第030話:ラグとの再会!シルドラとホットソープの湯煙絵巻「壱の頁」
文字数 4,844文字
ここはフェルマータ城、地下に広がる洞窟迷路――。
フランバージュの手によって
捕虜されてしまったヴァールブルグ海賊団、
船長ゼルガスとその手下。彼等の隙を付き
彼だけ逃れたのも束の間、前方不注意により
足場を踏み外してしまい……
浸水が始まっている別の出入り口に落下。
現在この時間、この周辺は満潮の為
ゼルガスの顔付近まで水が迫って
もう少しで溺れ死にそうな所、何とか目を覚ます。
うおっと!!!
あ、危な。もう少しで塩水飲みそうだった!
落ちて来た通路を見て、
さすがにこの高い外壁を昇り切るのは
無理に等しい。下手をすれば今度は死ぬかもしれない。
残された道はただ1つ。
まだ水に浸かってない、彼の後方に続いている
通路をひたすら進むしかない。この先が何処に
続いているか分からない為、常に不安。しかし……
ここで立ち止まってちゃ、
先には進むねぇんだ。この通路が何処まで
続いてるか知らないけど、やらないで後悔
するより、やって後悔した方が
良いに決まってる。
絶対、無事にアイツ等を
助け出すからな。待ってろ!!!
アレドシア様、
何とかヴァールブルグ海賊団、手下全員
監禁完了です。ご報告しに参りました。
す、すみません……。
現在ロギュアとグラッツの2人で
行方を追ってます。時間を掛けてしまい
申し訳御座いません。
いよいよか。
待ちくたびれて腰がイかれそうだい。
もっと年寄りを労ってくれないか?
アッジさんは少し休憩して大丈夫ですよ。
後は僕達に任せて下さい。必ず
ゼルガスを見つけ出してみせます。
先日森の長、ルミシー様と
話し合った事ですけど、僕は
納得出来ません。アレドシア様は
どう思ってるんですか?
ああ。表沙汰にならないように
ヴァルの処刑……だったかな。
安心しろ。計画は綿密に遂行するのが
フランバージュのポリシーだ。忘れたのか?
その言葉を聞けて良かったです。
レブロンさんも直々戻って来るので
後は彼からシルドラの事を聞き出す。
邪魔になる存在なら……
とりあえずレブロンが戻り次第
必要な事を聞き出し、処刑の
最終準備に入る。良いか?
アッジも聞いていたなら返答してくれ。
ワイは大丈夫や。腰は悲鳴上げてるけど
足腰の方は自信あるでい。
頼もしいですね。僕も
アレドシア様の力添えになれるよう
頑張らせて頂きます。
ヴァルの処刑まで残り半ヶ月……。
そして、気絶から目を覚ましたゼルガス
仲間の為に今起ち上がる。
****
『ホットソープ』
一年を通じて温暖な地、建物は全て瓦造り。
訪れる人は全てその世界へと入り込んでしまう。
樹木から落ちる四季とりどりな
葉っぱが湯舟に浮かんでいる温泉はもちろん
ティブルエイドの渓谷、
ネルフィンドが一望できる露天風呂や
すぐ近くにある里山の風景が堪能出来る温泉。
雄大な自然の景観と緑生い茂る山に恵まれ、行楽・静養に
最適の地として多くの人々に親しまれている観光地――。
レブロンと別れたシルドラ達は
正門の暖簾をくぐって、
湯気が立ち込める温泉街へと入っていく。
ミルフさん、カインドフォースの
皆さん……何処にいるんですか?
ムニュッ。
妙な感触が彼の両手に残っている。
湯気の中から
ミルフのここぞとない表情が
みーいつけた。と言わんばかりに姿を表す。
ご名答。
ホットソープに来たからと言って
名湯とかけた訳じゃないからな。
****
一番人気の温泉宿『ヴァリングス』
ボイラー室へと急ぐラグ。
(また温泉街へうちの湯煙が
立ち込めてるって苦情が入ったわよ!
元栓緩んでるんじゃないの!?)
あ、これだな。
大量の湯を沸かしてるんだから
これ位いつもの事なのにな……
よし、これでオッケーな筈だ。
今番台はアイツに任せてるから、ちょっと
湯煙が晴れたか見に行ってみるか。
その
序に特注していた
新石鹸を取りに行かなくちゃな。
やっとお目にかかれるぜ!!
****
場所は再び、ホットソープ正門周辺――。
全く見えてなかった街の景色が
立ち込めていた湯煙が少しずつ晴れていく事で
実際にこの場所の住民が棲んでいる
家屋、土産処、食事処、他。
和の世界にタイムスリップしたかのように
シルドラ達の前に姿を現す。
そして、ここはミルフの生まれ故郷。
おう!!! ちなみに
ホットソープに住んでいる人は自分の家に
風呂があっても、温泉の入湯許可証が
貰えるようになってるから、自宅で
入浴する事は全く無いんだ……
年中無休、入り放題だ。
ここは本当に沢山の足湯、共同浴場、そして
縁日って言うのもあるぞ!!!
俺、温泉って言う奴初めてだ。以前父さんに
湯の魅力を聞かされた事があってな。
確か、誰もが幸せな気分に縋れるって
教えてくれたな。マリーナブルーに続いて
ここではそういうエンターテインメントを
味わえる事が出来て……
シルヴェスさん、ホットソープ
堪能しましょうねっ!!!
そんな中、一番温泉の言葉に反応して
露天風呂を肌で感じていたのは
カインドフォースメンバー、ハディーサ。
そう、彼は無類の温泉好き――。
うおおおお!!!!
この肌で感じ取れる湯の匂い、自分の家じゃ
体験出来ない複数もの風呂の数。そして
足湯まであるじゃないか。
エンディア様、それは愚問だ。
入湯する前からここは100点の温泉街と
分かり切っていたぜ!!!
ちなみにここの
一番人気な入浴施設は何処なんだ?
ここに地図があるみたいだけど……
ここか? いや、こっちか?
あっ、確か……
ヴァリングスっていう温泉宿が
人気あるみたいですよー。
以前ここの番台――
お、シルドラだったよな!!!
久し振りだな。元気にしてたか!?
ラグさんですよねっ!!
お久し振りです。済みません……
到着が遅くなっちゃいましたー。
よっ。シルドラ、それにお前
いつの間にか仲間が増えてるじゃないか!!
もしかして、呼びこんでくれたのか?
もちろんですっ。
ラグさんの熱い呼び込みを未だ鮮明に
憶えていますよ。そしてここには温泉には
目が無いハディーサさんが居ますし。
お、マジか。
嬉しい事言ってくれるじゃないか!!
番台としてやってきた甲斐が
あるってもんだ。
もちろんですよー。
名前はラグ。ホットソープの
今後の活性化を願いながら、番台を
務めている熱き男です。エンディアさん
みたいなタイプの方ですっ!!!
スゲェ身体だな!!!
なんか仲良くなれそうな気がするぜ。
何言ってるんだ?
お客様は神様だ。そして気に入った奴は
俺の友達として認定してる。エンディアも
ハディーサ、そしてシルドラの仲間は
全員俺のダチだ!!! 良いな?
期待に応えるのも番台としての
役目だからな。是非ともホットソープ編
終了辺りに感想言ってくれると嬉しいな!!
あっ、そうだ。
ちょっとお使いがあるんだけど
付き合ってくれたら、無料に
浴衣をレンタルしてやるけど、皆はどうだ?
あたいはいいや。
この服を脱ぐと、何か動きがいつも
鈍くなって思うように身体が付いて
いかないんだ……。悪いな。
俺等も大丈夫だ。
ラグ、お前のおもてなしの心
とくと感じたぜ。気持ちだけでも嬉しいぞ!
おもてなしって言うのは
まず気配りが出来てないとやっていけない。
嗜み方は人それぞれだ。
自由な服装で過ごしてくれ!!!
でも、せっかくラグさんが
提案してくれたんだ。シルドラの浴衣姿を
見てみたいのは俺だけか?
じゃあ、お言葉に甘えて!
このホットソープでしか味わえない
ですもんね。ラグさん、じゃあ1枚
お願い出来ますか?
浴衣の数え方だ。
ちゃんと "枚" って言ったからな。
着物系は判別が難しいんだ……
あ、そうだったな。よっしゃ!!
俺に付いてきてくれ。
着物系には複数の数え方がある。
今回、ラグが無料で
レンタルしてくれるのは浴衣。
一揃いしているのが一般的に "着" で数える物。
ただ、シルドラはその衣類を聞いただけで
数え方を判断した。
もちろん、それは服に興味を持ち、
幼少期に両親に教えられて来たからこそ学び得た糧。
ホットソープの正門で
ラグと再会したシルドラ達は
特注した新しい石鹸を貰いに、
とある土産処へ向かう。店舗の概要としては
様々な香りがする石鹸を中心に扱っているお店。
その中で注目されているのが、お手製――。
ティブルエイドの各地で
採取された花や実を調合して
一つの固形石鹸を作る事が出来る
ヴェアソープライセンスを所持している人が店主を
務めていて、ラグの知り合いでもある。
到着して早々、店内に入るのも束の間
客も店主も誰1人居ない。何故か店だけ開いている状態。
おい。客も居なければ
店主も居ないぞ。どうなってるんだ?
挙句の果てに店は開きっ放し……
あっ、あれ?
ブランザの奴、今居ないのか。
ちょうど良いからここでシルドラの浴衣も
レンタルしようと思ったんだけどな……
あっ、この店って浴衣等のレンタルも
してくれるんですか?
そうだ。まあ、でも
確かカウンターの横のクロゼットに
置いてあるんだよな……。仕方ない。
前置き書いて、借りとくとしよう。
後合流した時に言えば良いだけだ。
よし、シルドラ。一緒に
更衣室へ行くぞ。お前等は
外で待機していてくれ!!
クロゼットから浴衣を取り出し、
ラグはシルドラと共に更衣室へ。
そしてミルフ達は特産店の前で彼の新たな
コスチュームを今か今かと喜びに満ちた表情で期待していた。
15分後――。
お! 上出来だ!!
シルドラ、なかなか似合ってるぞ。
そこには少し照れながら
浴衣を身に着けてモジモジしている彼の姿が。
どんな衣装を着ても
シルドラは可愛くなるって言う事だ!!!
浴衣姿もナイスだぜ。
そりゃあ、俺が全部1から
セッティングしたんだ。この浴衣もお前と
巡り合えて喜んでいる筈だ!!!
そうですね。
どんな着物にも魂が宿ってる……
それを輝かせているのは当人の心。
お久し振りですね、シルドラさん。
そしてカインドフォースの皆様……
【エバス】
私はエバス。家内のニリアと
共にティブルエイドへ観光しに参りました。
シルドラさん……、はした声を
出さないで下さい。"え" は
1回で充分ですよ。元気にしてましたか?
もちろんですっ!!!
ラグさん、彼もハディーサさんと
同じように温泉愛好家の1人なんですよー。
一緒にヴァリングス行っても良いですよね?
そうだったのか!!!
温泉好きに悪い奴はいねぇ。
全然オッケーだぜ。
ありがとうございます。
じゃあ、ラグさんのお言葉に甘えて……
ホットソープ編開始!!!いよいよヴァリングスの全貌、お披露目だ。
ヴァリングス、ロビーにて、
シルドラとエバスの意外な関係性が明らかに……
第031話:【弐の頁】へと続く――。
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