第033話:猪獣リブマッド乱入の思惑!シルドラとホットソープの湯煙絵巻「肆の頁」
文字数 5,440文字
フェルマータ城――。
シルドラ達がホットソープ "ヴァリングス" で
楽しんでいる頃、未だ水面下でしか動く事が出来ない
アレドシア率いる組織、フランバージュは
幽閉されているヴァル=バーンズの処刑を
執行しようと少しずつ準備していると、
ようやくリーダーの用心棒であるレブロンが
彼の元へと帰って来た……。
その件については逐一情報が来てる。
そこでお前に聞きたい事がある。
お前がさっきまで連れていた奴の事だ。
確か名は……、シルドラだったかな。
…………!!!
な、何故アレドシア様がアイツの名前を
知ってるんですか?
それにだ。接触した奴は
随時報告するようにと教えた筈。
もしかして、一緒に居る事が楽しくて
連絡し忘れた。とでも言わないよな?
おい!!
こっちは処刑の準備をするので大変なんだ。
楽しんでる暇など無いんだぞ!!!
そんな雄著な時間など無いのはお前さんも
分かってる筈と思ってたんじゃがな。
とんだ平和主義者じゃ。参ったのう……
おい、レブロン。
シルドラの事を話してくれたら
今回の件は目を瞑ろう。どうだ?
アレドシア様、俺が
少しの間でも一緒に時を過ごした彼等を
売る事は出来ない。申し訳ございません……
それにシルドラは処刑に関係ない!!!
お願いだ。見逃してやってくれ。
あくまでシラを切ると言うのか。
良いだろう。ブロス、"アレ" を
見せ付けるんだ。
ちゃんと目見開いて見ろよな!!!
おい、ロギュア、グラッツ。
ヤツを連れて来い。
"嘘だろ……"
"何で!!!"
彼は決して見たくなかった現実を
目の当たりにしている。ロギュアとグラッツの2人が
連れて来たのは、身体のあらゆる数箇所に
痛々しい痣を付けられてしまい
意識を失ってしまった……
ヴァールブルグ海賊団、船長ゼルガスの姿が。
現実を受け止めきれないレブロンは
一目散に彼の元に駆け寄り、
首筋に指を当て心拍数を計る。間違えて
急所を狙ったりしたら、一瞬にして
死に至る殴打を数発、ゼルガスに向けて攻撃した……
お、おい!!
ゼルガス、何でここに居るんだ!!
しっかりしろ。お願いだ。何か言ってくれ。
とりあえず脈はあるな。無事で良かった……
それにしても……。
ああ、そうだ!!!
奴もシルドラと濃厚接触したもんな。ただ
コイツもお前と同じように問い詰めたけど
何も言わずに逃げたから、見つけ次第
即座にぶん殴ってやった。
ブロス、てめぇ!!!
処刑はヴァルだけだろ。何やってるんだ。
はぁ!?馬鹿言ってるんじゃねぇ。
人を傷付けるのが見せしめなのか?
悪い事だらけだ!!!
シルドラ、ゼルガスも俺のダチだ。
特にブロス。こんなに人を
傷付けて楽しいか?
計画の邪魔になる存在だろ……
あ、そうだ。お前に1つだけ言って置くぞ。
フラジーのフリューウィングに
ちょっと細工しただけで、あら不思議。
左翼がぶっ壊れたようだ……。
一つでも間違ってたらお前もお陀仏だった。
助かって良かったな!!!
そうだ。深夜にエアロブルー飛行場の
格納庫に侵入して事を成した。レブロン……
お前もうアレドシア様に見放されてるぞ!
それでも良いのか?
レブロン、これがラストチャンスだ。
お前にはゼルガス・ヴァル、計2名の処刑を
命ずる。少しは立場をわきまえてくれ。
お前等、行くぞ。
とりあえず大人しく反省して置け。
迂闊な行為は執らない事だ。
一先ず、シルドラの事は話さなくて済んだ。
しかしながら、ゼルガスは負傷した状態で
ロギュアに担がれて処刑台へと連れて行かれてしまった……。
要するにフランバージュの計画を
止める事が出来なかった。
シルドラの優しさに触れたお陰で、
ヴァルの処刑を止めて欲しいと言う切なる願いが
レブロンの心の中に芽生え始め、アレドシアに考え直して
欲しかったけれど、それも一瞬に
無へ――。
(おい、レブロン!!!
シケた顔してんじゃねぇよ。顔上げな!)
(レブロンさんっ!
何悔やんでいるんですか。
顔上げてください。らしくないですよ!!)
アイツ等の計画を止められなかった……
シルドラに合わせる顔が無い。
(結局、レブロンさんって
いざと言う時、頼りにならないんですね。
見損ないました……。)
(逞しいのは身体だけだったんだ……
タフな精神や優しさがあると
思ったんだけどな。)
(おい!! グランザに
負けただけで泣く奴があるか。情けない
顔をするな。お前を育て上げたのは誰だ?)
(この俺、ブランザだろ!
良いかレブロン。負けて流す涙は
立派なモンだ。綺麗じゃないか。
雫の色が綺麗な程、己の心も繊細なんだ。)
そう、温泉宿ヴァリングスで
働いているブランザは
レブロン、そして
有名格闘家グランザ・エルフォードの父親――。
****
時は同じく、ホットソープ。
温泉宿 "ヴァリングス"
1階、ロビー。
突如として館内に立ち込めるかのように発生した湯煙。
誰かが意図的に排出口を開け閉めしてたと
従業員が閃くけど、その犯人がまさかのブランザ。
御客が困り果てる中、何とか
館内から湯煙を晴らす事が出来、騒動は沈静して行った。
ただ、何故そのような事をしたのかが
分からずじまいの為、彼にその
真相を聞き出そうとしていた――。
な、何とか湯煙が晴れたな。
俺とエンディアが飲んだくれてる最中に
こんな事があったとは……
ふぅ。不甲斐ない……
私が一番の高齢者なのに
皆さんを纏める事が出来ませんでした。
皆、済まなかったな。俺の独断行動のせいで
客を困らせたのは事実だ。
改めて謝罪させてくれ。
確かブランザさん……だったよな。
大丈夫だ。シルドラから色々
聞かせて貰ったからな。
はいっ。例えば……
彼が風呂上りによく飲む
ジャラゴールドの瓶のフタコレクションを
息子さんに捨てられそうに
なったんですよね!
そうだな。俺位しか酒は飲まないんだ。
どうやらチートデイって言う時しか
アイツ等は飲まないらしいけど。
確か腹を気にしてたような……
何言ってるんだ、シルヴェス。
ここは筋肉に置ける先輩である……
いやいやいや、絶対に引き下がらないぞ!
たまには後輩にスポットライト
当てさせて下さい……
黙らんか、この筋肉酒乱ども!!!!あたいが説明する。良いな?
チートデイとは……自分の体重が停滞した際に1日だけ
好きな物を好きなだけ食べて過ごして良い日の事。
ブランザの息子、3人中2人は
常日頃、身体を鍛えている為、食事制限をして
摂取カロリーを減らしている。特に太り易い
炭水化物、甘味、御酒には相当気を遣っている様子。
でも、ブランザの息子達に
会ってみたいもんだな。筋肉談義を是非
プロテイン片手に語り合いたい!
そうですね。
マッチョの方って包容力ありますもんね!!
逞しくて、心も温かいんですよー。
だから、彼等の大黒柱
ブランザさんも変な理由で
この湯煙一件を起こした筈じゃないんです!
安心して話してみて下さいっ!!
ほら。シルドラもそう言ってくれてるだろ。
お前を心配してるんだ。決して
怒らないから教えてくれないか?
ブランザが排出口を開け閉めしてまで
湯煙を操っていた理由を皆に打ち明けようとする途端……
****
ここは受付門――。
突如として受付門を突き破って、
暴れさせないようにと両手を広げて
侵入を阻止していた従業員にタックルして
ヴァリングスの館内へと襲来して来たのは……
済まん、ブランザ。
話は一旦中断だ。何かあったらしい……
おい。お前等大丈夫か?
う、うぅ……な、何とか平気だ。
タックルされた際に身体を思いっ切り
床に叩き付けられただけだ。
ちょっと!!
タックルされたなら重傷じゃないの!
私が治療するわ。早く横になってくれる?
何ですか、その強そうなモンスターの名前。
こ、怖いです……
リブマッドは猪のモンスターなんだ。
あたい等が食したイノボーの先頭を
仕切って、群れで移動する生態をしている。
そしてかなり匂いが敏感な事で有名だ。
あっ、そうか……
匂いを追ってここまでやって来たのか。
それも一理あるけど、
現状、この温泉街に獣を
放つ事自体が不可能な筈なんだ……
ホットソープにある
5階建ての管理施設 "ヒートリンス"。
そこにあるシステムの中に、獣の侵入を
禁止するボタンがあるんだけど、勝手に
誤作動は起きないようになっているから
誰かが手動で切り替えたに違いないのよ……
リブマッドはミルフの匂いを知っていて
尚且つ、それと同時に誰かが
管理施設のシステムを勝手に操作した。
何か都合が良すぎだと思うのは俺だけか?
二手に分かれて行動するしかないな!
1組はヴァリングスでリブマッド退治。
もう1組はヒートリンスの様子を見に行く。
そんな感じだろ、シルドラ?
はいっ。それともう1つ
気になってる事があるんですけど……
ゴクリと
唾を飲み込み
シルドラがヴァリングスの様子を見て、ずっと
思っていた事を一字一句逃さず、番台である
ラグに直接聞いてみようと話し掛ける。
事態はかなり深刻。早く対処しなければ
御客にも被害が出てしまう……。
今は少しでも情報共有を。と
彼の直感が働き始める。
確かヴァリングスって
ガラの悪い商売人が不評を罵って
いましたよね。もし僕だったら何としても
陥れようと敵襲を送り込むと思います……
此処を潰す為なら
強硬手段も計画の1つ。と言う事ですね……
そこまでして何の恨みがあるんでしょうか。
そう言えば、ミルフ。
お前さっきから顔色が悪いぞ。どうした?
いや、大丈夫だ。
あたいに構わず話を続けてくれ。
確か、二手に分かれるんだろ。
ねえ、ちょっと待って!
ラグ、確かヒートリンスって……
い、いや……。
これはミルフの為に言わない方が良い。
過去の事を思い出させてしまう。
いや、良いんだ。
お願い。シルドラ達に教えてあげてくれ。
ミルフの両親はヒートリンスの
初代社長夫婦だったんだ。ティブルエイド
初の娯楽施設ヴァリングス施工の
プロジェクトを進めていた最中に
殺されてしまった……
そんな……。でも、何故
ブランザがそんな事知ってるんだ?
俺はその
プロジェクトメンバーの1人だったんだ。従業員の推薦で当時
石鹸クリエイターとして名を馳せていた
俺がアメニティグッズである石鹸を
作って欲しいと呼ばれた……。
成程な。と言う事は
ヒートリンスを襲撃し、ヴァリングスを
潰しにかかろうとリブマッドを解き放った
真犯人が判明したじゃん。
商売人の制圧だ!!ここには腕っぷしのある野郎
しかいねえからな。唆るぜ、これは!!!
ちょっと!
意気込んでる最中にパロディー
ぶち込まないで下さいっ。でも……
僕も微力ながらも頑張ります!!!
ミルフさんの為にっ!!これからも仲良く冒険が出来るように
気持ちを入れ替える為にも此処で
全て終わらせましょう。ですよね?
そして、フランバージュでの計画を
終えて戻って来るレブロンさんを迎えに
行きましょうねっ!!
(そうか……。
アイツが言ってたのは
この2人の事だったのか。お互いが見せる
純粋さと笑顔が彼の心を突き動かした。)
(シルドラ君の清純でつぶらな瞳。
純真無垢で、綺麗な感情が備わってる。
そして……)
(次レブロンに会った時、どう
喝を入れてやろうかな?)
(ミルフさんの表情筋は筋金入りだな。
そこから見える決意や熱意。そして
もちろん良い目をしてる。俺が
思った通りだ。レブロン、お前……)
(そうだろ? 父さんにも
早く会わせてやりたいんだ!!)
(レブロン、お前が
会わせてあげたかった2人は……)
よし。イノボー撃退組と
ヒートリンス突入組を決めるぞ。
ジャンケンして一番最初に勝った人から
自分が行きたい方を選択するんだ。
ちなみに女性陣はヴァリングスに残って
従業員と一緒に客の誘導をお願い出来るか?
ぽんっ!!!
次回、ホットソープ編第一章終了。
エンディアが提案したじゃんけんによって
ヴァリングス組とヒートリンス組の組み合わせが発表。
意を決してホットソープに潜む
悪の手を阻止する為に今、立ち上がる。
打倒、商売人――。
そんな中、彼等の目の前に現れたのは
フランバージュメンバー、ロギュアとグラッツ。
用があるのはもちろん、シルドラ? それとも……
第034話へ続く――。
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