第065話:ブラウン頬張る団子!雨の茶屋と霧の森に迫る足音!!(後編)
文字数 5,625文字
大雨の港町ビューウェーブ。
中央噴水広場――。
設置された
巨大モニターに映し出されているのは
アレドシアに刺され衰弱状態に陥っているヴァル。
いつ死を迎えるか分からない為、映像を
凝視しないといけないけれど、雨に打たれながら
見るのも酷。一時的にユエリアとクラムが
営んでいる洋服屋で雨宿りをする事に。
何で、アレドシアの方が優勢なの!?
可笑しいじゃない!?
どうせ、彼の方が
カリスマ性があるんだろ!!!
裏を気取りながらも、実行力もあるんだ。
アジールさん……
そんな落ち込まないで下さぃ。
私もヴァルさんが死ぬなんてイヤですぅ。
ユエリアちゃん、大丈夫だ。
俺は最後まで奴と戦い抜く。
どんな不利な状況でも、絶対にヴァルを助け
ティブルエイドに平和を取り戻してやる。
それに、こっちには
とって置きの切り札があるからな。
あっ、もしかして
その切り札ってあの方じゃないですか?
ねっ、クレアお姉ちゃん。
あら、
奇遇ね。
私も同じ人を思い浮かべてたのよ。
彼等は今
フェルマータ城に向かってる。
手を出さずに言葉で解決させるのは十八番。
絶対にアレドシアを改心させられると
俺はアイツを信じてるんだ。
ふふ。そう言う所が
貴方の取り柄だと私は思ってるわ。
アジールさんは自分でしか出来ない事を
やればいいの。それで住民達を
ギャフンって見返せば良いんだから!
もうっ、10代の
女の子に何励まされてんのよ。
しっかりしないとダメじゃない!?
ああ。これでも男だ!!
此処からは逆転を見せ付けてやる!!!
不利な状況に陥っても
ヴァルが死ぬまで12時間。
まだ時間は有るし、逆転も十分に可能だ。
モニターによる
アレドシアの演説なんかに負けじと
本当の狼族がどんな存在で、画面の向こう側で
幾つもの悪事を働いて来たアレドシアの計画を
全て暴露すべく、有権者同士の論争に
再び火を付け始める。
****
場所は変わり、
フェルマータ城に向かう道中のお茶屋「甘蜜」。
突然の大雨に降られ
雨宿りする事になり、序に少し休憩しようと
名物である「蜜彩団子」を皆で食べる事に――。
うん!
初めて食べたんですけど
この桃の香りがたまらないですねっ。
あら。中の
餡に桃の皮が
少量入ってる事に良く気付きましたね。
うん。それはボクも思ったんだー。
先にシルドラ君に言われちゃったけどね。
ほ、本当だよっ!!!
ボク、コンフェクトフェスティバルの
審査員なんだよ。気付いて当たり前だもん。
ぷんぷんっ!
もう怒ったもんね。雨が
降り止むまでいっぱい食べてやるんだから。
って言う事で
コトハさん、お団子の追加お願いしますー。
あら。多めに持ってきたんですけど
足りなかったみたいですね。
只今、お持ちします。
皆して座っていた
座布団からコトハだけ起立し、
大量の作り置きしてある団子ケースの元へ向かう。
その一方、
1~2本位しか食べないミルフとシルヴェスの
2人を見て食欲が無いのかな、と心配がる。
あたいは2本食ったぞ。
味には鈍感だから、桃の皮が
入ってたなんて全く気付かなかったけどな。
ブラウン君、
2人の筋肉を見たら一目瞭然ですよ!
トレーニングする上で、団子はさっき
言った通り、稲穂の粉を使うんですから
見ず知らずの内に、ハイカロリーな
食べ物を摂取する事になります。
その分、
ブラウンは気軽に食える訳だ。
ちょっとお前のお腹を触らせてくれないか?
コトハさん、
それは2人だけの秘密って
以前言ったじゃないですか!!
楽しそうな会話を
為されていたので
ほんの少しだけ便乗して見ました。
ブラウン君、ごめんなさいね。
ああああああああ!!
ぼ、ボクの秘密が暴露されてしまったああ。
皆、早く忘れてね!!!
その時、シルドラが身震いを起こす。
少し寒くなったのかお手洗いが近くなった模様。
これから向かう先はフェルマータ城。
言ってしまえば敵の本拠地。
全て解決するまで
何も食する事が出来ないと思い
ブラウンは力を付ける為に
皿の上に残してあったシルドラの分まで
手を伸ばしてパクパクと食べてしまったらしく
如何にしてその場を凌ぐか、
冷や汗を掻きつつも考えていた。
ヤバい!!
シルドラ君がお手洗い行ってる最中に
お団子全部食べちゃった!!!
えー!!!
怒られない方法を考えてよー。
ボクを助けるつもりでさー!!!!
あっ。お皿を
下げて貰えば証拠隠滅出来る。
すみません。急いで下げて貰っても……
お手洗いの目前にある
茶屋の屋根を支える柱から顔だけを覗かせ
この世の物とは思えないシルドラの闇掛かった表情と
台詞を埋め尽くす赤い血文字を
再び拝む事になるとは。
違うんだよー。
ボク、てっきりシルドラ君が
未だお皿の上にお団子を残してるなんて
全く思わなかったの!!!
ねえ、ブラウン。鬼の居ぬ間に洗濯って言う言葉知ってる?
何、怖いシルドラ君が
居ない間にお団子を君の分まで食べて
寛いでいたから怒ってるんでしょ!?
そう。怖い僕が居ない間にのんびりと団子全部食い尽くしたんだ。
何の断りも無く、勝手に平らげた。
同じ皿で運ばれて来たから
何本食べたか分かるからね。
と言う事で、ここの勘定は全部君持ちだから。宜しくね。あははははは。
何でだよおおおおおお!!!
全部食べたのは謝るからさ、許してよ!?
茶屋「
甘蜜」で
団子を堪能しながら雨宿りしていると
気付いたら大雨は止み、さっきまで
聞こえなかった近くに流れる小川の水の音が
シルドラ達の耳に入って来る。これこそ風情そのもの。
茶屋周辺に
落ちていた木の枝や葉っぱを
箒で掃除し終えたコトハが店内へと戻って来る。
コトハさん、僕達はそろそろお暇しますね。
あっ、それと
此処の会計は
ブラウン君が支払ってくれるので
彼からお金を受け取って下さい。
分かりました。
合計300ジャラとなります。
支払いは現金でお願いしますね。
何本もお代わりするからだろ。
でも、マツカゼからお前の懐は温かいって
報告を受けてるんだ。あたい等
3人の分も払ってくれたら助かる。
只、支払えないならブラウンには此処で働いて貰って
僕達はフェルマータ城に向かうから。
分かった?
ちゃ、ちゃんと支払うからさ
ボクを置いてかないでよーーー!!!
ぐすん。
彼に言われる
儘ブラウンの財布から500ジャラを出し
コトハから200ジャラのお釣りを貰い受ける。
これは
彼の団子を勝手に食べてしまった罰。
改めて彼を怒らせたら、鼻頭と頬の真ん中まで黒く
表情を曇らせ、闇を開花させてしまう事が
再確認させられてしまった。
シルドラ、恐るべし――。
****
皆さん、この度は
茶屋「甘蜜」にご来店有難う御座いました。
如何でしたか?
おう。美味しかったぞ!
また食べに行きたい味に巡り会えたぜ。
今度はブルーノさんと
フラジーさんも連れて来るんだー!
皆で美味しい物を食べる。
それが一番だもんね。
僕、甘い物が大好きなんで
この味に巡り会えた事に感謝しています!
あっ、そうだ。
出掛ける前に、コトハの親父の名前を
教えてくれないか?
もしかしたら、
道中で出くわす可能性もあるからな。
娘は元気にしてるって伝えて置くぞ。
私の父の名前は
アッジ。
ブラウン君みたいに毛量は少ない方なので
一目見ただけで分かりますよ。
ちょ、ちょっと!!
1番気にしてる事を言われたんだけど!!!
うふふ。シルドラさんを真似ただけです。
上手く出来たでしょうか?
ブラウンをひたすら
弄った
茶屋「甘蜜」の話はここまで。
****
コトハと笑顔で別れ
ひたすら小川の真横を通るように
舗装されてない、少し獣道に近い歩道を歩くこと5分。
フェルマータ城はシノヴァシアから見て北北東。
先ずはこの森を抜ける事を最優先とし
先頭を切って歩いているミルフと
シルヴェスが進行、そして逆方向にも
霧が発生し出している事に一目散に気付き始める。
霧が出て来た。
これ以上先に進むのは不味い。
遭難する可能性が多いからな!!!
シルドラ、ダメだ!!!
お前まで遭難してしまうぞ!!!
で、でも……!!!ブラウン君は臆病なんですよ。
もしかしたら迷子になって泣いてる
可能性があるかもしれないんです。
お願いだ。
あたい等の側から離れないで欲しい。
霧が晴れたら、必ずブラウンを助け出す。
それまでは我慢してくれ……。
事態は急転直下。
先程までシルドラの側にいた
ブラウンが少しずつ濃くなりつつある霧の影響で
未だ続くヴァンウッドの森の中で迷子になってしまった。
****
と、鳥が翼を羽ばたかせたのね。
び、ビックリしたな、もう。
うわあああああああん。
お願いだから、シルドラ君返事してよー!!
覚束ない足取りでも、
ミルフとシルヴェスに必ず再会する為に
怯えながらも勇気を振り絞って、
前へと進もうとしたその時……
ガサガサ(茂みを誰かが移動する音)
うーん。
でも、こう言った場所に
隠れたりするのかな? ちょっと怖いなあ。
ええい!!!
ボクも男だ。何か現れても
誠拳道で撃退するんだからかかって来い!
ブラウンの勇気ある言葉に呼応して
茂みの中から出て来たのは、期待していた彼ではなく――
あ、あれ?
何かいつもと雰囲気が違う気がする。
どうしたんですか?
ち、違うもん!!!レブロンさんはいつも
ボクに会う度に笑って接してくれるもん。
作り笑いなんて只の演技です!!!そんな事言うなんて……
取り敢えず、
俺はお前を呼びに此処までやって来た。
悪いけど当分はシルドラには
会えないと思え。
それを考慮に入れた上で
ブラウン、俺に付いて来てくれ。
(今のレブロンさん
もしかしたら、敵かもしれません……)
濃い霧の中で
突如ブラウンに接近して来たのはレブロン。
しかし、いつもと何処か様子が違う。
遂に彼から笑顔が消えてしまった。
同情する余地もなく
次回から物語はアレドシアの計画第2幕が始動――。
第2幕の一部を一足先に公開。
オイ!!!
何で攻撃しないんだ!?
笑顔が出来ない俺は只の無能な人間だ。
結局シルドラにも朗報を伝えられずに
今に至ってるんだぞ!!!
人間には出来ない事も少なからずあります。そんなに自分を、はぁ、はぁ……
責めないで下さい。
何でそこまで朗報に拘るんですか?もっと皆に頼っても……
ブラウンとレブロンの2人による
素手vs誠拳道を使った喧嘩が正門前で執り行われる。
複数のパンチを喰らい、彼は絶体絶命……。
その光景がティブルエイド全土に流れてしまう中
遂にシルドラ達がフェルマータ城に到着。
全力で止めに入るのはもちろん――
レブロンさん、
何やってるんですか!!!!
もうこれ以上、やめて下さい!!!
邪魔するな!!!こ、これはネックレスを渡さなかった
シルドラへの恨みと言ってた。俺以上に
こんな仲良くしやがって……
おい。逆恨みも大概にしろ!!!!
こんな奴とは思わなかったよ!!!
これ以上
ブラウンに手を出すなら
あたいも一発ぶん殴ってやるからな。
長い間結ばれていたレブロンとの絆が
音を立てて崩れ始めようとしていた。
第066話(第2幕)へ続く。
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