第032話:泡と湯煙と麦酒!シルドラとホットソープの湯煙絵巻「参の頁」
文字数 5,244文字
人気宿
"ヴァリングス" 全館に突如として
立ち込み始める湯煙。そのせいで
シルドラは皆と迷子になってしまい……
エンディアさん、ミルフさん……
何処にいるんですか?
そして、彼の背後にあるボイラー室のドアが
ゆっくりと開き更に不安が募る。それでも
勇気を振り絞って扉の方を
振り返ってみる。
【????】
うっ。お、お前誰だ……
まさか、アイツ等の仲間か!?
それでは、「弐の
頁」の
おさらいと致しましょう。
無事にホットソープで活気溢れていて
ラグが番台を務めている人気宿 "ヴァリングス" に到着。
全10階建ての当館は様々な和の装飾品に
包まれて、訪れた観光客や冒険者を
虜にしている。
そんな中、エレベーター内で見かけた
商売人と当スタッフでの言い争い。人気であるが故に
一部の人はそれを逆手に取り、揉め事を起こしたり
喧嘩勃発などの困り事に直面していた。気分を
紛らわそうと急ピッチで作った "シルドラの湯" を
紹介したけれど、その全貌に本人は茫然――。
今から2時間前の出来事。
あっ、あの……
なんかラグさんに餌を
与えてしまったようで、すみません。
うーん。それにしても
この前、物凄い工事音が聞こえてたのは
この湯舟を作ってたせいなのね。
かなりの出来よ!
特にこのシルドラ君の胸筋、まだ現物は
青年だからそこまで成長してないけど
立体的に盛った感じ、良いわよ。
大胸筋の上部、中部、下部……
上腕部から鎖骨部分に接続、筋線維は
斜め上に伸びている。そして中部は
胸肋部の筋肉、同じ上腕部から
胸骨にかけて横に筋線維が走って、下部は
腹直筋の上に繋がって、筋線維が下向き。
なっ!!!お、俺より大胸筋の
仕組みを知ってるとは。やるな……
それもそうだ。リタの父親は
あのグランザ・エルフォードと肩を並べる
有名プロレスラーだ。横でずっと
トレーニングを観て得た知識だろ。
と、言う事で
シルドラ君の胸筋を触らせて貰うわ。
やっぱり銅像なんかより
生の方が良いもんね。
仕方ありませんね。
シルドラさんの初体験、私もご協力を。
やめてええええええええ!!!!!今は夏ですよおおおお!!!
その後、シルドラは
初体験としてリタに胸を掴まれるように
ムニュッ と触られてしまい、彼の表情はピンクと共に
ホットソープが染まって行ったとさ。
めでたし、めでたし……
まだ終わっていませんよおおおお!!!
読者の皆さん、"戻る" を
押さないで下さいね!!!
****
※ ここからは入浴シーンとなりますので
アイコンはそのまま使用させて貰っています。
読者の妄想にてご堪能して下さい。
5階、とある温泉――。
湯舟に顔近くまで浸かり
リタに胸を触られてしまった事に対して
今まで味わった事がない体験をしてしまった。
特に彼女でもない。
自分の興味本位だけで。
シルドラからしてみては、
"何だろう、この気持ち" と自問自答している。
何だろう。まだリタさんに
触られた時の感覚が僕の胸に残ってる……
それにしても、
湯気が立ち込めていて
周りが見えないけどそういう温泉なのかな?
一人だから周りに気を
遣わないでリラックス出来ますー。
その時、湯気の向こう側から湯舟を
バチャバチャ と
水飛沫ならぬ湯飛沫を
上げながら彼の元にダッシュして来たのは……
えっ!?
ミルフさん、何でここに!!!!
ここ男性限定の温泉ですよね!?
はぁ、はぁ……
やっとシルドラが来てくれた!!!
待ってたんだぞ。カップルだらけで窮屈だ。
そうだぞ。
逞しい男の裸を拝めるかと思って
入ったのに、こんな混浴は嫌だ!!!!
どうやら間違えた温泉に
入ってしまったようですね。
と言う事で、お先に失礼しま……
待ってくれ!!!
さっきからダッシュしっ放しで
まだシャワー浴びてないんだ。あたいの
背中洗い流してくれないか? 頼む!!!
はい!?世の中の男子共が羨む事なんか
僕には出来ませんって。
ほう。イノボー撃退した際に
無償でパンツ見たのは、シルドラ
お前だったよな。その顔で言うか?
ボディタオルに
石鹸を
たっぷりと滲み込ませ、泡を立たせて
背中の部位の中で鍛えられた
広背筋、僧帽筋を丁寧に洗っている。
割とミルフが所持していたボディタオルが
固めの素材で出来ている事を知ったシルドラは
力強く洗うと肌を傷付けてしまうと思い、泡を沢山作り
優しく撫でるように彼なりの手法を試していた。
なかなか良いぞ。
経験した事がない洗い方だな。
まるでマッサージを味わっているみたいだ。
本当ですか!?
やっぱり女性の肌質は格闘家を目指してる
ミルフさんでも大切だと思って、つい……
おう。よし、もう行っていいぞ。
洗ってくれてありがとな!
あっ、あっ……
石鹸を床に落としっ放しだった事
忘れてた。す、滑るって……
態勢を元に戻さないと、
頭を打ってしまう……。や、やばい!
右足で思いっ切り石鹸を踏んでしまい
今にも頭を強打しそうな勢いで咄嗟に目を瞑り
ゆっくりと倒れ込もうとしたその時……
ムニュッ
ミルフのクッション級の豊胸が
シルドラの強打を未然に防いだ。
しかし、泡だらけの彼女の胸に彼の頭部と顔が乗っかった。
ただ、助ける事だけ集中していたせいで
"おい! ズルいぞ!!"
"場所変われよ!!" と
羨ましたがる声が聞こえ始める。
周辺がザワめく声を耳にし、フッと目を開けると
そこには……
おい、シルドラ。
あたいの胸が山のようだって
どういう事だ? それに標高だと。
いくつ位あるか言ってみろ!!!
****
1階――。
皆思い思いの時間を過ごす中、
混浴で忘れられない思い出をしたシルドラ。
小腹が空いたと食事処である "囃子ノ宴" へと
向かうと、御座敷でこのティブルエイドで
有名な地酒 "ジャラゴールド" を嗜んでいる
エンディアとシルヴェスの2人を発見。
ちょっと2人共、何やってるんですか!?
店側の迷惑になりますよっ!!
ほらっ。早く瓶とグラスを片付けて
向こうで御冷貰いに行きますよっ!
店員が運んできた地酒を
グビグビ と一気に流し込む。
テーブルの周りに散乱している瓶とグラスを
片付けてたシルドラの近くでエンディアは
"とんでもない発言" をしてしまう。
ちょっと待ってえええええええ!!!
アウトですよおおおお!!!!
何本も呑み、腹に蓄えたジャラゴールドの匂いを
シルドラの顔に吐き掛ける。
この2人、お酒飲むと恐るべし。
****
結局、食事処で何も腹の足しに出来なかった
シルドラは4階にある自動販売機で
炭酸飲料水を飲みながら休憩している最中。
もうっ。シルヴェス君
酒癖が悪くて、顔に匂いが付いちゃったら
どうするんですか!?
ここに来る前、洗面所で
顔洗ってきたから何とかなったけど。ん?
あ、あれっ?
何か突然湯煙が濃くなって来たような気が。
そう。彼の言う通り
ヴァリングス全館で突如として湯煙が
立ち込めてしまい、1階のロビーでは番台のラグ、
アメニティグッズを補充しているリタ、そして
全スタッフが総出で慌ただしくなっていた。
1階――。
おい。ラグ、どうなってるんだ!?
客が戸惑って身動きが
取れない状況になってるぞ。
前回は温泉街、今度は館内。
何故揃いも揃ってうち等の湯煙なんだ!!!
こんな状況下で落ち着いてられるか!
あっ、もしかして意図的に
誰かがボイラー室の排出口を
開け閉めしてるんじゃないのか?
そんな、まさか……。
で、でも確かにあそこは
誰でも入れるからな。
お客の方は俺等に任せて、
ボイラー室の様子を見に行って来てくれ!
ヴァリングスのスタッフ全員で
この当館にいる冒険者・観光客の安全を最優先に考え
迅速な対応を施し始める。
"木を隠すなら森の中"
"人が隠れるなら人混みの中"
この事態をロビーで監視している謎の黒い影。
よし。決行の合図が来たな。
この算段に応じて、必ず "アレ" を
探してこのヴァリングスをぶっ潰す!!!
でも、まさかアイツがここに居るとはな。
再会を待ち侘びたぜ。なあ……
そして、場所は戻り4階――。
右も左も分からぬまま、立ち往生していて
早く皆の元に戻りたくても戻れない状況に
立たされていたシルドラ。
エンディアさん、ミルフさん……
何処にいるんですか?
ヤバい。本当にこのままだと
館内で迷子になっちゃう。何か
目印になりそうなモノとか無いかな?
確かここは4階。フィッシュセラピーの
体験処があった筈。その受付に行ければ
何とかなるんだけど……
ガチャッ
背後の方から聞こえた扉を開ける音。その際に
一瞬だけ見えたシルエットを頼りに
声を掛けようと勇気を振り絞る。
おっと。お前の方が年下に見えるな。
まさか、俺が何をしていたのか
見てたのか?
何も見ていません。ただ、あの扉の
向こうで "何か" やってたんですよね?
やっぱりそうだ!!!
しらばっくれた表情なんかしやがって。
穏便になっても無駄だ。お前も
アイツの仲間だって言う事知ってるんだ。
僕は貴方が困ってる表情をしてたから
声を掛けたんですよ!! それなのに
いきなり会って唐突な物言い
止めて下さいっ。
う、うるさい!!!
お前に名前を名乗る筋合いなど無い。
その時、聞き慣れた声が
湯煙の向こう側から聞こえ始める。
おい、喧嘩は止めろ!
するんだったら、ヴァリングスの中では
絶対にやるんじゃねぇ!!
って、喧嘩してたのお前か。
珍しいな。それにしても一体誰と?
…………。
ラグ。済まんな……
喧嘩の相手は俺なんだ。
えっ、ブランザじゃないか!!!
お前ずっと何処に居たんだよ。
探してたんだぞ。
【ブランザ】
色々済まなかったな。1つ
言いたい事があるんだけど、言って良いか?
煙突の排出口を開け閉めしてたのは
俺なんだ。本当に済まない!!!
責めないのか?
別にここを解雇して貰っても構わないぞ。
それ位の事をしたんだ。
温泉街の土産処店員、
ヴァリングスのボイラー室点検士。そして
ヴェアソープライセンスの所持者。いつも
助けて貰ってるのはこっちの方だぜ。
それに此処はお客様だけじゃなく
スタッフ一同も幸せになれる場所だ。
ブランザ、お前がやった事にも何か
理由があったんだろ?
やっぱりな。安心しろ。
ここに居るシルドラって言う奴は
お前の味方でありダチになってくれる筈だ。
ただ、さっきは
切羽詰まってる状態だったのに
あんな言い方して済みませんでした。
さっきはカッとなってしまって
俺の方こそ済まなかったな。改めて
自己紹介させてくれ……
俺の名はブランザって言うんだ。
ラグが言ったように色んな仕事を
やらさせて貰ってる。確か
シルドラって言ったよな。
俺も旅する
石鹸クリエイターなんで
色んな人の交流履歴が残ってるんですよ。
32話ラストに
とびっきりの驚き情報来たあああああ!!!
次回、ブランザの口から語られる
ヴァリングスに纏わる黒い噂。そして
営業の妨害として何者かの手によって館内に
放たれた危険生物を退治する羽目に。
シルドラ、汗だくになりながらも頑張ります。
彼の頑張りを見てあげて下さい。
第033話:【四の頁】へと続く――。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)