第037話:源泉の贈り物!温泉宿 "ヴァリングス" 誕生秘話!!
文字数 4,703文字
えっ。新人って従業員の?
こんな事態なのによく合格させたな。
と言うより、エンディアからの紹介なんだ。
えっと、名前はエディールだったかな。
来てくれ!!!
前話の最後でヴァリングスに来たのは
かつてクロスウッドで悪事を働いていた
マイティーダークと言った組織のリーダー "エディール"。
すっかり善の姿に戻り、
今は普通の暮らしを楽しんでいて
毎日を謳歌している。彼の新たな家には使用人を
雇ったり、友達も沢山増え、人生史上
最高な生活を堪能し、新しい服を着たり、
見慣れない食べ物を食したり
こうやって違う大陸にも遊びに行く。
ちょっと贅沢だけど
彼らしい日々を過ごして居た。そんなある時、
エディールの元に久方ぶりに友達であるエンディアから
今、ティブルエイドのホットソープに居ると
連絡が入り、好奇心を手繰り寄せ
速攻来てしまった模様。
【エディール】
そうですね。エバスさんも
本当にお久し振りです。
何ヶ月振りでしょうかね……
ご無事で居てくれた事が幸いです。
お陰様で元の
鞘に収まる事が
出来ました。今は毎日が楽しいです。
エディールも温泉好きなんだ。
確か聞いた話だと、新しい家に簡易温泉を
取り入れたって聞いたぞ。どうなんだ?
ええ。業者から聞いた話によると
新築が建てられた立地内に
源泉があったみたいです。そしたら
それと一緒に温泉も作ってくれたので
一石二鳥で、毎日入ってますよ。
自宅に温泉かよ! 立地な場所だけに
リッチな事やるじゃねぇか。
源泉って言うのは、地中から
温泉が湧き出て来る場所の事を言うんだ。
ボーリングって言ってな、
地中に円筒状の穴を掘削していく作業が
あるんだけど、その際に水圧により温泉が
湧出する事で、地上に立派な温泉地が
誕生するんだ。どうだ。為になっただろ?
はい。皆さんも涙目ならぬ想いで
温泉事業を経営してるんですね。
良い話が聞けました!
思い出したんだ。以前ミルフの両親が、
その源泉の所有者についてヴェスターと
口論していたのを。
えっ!?
あ、だとしたらアイツって
ホットソープ出身じゃないのか?
可能性は十分に有り得ますね。
もしかして、その源泉から誕生したのが……
くっ。この温泉宿
"ヴァリングス" だ。
ちなみにその区域を担当してたのが
ミルフの両親であるルミナと
オランドなんだ。
****
時は同じ頃、ヒートリンス。
屋上で対立している2人。
目の前にはこのホットソープで一番人気があり
高層ビルみたいに階層が多いヴァリングスが
聳えている。
その他にも当館みたいな旅館が沢山あり
様々なテーマを元に多種多様な温泉行楽施設が点在してる。
見て見ろよ、シルドラ。
このホットソープを。今は賑やかな街だけど
昔はこうじゃなかったんだ。
そうなんですねっ。
あっ、もしかして活気溢れるモノにしたい為
この場所を温泉街に生まれ変わらせる
プロジェクトを始動したんですか?
そうだよ!
オレの家の真下から源泉の確認が取れたって
ヒートリンスの社長に言われたんだ。
源泉って言う事は温泉じゃねぇか。
これでいつも親父に迷惑掛けてたから
親孝行のつもりで高額払ってまで
プレゼントしようとしてたのに……
それをミルフの両親が
この土地の復興の為、オレの家を取り壊し
その地にヴァリングスを建てると
言って来たんだ!!
はぁ。お前はクロスウッド出身だろ?
こっちの世界での犯罪は特別に
扱われている。それが牢獄島のやり方だ。
確かにお前の両親もこの
プロジェクトには参加していた。ただ、
気付いた時にはホットソープを
離脱していた。だけど、何かの罪を
着せられてプリズジェイドに
居るのは確かだ……
オレは取り壊したヒートリンスを憎んでる。
増してや少しでも名前が記載されてた
お前の両親も憎んださ。突如として
消え失せたんだぞ。居なくなった
理由を聞く為にシルドラを……。
じゃあ、何で最後まで
戦わなかったんですか?
自分の負けだと思ってミルフさんの
両親を殺害したんですか?
居場所が無くなったオレの家族は
行き場を失い、ロックドクリフの崖から
飛び降りて自殺したんだぞ。迷惑掛けて
ばかりだったけど、家族って言うのは
大切にしないといけねぇからな!
だから、積年の恨みで同じ立場を
分からせてやるとプロジェクト施行真っ最中
だったけど、どさくさに紛れて
屋上から突き落としてやった。
だから徹底的にヴァリングス潰しに
執念を燃やしてたんですね。従業員の
ブランザさんを脅し、ミルフさんを
誘い込めば必ず僕に辿り着くと……
ご名答だ。さあ、こんなオレをどうする?
それでも改心させられると言うのか?
僕はレブロンさんと約束したんです。
自分にしか出来ない方法で
悪の道に進んでしまった方々を
改心させてみせる!と。
だから、さっき少しでも笑ってくれた
ヴェスターさんを必ず救ってみせますねっ。
ほう。アイツがな……
図体だけデカい奴に何言われたか
知らんけど、やってみろよ!
****
ヒートリンス、正門に続く一本道――。
ホットソープの西地区にある管理施設へ
息を潜めてやって来たのは……
でも、無事にヒートリンスに辿り着いた。
ここに来る最中に居た人達に
聞かなかったら迷ってたな。
それにしても、さすがホットソープの
管理施設なだけでデカい建物だ。此処に
シルドラとヴェスターが居るんだよな……
よし! 俺もここから
アイツと一緒に改心の手助けしてやるぜ。
突如としてヴァリングスから
居なくなったエンディア。アロイスに厳重に
注意されていたけど、館内で流れた2人の会話の
やり取りをしている際、彼はシルドラの声の
震えを一瞬で感じ取り、ずっと心配していた。
居ても立っても居られない状態になり、一目散に
独断行動に出た事で、後にとんでもない
事態に発展してしまう……
****
時は遡り、1年とちょっと前――。
この日は、ヴァリングス建立を
成功する為に従業員一同が集まる日。
ミルフの両親はもちろん、ラグや
プロジェクトメンバーであるブランザ達に
手配していた服を支給する為に、呼ばれていた。
【オランド/ミルフの父】
今配った羽織こそ君達がヴァリングスで
働く由緒ある証だ。今ここで着てみてくれ。
ふん。寸法合ってるかどうかなど
洗面所にある鏡見て来れば分かるだろ。
いちいち私に聞いて来るな。
【ルミナ/ミルフの母】
無愛想でごめんなさいね。
こう見えて、ヴァリングスがこの街の
新たな観光名所になる事を願っているのよ。
おい、ルミナ!
気に障る言い方をするな。
そんな事よりクルディーとプリメラは
呼んでないのか? 何で来てないんだ!!
もう貴方の指示に従いたくないって
ホットソープを出て行った。最後まで
ロッド夫妻はヴェスターさんの
味方だったのよ。
仕方ないだろ。
試作段階の湯舟に入湯して貰う
モニター探しだけの筈だったのに、俺達も
手伝うって現抜かして来やがったから
良い様に使ってやったんだぞ。
あの時、ヴェスターさん
親孝行したいからってウチに温泉を。って
懇願して来たの、貴方も憶えてるでしょ?
あのね。どう考えても
他人の立地の地下から源泉が例え
出て来ても、きちんと交渉が無い限り
それはその土地の所有者のモノになるの。
う、うるさい!!
既に業者にはアイツの家を取り壊して
貰って施工の準備が完了してるんだ。
もう今更言っても遅いんだよ!
ふん。所詮ミルフにとって
知らない世界なんだ。詮索
不要とだけは言って置け。
ルミナの顔付きはかなり真剣。
それもその筈。他人の領土に勝手に
侵入した事と同じ事をした。オランドはかなりの頑固者。
目的の為なら犠牲は付き物と自負している。
一番、危惧している
ホットソープの有様。ヴァリングスの建設が成功すれば
かなりの有利に立つ。その調子でこのホットソープを
ティブルエイドの更なる新天地と胸張って言える。と……
そして彼女は、
重い足取りで3階の応対室を出て行こうとする。
ちょっと屋上に行って来るのよ。
すぐ戻るから待ってて。
****
4階にある社長室に立ち寄り
2人分の冷たいお茶を冷蔵庫から持参し移動する。
屋上――。
2人共ごめんなさいね。
もし良かったら、お茶どうぞ。
それにしても、羽織似合ってるわ。
様になってるじゃん。
御見苦しい姿見せてしまったわね。
そうよ。ヴェスターさんの家を
取り壊してまでヴァリングスを
建設させようとしているのは本当。
あら。ティブルエイドの歴史を
知らないのね。私達は以前ゴッシュさんの
協力を経てこの大陸は昔、地殻変動が
あった事を知った。
その際に地中に古い海水が
閉じ込められていてね、それを化石海水って
言うんだけど、それって塩分が多量に
含んでいるから温泉法の規定に
該当してるのよ。
その源泉の噴出地点が
ヴェスターさんの家の真下だった。
私達はずっとヒートリンスのモニターで
何時、何処、どれ位の年月を経て
湧出するのか見届けていたの。
ただ、さっきも言った通り
ヴェスターさんの立地だから迂闊な事
出来ない。両親と話し合いを設けたのに
オランドが言いくるめたのよ。
『私に逆らったら、ヴァリングス施工も
出来なくなる。賠償金を出して貰うぞ!』
はぁ!?馬鹿言ってんじゃねぇよ。
ちょっと抗議言って来る!!!
オランドは是が非でも
ヴァリングスを建てる事しか考えてない。
"決定権は俺が持っている"
"有無も絶対に言わせない"
それが社長の権限。廃れたホットソープを
救いたい気持ちは分かるけど、立場を
利用してまでやる事なのか? と
ブランザは啖呵を切ってしまい、今、社長に立ち向かう。
家も、着る服も無くなった。
そんな事より絶対に許さないのは……
オレの両親を自殺に追い込んだ事だ!!絶対に許さねぇ!!!
ううん。それ位の事をしたんだもん。
覚悟はとっくに出来てるわ。
話変わるけど……
そう言えば、
兄には会って来たの?
確かロックドクリフに居るんだよね。
おう。この服はアイツのお下がりなんだ。
それにこのネックレスもオレへの
プレゼントって言われて引き取ったからな。
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