第070話:喧嘩の果てに!ティブルエイドに迫る黒き煙の罠!!(後編)
文字数 5,961文字
前編のあらすじ。
アレドシアが指揮を執る
ブラウン対レブロン、2人の喧嘩を主軸とした
計画第2幕はフェルマータ城に遅れながらも
到着したシルドラ達のお陰で失敗に終わってしまった。
ただ、レブロンだけは
彼等との再会を遂げたくなかったと
自分がブラウンに犯した罪を胸に抱えながらも
城内へと姿を消してしまう。
ゼルガスを探して
ティブルエイドを探索していた
アジュマリン海賊団の船長であるヴァネッサを迎え
物語は大きく動き出す――。
****
現在の時刻、午後1時過ぎ。
ティブルエイドの景色が
一望出来るフェルマータ城のテラス、と言うより
ファーラック一族が昔雇っていた番人が
地上からの攻撃に身を隠しながら
応戦したり、敵が接近して来ないかを
見張る為に施された回廊と言った箇所。
全土に流されていた
生中継である喧嘩の主役は2人だけど
実際にはその全貌を見守る為に、ずっとアレドシアも
事の全てを自分の目できちんと確認していた。
彼からしたら
芳しくない結果になってしまい
何を仕出かすか分からない状況に陥ってしまっていた。
はぁ、何してるんだよ。
歳月を経て企てた私の崇高な計画の1部も
レブロンの失敗により水の泡と化した。
どないするんや?
シルドラ達がお前さんの元に
辿り着くのも時間の問題じゃぞ。
それに、
グラッツも気掛かりでな。
ゼルガスを見に行く、って言ってから
一向に戻って来る気配が無いんや。
ああ。それなら問題無い。
グラッツは裏切り者だからな。
レブロンの拳一撃で仕留めさせて貰った。
ああ。計画の前日に
ゼルガスが乗って来た海賊船を
調べてた時の事だ。私が居ない事を
良いようにロギュアと共に話を交わしてた。
計画の隙を付いてこの船を
避難させる内容だったかな。
お前もあの2人の味方なんだろ?
嘘を付くな。正直に言ってみろ。
やっぱりな。
これで私の計画を支持してくれるのは
誰1人として居なくなったか……。
どうした?
ワイを始末しないのか?
アレドシアの計画に反した行為をしたんや。
裁かれる覚悟は出来てるで。
アッジは高齢者だろ。
年配の方には手を出さないと決めている。
ただ、ここで
計画を終わらせる訳にはいかない。
フェルマータ城に潜入した鼠共を始末する。
もう後戻りは出来ない。
此処まで企てた自分の計画に
泥を塗られてしまい、少しずつ焦りが見え始めて来た
アレドシアはポケットに隠し持っていた
この城の数カ所に仕掛けた爆弾の
起動スイッチを押してしまう。
フェルマータ城、1階
玄関の間――。
お、おい。
ブラウン、頭上から瓦礫が落ちて来てるぞ!
早く避難するんだ!!!
玄関の間のちょうど上にあたる
食堂周辺の瓦礫の砂埃を巻き上げながら
ブラウンの頭上に刻一刻と迫る中、
鍛え上げられた足腰で華麗なスライディングで
見事にブラウンを救い出す事に成功。
それにしても
計画の失敗だけで爆弾騒ぎだなんて。
お陰で退路を断たれたじゃない。
そう、そのまさかよ。
さっきの衝撃で落ちて来た岩盤が
出口を塞いでしまった。
外に出たい場合は
非常口、或いは裏口を探すしかないな。
でも、その前に
父さんの無事を確かめないと。
この城内の何処かに居る筈なんだ!!!
もうっ。ゼルガスのバカ!!!
何処にいるか目印位付けて
置いてくれないかしら!
あはは。そんな事したら
アレドシアさんにバレバレですよ。
その時、まだ塞がってない
小部屋でレブロンを捜索中のシルドラが
立て付けの悪い扉をバタンと倒してしまいながらも
再びミルフ達と合流を果たす。
それにしても
一体さっきの轟音は何だったんだろう。
あ、あれ?皆さん揃って1階にいる事は
まだゼルガスさんとは……
ああ。そんな事より
シルドラ、深呼吸して聞いてくれ!!!
お前もさっきの揺れには気付いた筈だ。
そのせいで2階の瓦礫が落ちて
出入口が岩盤で塞がった。
と言う事は
全てが終わるまではこの城から出られない。
そう言う事だ。
俺達が城内に潜入したのを見計らって
アレドシアが何か仕出かしたに違いない!
くんくん。
この匂いからして火薬ね。城内に
潜り込んだ私達の始末、と言う所かしら。
そんな
ネガティブに考えちゃダメですよ。
覚悟を以って皆さんは此処にいるんです。
僕達で全て終わらせて、無事に
マツカゼさんの元に帰りましょう。
さすが、
ゼルガスも認めた純真無垢な男か。
海よりも繊細でクリアな心を持っている。
名前はヴァネッサだ。
こんな状況下でも挨拶は基本だからな。
アジュマリン海賊団の女船長を務めている。
改めて宜しくな、シルドラ君。
シルドラは風貌を見ただけで
ピュアな心を持つ性格だと見抜かれ
会って数秒も経たないまま、仲良くなる特技を持つ。
羨ましい限りです。(本音)
例え
フェルマータ城に潜り込んだ
鼠共を一掃する為に2階の食堂に仕掛けた
爆弾を作動させて、シルドラ達を閉じ込める事に
成功させても、こっちは全ての計画を阻止するまでは
逃げも隠れもしない、と決めた。
やるべき事は山積みだけど
全てを越した先にはきっとアレドシアも笑ってくれる。
あわよくば、自分も彼の笑顔を見たい1人。
今、
彼達の想いを果たすべく
シルドラ達が奮闘を開始する――。
待ってて下さいね。
レブロンさん、きっと苦しいんですよ。
この僕が必ず救い出してみせます!
****
港町ビューウェーブ。
フェルマータ城周辺の
上空を行き交う数台のカメラが
映し出す爆破の様子に、野次馬の1人が
町長アジールとの口喧嘩中にどよめきを隠せずにいた。
アレドシアが
懐に忍ばせていた爆弾を作動させたんだ。
城門周辺は岩盤だらけ。潜入した
奴等はもう外には出られない。
そういう事じゃない!!
お前はティブルエイドの地理も
全く知らないのか?
アジールが
汗を搔いてる事からそんなに
この大陸で爆弾を作動する事が酷なんだな。
ああ。あの城の真下に
海食洞穴があるのはお前等も知ってるだろ。
海水の通り道だろ。
低天井でヒカリゴケが生えてる事位
流石の俺でも常識の範囲内に留めている。
と、特に
ティブルエイドのヒカリゴケは
ちょっと特殊なんだ。落下して来た
岩盤から発生する砂埃にかなり敏感でな
爆弾の火薬と発光物を掛け合わせると
否が応でも粉塵爆発が起きるんだ!!!
だとしたら
このビューウェーブも免れないじゃないか。
今更何分かり切った事言ってるんだよ!!
これは狼族だけの問題じゃない。
下手すればお前等も無事じゃ
済まされないんだぞ!!
アレドシアは
大陸の平和よりこの地を手放す事にした。
始末を手早く済ます為にな。
その時、
中央広場にも伝わる程の
轟音と地響きが鳴り続き、此処から
南西方向にある建物に仕掛けられた爆弾が
アレドシアの手によって作動させられてしまい
周辺には子供の泣き声、窓ガラスの破片
散乱により多くの負傷者が続出していた。
先程雨が上がったばかりだけど
空は曇天、どちらかと言えば悪天候。
爆発音が聞こえた方から
崩壊と共に立ち上った黒煙が、上空を覆っている事に
動揺を隠せないまま、ようやく気付く。
おいおいおい。
フェルマータ城の次はビューウェーブかよ!
どんだけ陥れれば気が済むんだ!!!
なぁ。確か町役場ってあっちの方角だよな。
大丈夫なのか?
ちょっと! 早くあの子を助けてあげて!!
もしかしたら今頃泣いている
かもしれないのよ。
現在、人命を
最優先とし救助活動を行っています。
その子の名前を教えて貰っても良いですか?
はい。
女の子の名前はアイナ。
身内とかじゃ無いんですけど、一時的に
預かっている身なんで、無事な姿を
この目で確認したいんです!
アイナちゃん、
もし俺の声が聞こえるなら
近くの岩を2,3回叩いてみてくれ。
まだ女の子が助かる希望もある、と
救助活動を行っている港町ビューウェーブの
平和を支える初動部隊を出動させ
崩壊時の状況をくまなく偵察した上で
子供の安否を確認しようと
必死に声を掛け始める。
その時、家の下敷きになったその女の子が
とある男性と共に姿を現す。
礼には及ばない。
人として常識の範囲内の行動をした迄だ。
あら、強い子ね。
でも、無茶しちゃ駄目よ。
もし痛いなら私にちゃんと言う事!
は? 何故私が?
唾を付けて治療する対処法もあるだろ。
それは
荒療治だ。
ちゃんとした治療も施さないで、更に
悪化したら、テメェはちゃんと責任取れるか?
それと、
その子を慎重に取り扱え。
この爆破騒ぎは何処をどう見ても
アレドシアの仕業だ。被害者の1人である
アイナからも証言を取る必要がある。
それで判決が下されるからな。
も、もしかして
この御方が牢獄島の獄長と噂される……
名はブレイアだ。
罪状は公開処刑致死罪。
裏の有権者であり、ティブルエイドを
陥れているアレドシアを連行しに来た。
一度は
牢獄島の存在を
幻だと世間一般で流れた過去がある。
獄長も実は居なく、誰が指揮を執っているかも
分からない、全てが謎に包まれている
囚人を収容させる大陸がある事だけしか
本当に一握りの情報しか明らかになって来なかった。
今、此処に
アレドシアが到着した事により
水面下から表舞台へと場所は移り、
物語は爆破を主軸としたアレドシアの計画第3幕へと
駒を進め始めようとしていた――。
次回、
ゼルガスとシルヴェスが感動の再会。
そしてレブロンに気絶させられたグラッツが目を覚ます。
おまけ。
レブロンは偶然にも見つけた
テーブルの上に置かれた説明書きを見ながら
細長く切ってある紙に短文を書き、ちょっと離れた場所に
置いてある観賞用の笹に一足先に飾り
その場を後にした。
数分後、怪しい物かな? と
疑いながら一旦後にしたブラウンが
博識なシルドラを連れて、再びやって来た様子。
あーーーーー!!!
また自分だけ分かったフリしてる。
お願いだからボクにも教えてよーー!!!
ブラウン君、
これは七夕用の短冊なんだ。
この1枚の紙にお願いごとを書くんだよ。
七夕って
別名「星祭り」って言われていてね
織姫と彦星様が天の川を渡って
1年に1度しか出会える、現実世界で言うと
今日7月7日の夜の事を言うんだ。
でも、諸説がいくつかあるみたいで
実際僕も「恋の話」以外の事は
分からないんですよね。
じゃあ、コレに
ボクのお願い事を書いて
あの笹に飾れば願いが叶うんだね!?
あっ、でも
願い事は1つ迄ですよ。ブラウン君は
欲が強すぎるので先に言って置きます。
ひいっ。シルドラ君の笑顔が
こ、怖いよおおおおおおおお!!!!
もちろんー!!!
ボクの願い事が届ければいいなあーと
想いを込めて書いたんだ。
何とかシルドラの説明を受けて
七夕、と言う物がどんな行事かを知った
ブラウンはもう既に願いが記された短冊が
いくつか飾ってあった笹の前に立ち、
自分が書いた事が「叶うと良いな」と想いながら天に捧げる。
ティブルエイドの自然が
更に豊かな物でありますように。 ゴッシュ
ふむふむ。皆さん
やっぱり願いを書く時は本音なんですよね。
あっ。
アレドシアさんの短冊も飾られている。
ブラウン君、ストップううう!!!
これ、今後の本編のネタバレになってます!
さーてとっ、
ボクの願いも笹に乗せて届きますように!
わ、わっ!! 別に
変な事をお願いした訳じゃないからね。
ボクの欲が爆発しただけで……
ええい。よし
ブラウン君の短冊ゲットしちゃった。
何が書いてあるのかなー?
これがブラウン君が叶えたい事なんですね。
成程。もう1度アレをしたいと……
ひ、ひいっ!!
ま、またシルドラ君を怒らせちゃった!!
これから始まるのは僕の闇夜。クレイジーな七夕にしてあげるね。
君の短冊は三途の川に流すから宜しく。
また赤茶けたシルドラの
横文字が空へと解き放たれてしまった。
彼はクレイジーと言ってしまったけれど、
本来は、
現実世界で長年愛される行事の1つ
地方ではそれに纏わる祭も開催される。
このご時世でなかなかそういう事が味わえないけど
今はオンライン上でもそう言った
文化を味わえるようになった。
皆さんも、実際に
短冊に記した願い事が叶いますように。
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