第082話:城が崩れ去る音!?心底に眠るアレドシアの光を救え!!(完結篇・Ⅱ)
文字数 6,619文字
ティブルエイドを一望できる岩山。
フェルマータ城に仕掛けられた爆弾を
最高のエンターテインメントと称えるアグニブは
特等席で着席しながら "その時" が来るのを
今か今かと待ち侘びていた。
おい。オメェも見て見ろよ。
もう崩壊寸前だ。黒煙と砂埃の
マリアージュがこの夜空を彩るには
持ってこいの時間が迫って来たな。
ああ。もう直ぐ日も暮れる。
あの城が倒壊さえすれば俺達の任務も
晴れて完了する。生前のシルギム様の
御依頼も達成される訳だ。
呆気無かったもんな。
アレドシアが銀の剣で刺したお陰で
致命傷を与える事が出来た。その時点で
勝ったも当然。父親の無念を息子が
きっちりと晴らしただけの事だ。
最後まで見届けたら
アレを回収しなければならないんだ。
はぁー。オレの自由は
何時になったら訪れるんだか。
ってかさ、この任務を
遂行完了した後はどうするんだ?
一先ずは解散する予定だ。
俺は回収したブツを届けに席を外す。
アグニブはどうするんだ?
おっ、自由時間か!!!
ならオレは羽根休めして来るぜ。
ちょっくら離れた場所でバカンスとしよう。
只、今はアレドシアの
一連の動きを把握しとかなければいけない。
第081話(完結1部作目)のあらすじ。
地下の監禁部屋に捕虜されていた
ゼルガスが指揮を執るヴァールブルグ海賊団の
船員達を無事に救出。その時、まるでタイミングを
謀ったかのように海側に面する部屋が
爆破の餌食となり、瓦礫・破片として
天井から降って来る前に
ミルフの咄嗟の判断で
ブラウンは海食洞穴にある海賊船の元へ
残りは崩壊の回避をする為、今1度監禁部屋へ入るけれど
ゼルガス・ロギュア・グラッツの3人は
瓦礫の雪崩に巻き込まれてしまい
ゼルガスだけは真下の海に落下。
荒い息を立てながら船内でとある捜索をしている
ブラウンと何とか再会を果たす――。
ってかさ、
これって爆弾なんだよね!?
何でこんな物騒な物が此処にあるの!?
ああ。この世界では海賊も競争社会でな。宝物と金貨の奪い合いを行うのに
こう言った爆弾も必要になるのさ。
まぁ。コケ落としになる位だけど。
そうなんだ……。
海賊業界って言うのも大変なんだね。
ボクなんか大きな物音を
聞いただけでも冷や汗掻くんだよー!!
まぁ、輝かしい宝物に心を惹かれているのは何処の海賊も一緒だ。
危険と隣り合わせの奪い合いだからな。
だったら、その危険物で
あの瓦礫を崩壊させる事だって……
だーかーらー!!!
その爆弾の威力があればこの状況も……
あっ、そうだよ!! ゼルガスさん
これがあれば皆を助けられるんじゃない!?
この場合、正確な位置に設置すると地壁に亀裂が入り、皆が居る
監禁部屋の床面も崩れてしまう恐れがある。
何事も無く無事に救出するには微妙にズレた位置に施す必要があるんだけど
どうだ、お前に出来るか?
し、死ぬなんて言わないで下さいっ!!!
絶対に助けますから!!!
最下甲板の
広い部屋にしまってある樽爆弾を使用し
ミルフ達の救助を目論む。1mmでもズレたら
避難した監禁部屋の床が抜けてしまう
恐れがある為、設置するベストな
位置を見極める必要がある。
今、自由奔放なブラウンの勘が冴え渡ろうとしていた――。
****
ティブルエイド、
港町ビューウェーブ。
ふぅ。急いで戻って来たけど
モニターの映像を見る限り、事態は
かなり深刻な状況に陥っているようだな。
ああ。あれからどうなった?
俺の留守中に何か起きたか!?
アジールさん、
フェルマータ城に仕掛けられた
爆弾が次々に起動してしまう中で、あそこに
見える回廊で例の少年がアレドシアと
対峙しているみたいですね。
し、シルドラ……。
遂に辿り着いたんだな、彼の元に。
それが聞いてくれよ!!
さっき、その少年がアイツの頬に
ビンタしたんだぜ。シルドラって言う奴も
この騒動を止める為に必死になって
立ち向かってるんだな。
冒険者としての自覚だけじゃなく
心、勇気も立派に成長したんだな。
だったら、
尚更俺達も
シルドラにエールを送らないといけない。
ここに居る者だけじゃないんだ。
どんな困難な状況に陥っても
どんな甚大な被害に遭っても、皆の
協力1つで高い壁も乗り越えられる。
消火、重傷を負った者への治療、
その他諸々現在総動員でこの大陸を守る為
命を張って頑張ってくれているんだ!!!
町役場の隣の
一軒家が爆破されてしまい
今も瓦礫の撤去を取り仕切る初動部隊。そして
ヴァンウッドの木々に燃え広がる火の手を
消火する巫女族と師範含める
シノヴァシアの者達。
現在、ティブルエイドでは
かつて起きる事が無かった未曾有の危機に瀕している。
今こそ一致団結して、乗り越えなければならない。
一人として欠けてはいけない。当たり前の事だけど
もう一度自分に言い聞かせる為にも
代弁する形で町長のアジールが
強い主張をし出す。
負けるんじゃねぇ、シルドラ!!!俺等の想いもぶつけてくれ!!!
****
海食洞穴――。
ヴァールブルグ海賊団、停泊場。
複数個の重い樽爆弾をせっせと船から下ろし
刺激を与えないように丁重に地面に置く。
ははっ。船は低コストだけどこの樽爆弾だけはいっちょ前に
一点物だぜ。吹き飛ぶ範囲がデケぇんだ。
じゃあ、この
樽沢山に
火薬がびっちりと詰まってる感じなんだね。
あはは。ちょっと怖くなった来たな……。
安心しろ。その代わりに導火線が長い。点火する前に物陰に隠れれば
難なく逃れられるからな!!
ああ、良いぜ!!!よし。次はあそこの瓦礫の所まで
爆弾を運ぶんだ。お前の第六感を
研ぎ澄ませて、慎重に設置してくれ!!!
15分後――。
自分が降りて来た階段をジッと見つめるブラウン。
微妙なズレを自分の感覚で計算し
皆が避難した監禁部屋の石床ではなく
通路側の瓦礫に刺激を与える為にも
崩落して来た目前にある岩と岩の隙間を凝視しつつ
正確な位置への設置を見極めていた。
うーんと、
ここの箇所にヒビを入れないといけないから
皆が居る2階上の通路に行き渡るには
この岩の裂け目に合わせてっと……
集中力を研ぎ澄ましているのか。誠拳道で鍛え上げられただけの事はあるな。
『いいか、ブラウン。
雑念を取り除き、集中する事だけを
維持すればどんな困難な状況に陥っても
必ず其方の前に道が開かれる筈だ。』
よし、ここだ!!ゼルガスさん、点火お願いします!!!
よっしゃ!!!派手にかましてやろうじゃないか!!!
最下甲板の
樽爆弾に横に置いてあった
道具の布部分を地壁に擦り付け、辺りを照らす程の
眩い炎を導火線へと点火。
そしてゼルガスの合図で
ブラウンも巻き添えを喰らわないように
その場から一目散に立ち去る。
よし、点火した!!!ブラウン、急いでその場から逃げろ!!!
10秒、9秒、8秒……っと
カウントダウンを告げるかのように
長い導火線に点火し、1秒に1cmずつ
燃えて行く中、ゼルガスの元に後もう少しで辿り着く所で
樽爆弾が地面を震わせながら爆破。
海側に面した部屋が倒壊された
その際に崩落して来た瓦礫が音を立てて
吹き飛ばした結果、とんでもない事に
断崖絶壁の真下、海賊船が停泊していたフェルマータ城に
船で行く際に辿り着く岩肌洞穴が
少しずつ崩れ始めて行ってしまう。
城も完全崩壊までのカウントダウンがいよいよ始動。
残り15分――。
お、おう……。まさか、本当に成功させるとは驚きだな。
ブラウン、大手柄じゃねぇか!!!お前も男を見せたな!!!
やったー!!!
ゼルガスさんに褒められちゃったー。ん?
わ、わっ!!急いで逃げて下さい!!!
鍾乳石が上から落ちて来ますよ!!!
す、済まねぇ。
さっき通路から落ちた際に足を捻ってな
思うが儘に動かす事が出来ないんだ。
引き摺る事しか出来ねぇし……。
こんな
鍾乳石、あたいが粉々にしてやる!
うおおおおおおおっ!!!
俺も皆も無事だ。
ブラウンが道を切り開いてくれたんだろ?
そうだよー。
ゼルガスさんの船に爆弾があったから
それでドーンって吹き飛ばしたんだ。
だけど、今は
そんな事言ってられないんだよね!!
その威力が大き過ぎて、この岩肌洞穴も
後数分しか持たないみたい。
今時、爆弾を使用している所なんか
ヴァールブルグ海賊団だけよ。
まあ、その豪快さを
売りにしているのがゼルガスらしいけどな。
うっせぇな。実力行使を売りにしてるだけだ。文句あっか!?
あっ、あのね!! ゼルガスさん
数分前の爆発の影響で足を捻って
そのまま海に落下して来たんだよ!!
おい、お前等!!
ゼルガス親分を船に運んでくれ。
このままだと全員お陀仏になるぞ!!!
俺も手伝う!!!
ミルフ、ブラウンを連れて乗船するんだ。
ヴァネッサさんもお願い出来るか?
ふぅ、仕方ないわね。
こんな下級船に乗船するのは癪に障るけど……
今は非常事態。
粗方の舵輪操作は把握してる訳だしな。
良いわ。ここからは私の指示に従って貰う。
船員共、急いで帆を張ってくれ。
緊急出航準備に入る。
うおーーーー!!!
ヴァネッサ姉さん、一夜限りの船長。
の、脳が震えるぅぅぅぅっ!!!!
あ、あのー……
脳は大事にしないとダメだからね。あはは。
10分後――。
ヴァールブルグ海賊団の指揮を執る
ゼルガスが現在重傷を負っている為、臨時として
アジュマリン海賊団の船長ヴァネッサが舵を切る事に。
ミルフ達、
そして船員が全員乗船している事を確認し、
船の帆がきちんと張れているか、進むべき海流に
きちんと船体が乗っているか、を先程の爆発の影響で
上から降って来る岩の小さな破片を
避けつつも確認する。
帆の張り具合、
進むべき海流の航路指針も確認出来たわ。
乗り遅れは居ないかしら?
ちょっと待ってくれ!!
今、ブラウンが向こうの岩影で
ズボンを下ろしてる筈だから!!!
手は洗ったのか?汚い手で触るとゼルガスに怒られるかもよ。
あっ!!! そうだよ。
手洗ったのにハンカチで吹くの忘れてた!!
うーんと、確かミルフさんって
ウサギさんのハンカチ持ってたよね。
貸してくれない?
あ、あれはあたいの宝物なんだ!!!
何で知ってるんだよ!!!
『ミルフさんって
猪のパンツに、虎のビキニ。
それに狼のブラジャーを身に付けていてね。
後、大事そうにウサギさんのハンカチも
肌身隠さずに持参しているんだ。
これ、彼女には内緒ですよ。』
ほう。事を全て終えたら
シルドラには30分間の説教フルコースだな。
こうやって笑い合ったのも久方振りだろうか。
無事にゼルガス率いる
ヴァールブルグ海賊団全員を助け出し
ヴァネッサが舵を切りながらも、
見るに堪えないフェルマータ城崖下の
岩肌洞穴が崩壊する中、何話振りだろうか
夜の青海へと無事に帰還を果たす。
航路指針を少しの間無視し
城の現状況を確とこの目で見極める為
崩落の魔の手が襲って来ない海上へと避難をし
その場でゆっくりと錨を下ろして行く。
****
2階、回廊――。
腹部を刺されて重傷を負っている
レブロンは荒い息をし続けていても
磔状態にされていて可哀想でならないヴァルの手足に
縛り付けられている縄を1つ1つ解いて行く。
ヴ、ヴァル!!!もう少しで助かる。奴の計画は終わったんだ。
何、勝手に終わらせてんだよ!!!この状況見て何も分からないのか!?
例えこの崩壊から
免れても
真下には冷たい海面が待ってるんだぞ。
もう誰も助からない。
アレドシアさん、
僕は貴方とも絆を結びたいんです。
ここで生涯を終えて何の得があるんですか?
ふん。何度でも言え。
嫌いなお前に交わす言葉は何1つ無い。
ふふっ。嫌われちゃいましたね。
僕なんかまだまだ……。
しかし、私をここまで追い詰めるとは
シルドラもなかなかなやるな。
ああ、そうだよ!!辛苦しつつも心を鬼にして、私の
理想な大陸を作り上げる事を夢に見ていた。
だけど、残念ながら
完敗だ。
レブロンとヴァルを連れてここから逃げろ。
後、数分も経たないうちに
最後の爆破がフェルマータ城に襲い掛かろうとする中
レブロンは腹部に負った痛みを堪えながらも
狼族を1人だけでも生き残らせる為に
ハービングライセンスを所持する
シャノンの元へヴァルを背負いながら
向かおうとしていた――。
レブロンさん、
ヴァルさんを背負って何してるんですか?
安心しろ。今からでも遅くない。これからヴァンウッドの森へ向かい
シャノンの奴に治療を施しに行ってくるぞ。
そんな事気にしてたら誰1人救えられねぇだろ!!
お前がアレドシアを助けるなら
俺はヴァルを是が非でも救い出してやる!!!
分かりました。
貴方の熱い覚悟、確と耳にしましたよ。
やっと僕の大好きなレブロンさん……
レブロンも
フランバージュの一員だった過去を
拭う事は出来ない事位百も承知。
シルドラと仲直りを果たしたからには
彼に自分なりの誠意を見せないといけない。
狼族、ヴァル=バーンズ。
死を迎えるまで残り4時間を切ってしまった。
城内は崩落と化し、移動するだけでも儘ならない状況。
最後まで望みを捨てずに今、レブロンが
何としても生を維持させる為に
ヴァンウッドの森へと向かう。
ただ、そんな時
残りの部屋に仕掛けられた爆弾が
一斉に爆破させられてしまい、この城の
バランスが完全に崩壊。ここ2階の回廊に居る
シルドラとアレドシアを寸断するかのように
亀裂が深く入ってしまう最悪の
事態が加速し始める――。
わ、わっ!!!
こ、この揺れはヤバい。
急いでアレドシアさんを助けないと!!!
回廊の周辺に
散乱していた瓦礫や装飾品の破片が
海上へと次々に落下して行くのを交わしながら
意を決して、亀裂が入った向こう側へ
今、飛び移る――。
フェルマータ城、完全崩壊。
心の修復度が100%になった所で、
ティブルエイドの物語は大詰め。
勇気を色んな方から授かったシルドラ。
今が踏ん張り時だ。
第083話(3部作目)へ続く。
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