第081話:地下の崩壊!?暗雲分かれるフェルマータ城脱出劇!!(完結篇・Ⅰ)
文字数 6,157文字
黒煙に包まれる黄昏時、
此処は、エアロブルー飛行場――。
それでさ、ライガーの奴
姉妹の事を心配し過ぎた挙句
留守中の喫茶店に、無断で侵入しようと――
ランバード、ブレイア様が御到着された。
挨拶をきちんとしてくれ。
礼儀作法はお前から
必要以上に叩き込まれた訳だしな。
それ位、弁えているつもりだ。
ブレイア様、お勤め御苦労様です。
話は姉から聞いております。
ふん。てめぇが噂に聞くライアンの弟か。
飛空士として良い面構えしてるな。
そんな事より
ブレイア、お前此処まで何しに来た?
ビューウェーブの方は大丈夫なのか?
安心しろ。一先ず峠は越した。
港町を守るべく住民共が一丸となっている。
人々の絆の繋がりが功を奏したんだな。
なら、後はアレドシアだけだな。
まさか、城に出向くのか?
ああ。俺も
獄長としての意地がある。
シルドラが1人で改心させるならまだしも
彼は偶然立ち寄った二十歳の冒険者だ。
全てを受け止めるには荷が重いだろう。
人への憎悪は心を滅ぼす。清純な
彼からしたら身体に酷だからな。
クルディーとプリメラの1件で
聞きたい事があったけど……
奴の悪事を止めたい気持ちは俺も一緒だ。
だから協力者になってあげた。
と、言うよりかは
犯罪者を放って置く事が出来ないだけだろ?
それは只の職業病だ。
更生をするのに、犯罪者の心に
寄り添ってあげる事も必要だと
ラスター大佐に必要な事は全て教わった。
おっと。話が長すぎたな。
ランバード、宜しく出来るか?
勿論ですけど、
あの辺りは地盤の影響で着陸出来ません。
如何致しましょうか?
安心してくれ。
ヴァンウッドの針葉樹の高さ程度を
維持してくれたら、後部座席から
飛び降りる迄。怖くも何とも無いからな。
後部座席への着席の方、お願いします。
安全運転を心掛けさせて頂きます。
彼の着席と同時に、
ランバードの操縦する小型航空機の
操縦席の前に飾られている
行先掲示板が「フェルマータ城行」と表示され
彼は滑走路を北へと向かい
そのまま上空へと離陸して行った。
(前話のあらすじ)
フェルマータ城に
仕掛けた爆弾が次々に作動。
進行方向には瓦礫の山、
1階が見える大きさを誇る剥き出し状態の穴。
様々な障害物を乗り越えて
シルドラが辿り着いた先は外の様子が見える回廊。
時はもう夕刻。そこで腹部に酷い重傷を負った
レブロンがアレドシアの手によって
人質に取られていた。
彼の夢の中で
自分がフェルマータ城に
初めてチームとして出動した際に、教育係として
世話になったヴェスターと偽りの仲違いをしながらも
仲良く活動を果たしていた記憶を思い出し、
自分が今まで抱えていた心の靄が
現在も紡いでいる途中のシルドラと交わした
絆の繋がりと共鳴し、レブロンと完全に
仲直りを果たす事に。
ただ、時は待ってくれないと
再びフェルマータ城の "何処か" が爆破されてしまう――。
さぁ、アレドシアさんも
ヴァルさんの処刑を解いて皆さんで――
****
爆破スイッチが押される
10分前のフェルマータ城地下、岩肌洞窟。
後から来たロギュアのお陰で
ヴァールブルグ海賊団の船員達が捕らえられた監禁部屋が
近い事が判明したけれど、航海中とは違い
外の様子が見えない状況下。常に心配でいた
船長ゼルガスは一目散に向かう。
監禁部屋――。
グラッツが管理していた
南京錠専用の鍵で開扉を行い、中へ入ると
直ぐに皆の安否確認を取り始める。
わっ、ビックリした!!!ぜ、ゼルガス親分じゃないっすか!!!
おいおい、幽霊を見た表情をするな。
俺は未だしぶとく生きてるぞ。
親分の方こそ、御無事で何よりです。
怪我とかありませんか?
あっ!!! 親分の腹部に
殴られた跡があるじゃないですか。
だ、誰にやられたんですか!?
おいおい、そんな慌てるなって。
別に大した事ねぇから、安心しろ。
親分がそう言うなら
間違い無さそうですね。船員一同
ゼルガスさんの帰還を心待ちしていました。
ああ。俺の心強い仲間が
皆を助けにやって来てくれたんだ。
特にこの栗頭のブラウンって言う奴は
なかなかに出来る強者だぞ。
あっ、また栗頭って言われたじゃん!!!
何、最近この仇名流行ってるの!?
おっ。お前が親分の
窮地を
死に物狂いで助け出してくれたんだな。
ありがとな、栗坊主!!!
ちょ、ちょっと!!!
剥いた栗がボクの頭に似ているからと
言って、余計な物を足さないで下さい!!!
そんな事より早く
その海賊船が停泊してる場所に
向かった方が良いんじゃないのか。
この階段を下りた先に錨を
下ろしてるんだろ?
よし。これで全員だよな?
ヴァールブルグ海賊団、船員15名。
点呼し忘れてる奴は……
居なさそうだな!!
よっしゃ。お前等、船の元に向かうぞ。
こんな物騒な場所ともオサラバだ!!!
時間は掛かったけれど
無事にヴァールブルグ海賊団、完全復活。
しかし、この薄暗い洞窟に何時までも留まるのは御免。
此処を脱出するまでは気が抜けない状態。
皆の周りに一気に緊張感も走る。
しかし、その瞬間は突如として
地面と天井より遥か上の方から
揺れと轟音として彼等には伝わってしまう羽目に――。
ま、またアレドシアが爆破スイッチを
作動させたんだ!!!
急いで停泊場に向かうぞ。
このままだと皆巻き添えになる恐れも……
その時、ブラウン近くの
天井に穴が開き大量の瓦礫と破片が
彼の頭上にまで迫って来ていた所をミルフが察知すると――
おい、ブラウン!!
急いで下へ降りろ!!!
お前の頭上から瓦礫が落ちて来るぞ。
ブラウンが
都合良く地下に向かう事が出来る
階段の位置近くに居た為、先ずは彼だけでもと
この状況を乗り切って欲しいと
ミルフの咄嗟な独断とは言えども
何とか海賊船を停泊させている
海食洞穴へと向かわせる事が出来た。
だけど、まだ悲劇は終わっていない。
今回は数回に渡る爆破が一斉で起きてしまったせいか
今だかつてないピンチが襲い掛かる。
ミルフ、シルヴェス。
それにヴァネッサ。今は非常事態だ。
お前等も急いで部屋の中へ入れ。
ブラウンの後を追う。
アイツ、1人じゃ可哀想だからな。
駄目だ!!!
この爆破の状況分かってるのか!?
多分、もうこの城も数分も持たない。
お願いだ。話を聞いてくれ!!!
じゃあ、何で全て
ゼロになるような爆発物を仕掛けたんだ!?
冗談じゃねぇ。俺等を巻き込むなよ!!!
やっと息子と
再開出来たのにも関わらず
今この状況を以ってこの階層が
上層階から降って来た瓦礫で埋め尽くされてしまい
監禁部屋に入っていた
ミルフ、ヴァネッサ、シルヴェス
そして船員達は難なく逃れる事に成功した。
けれど、残念な事に
通路に居たロギュアとグラッツ、そして船長ゼルガスの計3名。
迂闊に動けない為に、進行方向を断たれてしまい
消息不明となってしまう――。
****
一足先に逃れたブラウンは
身軽な速さで階段を下り、錨を下ろしている
停泊場に無事に到着。大きな海賊船を今目の当たりにしている。
うわあー。これが
ゼルガスさんの海賊船なのかー。
凄くかっこいいね!!!
あっ。そう言えば
ボク1人だったんだよね……。
喋りかけても誰も居ないのは寂しいな。
その時、先程爆破された
衝撃でこのフェルマータ城の
海側に面する部屋が跡形も無く全て崩壊してしまう。
両親と使用人の寝室、
母親の衣裳部屋、父親の書斎。
何処までも広がる大海原をバックに
全て一から内装を拘った部屋も
今となってはもう不必要だと、断捨離を決意した
最中の出来事が皆も巻き込む形として
一足先に海賊船の元に向かった
ブラウンもその影響で退路を断たれてしまった――。
あ、そうだった。
シルドラ君はレブロンさんと
アレドシアさんの心を助ける為に
頑張ってるんだよね。
ぼ、ボクも出来る男に
なる為に頑張らなくちゃ!!!
いつまでも頼られっ放しはイヤだもん!!!
よし。皆を助ける為に船内を捜索しよっと。
何かしらあるよね!?
えっ、えーっと……
どの部屋に入れば良いんだ?
さっきみたいな変な仕掛けとか無いよね?
船体に建てられている
帆柱、
見張り台に繋がる縄梯子と支えるロープ。
ゼルガスと船員達が掲げた「海賊としての自覚」を
示した青と水色の縞模様、中央部分に
髑髏マークが記された海賊旗を見上げている。
うわあー。
これが海賊である証の海賊旗。
ホントかっこいいよなー。ん?
もう、仕方ない。
虱潰しに1部屋ずつ探すしかないっ!!!
と言う事で、
先ずは
ここの部屋からお邪魔しよっと!
失礼しまーす!!!
あ、あれ!?
ノブが回らない!?
お願いだから開いてよー!!!
あっ。よく見たら扉の小窓下に
ゼルガスさんの名前が記されていた。
確かに自室に勝手に入っちゃダメだよね。
船員室、要するに寝室――。
船舶内での寝床は基本ハンモック。
理由として挙げられるのは、船の左右運動と
同調して動く為、就寝時に床に落下したり、
床の上を転がってしまう危険性が無い。
ただし、やはり此処で皆と一夜を過ごしているせいか
船員達のダラしない一面が床に現れている。
う”っ。何かこの部屋臭い!!!
何、この匂い。もしかして、この服!?
ぶ、ぶはっ!!!何とも言えないこの独特な匂い。
これが噂に聞く加齢臭って言う奴なの!?
確か、マツカゼ様から
歳を重ねて生じる中高年特有の匂いって
教えてもらった覚えがあるんだよね。
ボクはまだ若いから大丈夫だよね!?
うん、この部屋には無さそうだな。あはは。
そして、ブラウンは
そっと優しく扉を閉じるのであった。
****
その頃、ブレイアを乗せた
ランバードが操縦する小型飛行機は
ヴァンウッドに生えている針葉樹より
ほんの少し高く飛び続け、シルヴェス達が
この森を抜ける際に使用しなかった
西寄りの出口付近で、地上へと飛び降りる事に。
ランバード、
てめぇの操縦技術は確かなモンだな。
此処まで連れて来た事に敬意を表すぞ。
勿論です。獄長として名高い
ブレイア様が搭乗してくれただけでも
飛行士として冥利に尽きます。
そのまま、彼は
地上へと無事に着地し「アレドシア連行」の
任を果たすべく、もう本当に目と鼻の先にあり
上空には黒煙、
周辺には爆破された時に生じた砂埃。
城が建てられている岸壁も少しずつ削れて来て、
完全に倒壊するのも時間の問題である
フェルマータ城の正門前に辿り着く。
酷い有り様だな。
自分の城を墓場にまで持ってくつもりか。
おい、アレドシア!!!
聞こえてるんだったら返事をしろ!!!
ブレイアの怒号と同タイミングで
正門の左右支柱に嵌められた爆破物が作動。
巻き添えと言う名の洗礼を真っ先に受けてしまった。
て、てめぇ!!! 少しは
話を聞いてやろうと此処迄来たんだぞ。
よくも手荒い歓迎をしてくれたな。
だ、誰の話も聞きたくない!!この城も崩壊間近。此処で生涯を終える。
多大な迷惑を掛けた私なりのお詫びなんだ。
はぁ、何言ってやがる!?
死んで詫びるって言うのは筋違いだ!!!
じゃあ、自主する気も無いんだな?
だから、言っただろ!!!私はお前の世話にならずに海へと落下。
藻掻き苦しみ、陽の光が差し込まない
深海へと姿を消して行く。
私の頬を叩いた!?
死んで詫びるんだから別に良いだろ!?
簡単に
死ぬなんて言わないで下さい!!!
アレドシアさんは1人なんかじゃ
ないんですよ!!!
シルドラがアレドシアの右頬に
初めてビンタを入れた現場を目撃したレブロンとブレイア。
ふふっ。やっぱりシルドラの奴アレドシアの事も放って置けないんだな。
う”はっ。く、くそっ!!また吐血してしまったじゃねぇか。
はぁ、はぁ……。
シルドラ、奴に
絆の可能性を示すんだ!!!
てめぇの辞書に不可能の文字が
無い事を見せ付けてやれ!!
****
場所は戻り、
ヴァールブルグ海賊団の
船内をくまなく捜索しているブラウン。
鍵が掛かったゼルガスの船長室、
船員室に続き、厨房付き食事簡易スペース、宝物庫。
縄梯子を降りて最下甲板へとやって来ると
奥行きのあるこの船の中で一番大きな部屋へとやって来た。
えっ!?何、この部屋。暗いじゃん!!!
明かりとか無いの!?
えーっと、こう言った場所だから
松明とか灯籠じゃないよね。
何処にあるんだよー!?
えっ!!! な、何この部屋!?
何か片手剣とか物騒な物ばっかりじゃん!!
お前が腰掛けているのも
実は樽型の爆弾だったりしてな……
あーっ、ゼルガスさんだ!!!
助けに来てくれたんですね!?
ああ。さっきの崩落の影響でこの海食洞穴まで落ちて来たけど、
何とか平気だ。はぁ、はぁ……。
多少息は上がってるけど、気に済んな。此処からは俺も手伝わせて貰うぜ。
その為にブラウンが居るんだろ?頼りにさせて貰うぞ。アレドシアに
ギャフンと言わせてやろうぜ!!!
ティブルエイド、フェルマータ城編
完結3部作始動――。
崖上に建立している事も
困難と化しながらも最後まで望みを捨てずに
シルドラ達は「奇跡」を信じて、どんな高い壁も登って行く。
アレドシアの心の修復度まで後5%。
注意事項)
この話から2話分の次回予告は用意してません。
次話が公開される当日迄の秘密です。
第082話(2部作目)へ続く。
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