立ち寄ったんだよ。
此処の名物食べて行きたいんけど
良いかな?
もちろん!
序に
雨が止むまで少し休憩しましょう。
ブラウン、ちょっとこっちに来てみろ。
色んな種類の団子って言う物が
置かれてるみたいだぞ。
ん、団子って聞いた事ないなあー。
一体どんな食べ物なんだろう?
えっ、団子を知らないの!?人生の半分損してるじゃん!!!
あら。シルドラさんは
団子をお召しになった事が無いんですね。
えっと、
分かるように説明すると
お米が出来る前の稲穂とかの粉を
水やお湯を加えて丸め、食べ方によって
蒸したり茹でたりしてね。
この世界では
団子と言うよりかはスイートフールって
呼ばれているのよ。こっちの方が
馴染みがあったかしら?
えっとね、私含め
シノヴァシアの皆さんは出来る限り
遠い世界の言語である漢字を使う事を
意識しているのよ。
和を徹底しているのに
片仮名を使うなんて御法度でしょ?
ねぇ、コトハさん!?
注文したいんだけど、良いかな?
勿論。ご注文を承りますね。
えっとね、
コレとコレを10本ずつで
そっちを15本お願いします!!!
いっぱい食べて
フェルマータ城に乗り込むんだー。
だから、今のうちに腹を満たさないとね。
ふふ。じゃあ
精を付ける為にも少し多めに
用意させて頂きますね。その分の
勘定は催促致しませんので、御安心下さい。
店内の小さな木製テーブルの
周りに敷かれている座布団に着席しながら待機中の4人。
店先にある持ち帰り専用とは別に
緑色のケースに並んである団子を
盛り合わせている作業を離れでしていると
ブラウンがコトハに会話を振り始める。
おーい、そう言えば
ボク、コトハさんのパパに会った事
無いんだ。今日って居るの!?
私の父は現在行方不明でして。
もう数か月も御店に戻って来ていないのよ。
えっ!? じゃあ、今はコトハが1人で
この茶屋を受け持ってるのか?
皆さん、お待たせしました。
こちらが当店自慢の蜜彩団子となります。
ティブルエイドで採れる三つの
甘味素材を主に作り上げている為
老若男女問わずに愛されているのよ。
私の父は
何かあったら煙草を吸う癖があるので
その辺りは心配要らないんですけど……
1日でも帰りが
遅くなると年配の方なので
体調を崩されていないか、常に心配でして。
ブラウン君、申し訳御座いません。
せっかく来店して下さったのに
場の空気を壊しては、美味しい物も
喉が通らなくなりますよね。
じゃあ、
いつか戻って来るコトハの父親の
無事を願って皆でいただきます!しようぜ。
美味しいモノを沢山食べれば
口元が幸せになるもんね!
よし!!アレドシアの計画阻止とコトハさんの
父の無事を願って、せーのっ……
【シルドラ/ミルフ/シルヴェス/ブラウン/コトハ】
いただきます。
次回、後編。
事態は急転直下。
雨足が弱くなり、茶屋「甘蜜」を出た
直後に発生した霧により、ブラウンとはぐれてしまう。
彼も離れ離れになった
シルドラ達と再会したいが為に、足元に
注意をしながら周辺を慎重に歩き回るけれど……
ガサガサ(茂みを誰かが移動する音)
レブロンの姿が。
これは、これから始まる
アレドシアの計画第二幕の序章に過ぎなかった。
第065話へ続く。
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