第076話:ティブルエイドの全貌!一悶着を巡るシノヴァシア襲撃の真相!!(前編)
文字数 5,918文字
昨年の冬に起きた出来事。
雪が舞い散る
忍者の里 "シノヴァシア" にて
襲撃に遭い、帰らぬ人になってしまったのは
当時、里の長を務めていた……
ギンジ様、起きて下さい!!!
ボク達を置いて逝かないでよー!!!
な、何で僕の父さんが
死ななくちゃいけないんだよ!!!
雪が積もった
地面の上では寒くて可哀想だ。
シモン、イムラ。ギンジの遺体を
丁重にブルーノの自宅に運んでくれ。
わ、分かった!!!
シモン、こっちを支えてくれると助かる。
今の彼に
何て言えば良いんだろう……。
少しソッとして置こうっと。きっと
心を落ち着かせる時間が必要だよね。
ブルーノの父親、ギンジ。吸っていた煙管の煙だけが
無情にも彼が天国へ旅立った合図を示していた。
そう、このような事態に発展したのは
今から数時間前、来訪してくれた
狼族ヴァルが長を務める
シノヴァルドの里の存続の話し合いを
シノヴァシアの師範達とヴァンウッドの巫女族
総出で決めようとしていた
時間まで遡る――。
ヴァル殿、こんな寒い日に
シノヴァシアまで御足労頂き感謝する。
うんっ!マツカゼさんや
里の皆さんに大歓迎されるなんて嬉しいな。
ヴァル様、彼はギンジ様の次に偉い方です。
もっと心を込めて対応して下さい。
グレント、そんな
畏まらなくても構わんぞ。
せっかく来訪してくれたんだ。
心の底から今宵を楽しもう。
マツカゼ様がそう
仰るのなら。
分かりました。
ふぅ。ちっとばかし寒かったけど
何とか2人を無事に送り届ける事が出来た。
あー、ギンジ様だー!!!!
戻って来られたんですね。お疲れ様です。
ブラウンも
ブルーノの面倒を見てくれて忝いな。
もちろんだよー。
だって、彼はボクの友達だもん!!
それにギンジ様の頼みだから
断れないもんね。
その事でしたら
先程シャノンさんから
多少遅れると連絡を頂きましたよ。
そうか……。
じゃあ今のうちに残りの作業を
片付けるとするか。
残りの書面は
纏めて
お前の家の玄関に置いておいたぞ。
時間ある時にでも良いから
目を通しといてくれ。
ここで、過去話を振り返りながら
おさらいと致しましょう。
グレントは
現在はレブロンのフレンドモンスターとして
主の帰りを待っているけど
以前は狼族の長であるヴァルを護衛する
ボディガードとして務めを果たしていた。
そして、初解禁の情報。
ギンジは現在の里長でありながら
均衡の絆の形を色んな方に教える為
狼族の長であるヴァルを支援したり
教育係まで担っている。
どちらもシノヴァルドと深い関わりを持っている方達。
****
ブルーノ、ギンジ宅。
風情がある
木桶で作られた鉄砲風呂の中にお湯を張りながら
脱衣室の洗濯物や周りを拭き掃除していると
引き戸がガラガラと響く音が聞こえ
ブルーノが一目散に玄関へとやって来る。
ふふっ。毎日こんなやり取りですからね。
家事全般覚えちゃいましたよ。
今日はまだ食事を
摂ってない。
何か腹の足しになる物は無いか?
それなら、先程
作り置きをしておいた物で良ければ
直ぐに用意出来ますけど。
ほんのちょっとで良いんだ。
これから巫女族との会合があるからな。
お、ブラウンか。
こんな夜に出歩くとマツカゼに怒られるぞ。
もうっ、ギンジ様まで。
ボク、立派な21歳ですよ!!
子供扱いしないで下さいよー!!!
大丈夫だ。拙者から見たら
ブラウンもブルーノも未だ成熟中の子供。
それに其方達は同じ髪型をしている。
類は友を呼ぶ、って言う事だ。
父さんがこの髪型にして欲しい、って
ビューウェーブの散髪屋さんに
注文したんですよ!?
ボクなんか
パパに切って貰ったのに
あ、間違えた!って手誤った結果
辿り着いた髪型がコレなんですよ!!!
立派な茸頭だ。拙者の大好きな山菜と共に食えば尚美味い。
ボクは菌類じゃありません!!食べ物に例えないで下さいよー!!!
いずれ、彼は何処かの
作者から栗頭と呼ばれる日が来るなんて
思う由も無いだろう。茶色く何処か憎めない
この坊……、
いや、修行僧にも見えなくもない
愛くるしいこの髪型のせいで今後
色んな登場キャラクターに弄られる事になるとは――。
ガラガラ(2回目:扉が開く音)
ぷんぷんっ!!
今度マツカゼさんの夕飯のおかず
少しケチっちゃうんだからっ!!!
ギンジ殿、
巫女族の皆様が到着されました。
拙者の自宅にてお待ちしております。
了解した。
拙者は後合流させて貰う。先に
この2人を連れて行ってくれると助かる。
よし。ブラウンと
ブルーノは拙者の後を付いて来てくれ。
夜道は何処に危険があるか分からないからな。
現在、
血眼になって
捜索中の身ですけど何処にも
アレドシアの姿が見当たりません……。
狼族を敵視している者には
お灸を据えないといけないんだ。
あれ程、彼には腐る程教えてやったからな。
こんな他愛の無い一時も今だけ。
数時間後、ギンジの身に非常事態が起きる事等
この時は未だ誰も知る由も無かった。
何度も
シノヴァシアを訪れては師範や長に追い返され
ずっと彼の見張りを続けていたけれど
現在、フェルマータ城の何処の階層を見ても
灯り1つも付いていない様子。
狼族の存在を危惧するアレドシア。
人種共存を熱願しているギンジやマツカゼ。
もはや口喧嘩だけじゃ済まない事態へと発展していた。
****
此処はフェルマータ城から
少し坂道を下り、ヴァンウッドの森を進む
アレドシアともう1人の姿が。
ったく、ギンジの奴
耳にタコが出来るまで現抜かしやがって!
どっちが上の存在が分からせてやる。
特にお前は有権者なんだろ?
裏を取り仕切る良い面してるじゃねぇか。
良いか? お前も
狼族の洗礼を喰らった同士。その
左目に傷を負った恨みを晴らす時なんだ。
ああ。ならギンジって言う奴を
殺っても良いのか?
オレには前科があるからな。
今更罪を犯そうが怖くは無いんだ。
何でだよ!!オレもメンバーの1人だぞ。
苦楽を共にするなら貢献するのが
当たり前だろ!?
そんな事より
ヴェスターには来年の初頭に
加入するレブロンの教育係をして貰いたい。
ああ。彼と同い時期に後3人
戦力となる優秀な人材が仲間になる。
じゃあ、全員で6人になるのか。
顔ぶれが豪華になりそうだな。そうなると
もうそろそろチーム名が必要だ。
それじゃあ、華が無いだろ。
これを機に考えてみるのも手だと思うぞ。
で、お前が言うシノヴァシアって言うのは何処にあるんだ?
歩き疲れて足が棒になる寸前まで
来ているんだけどなあ。
安心しろ。その疲労は
鬱憤に変えて対処すれば良い。
今日は狼族の長との会合があるからな。
ちょうど良い機会だ。
彼の名前は
ヴェスター。
喫茶店ヴァ―ズメルトにて
シルドラをシルニャン、レブロンをレブニャンと化した
チョコレートの隠し味である "アンジュソート" を
店長のシルリアに売り付けた商売人。
そして、ホットソープで
温泉宿ヴァリングスの従業員であるブランザを
背後から操りながらも、ミルフの両親を執拗に憎み
施工の為に家族と共に暮らしていた温かい家庭も
一瞬に崩れ去り、彼の両親が
自殺してしまった悲惨な過去がある。
その瞳に映る恨みへの執念が
アレドシアの目に止まった事により
彼はチームの一番最初に加入したメンバーとなった。
そして、ヴェスターの左目も
狼族に傷付けられた、拭い切れない事実がある事も。
****
場所は戻り、シノヴァシア。
マツカゼ宅――。
ルミシー様、近場とは言えど
シノヴァシアにお越し下さり感謝する。
現在作業中でな、
後に自宅へと足を運ぶ手筈になってる。
暫し待ってくれると助かるぞ。
そうですか。せめて
挨拶だけはしたかったんですけど……
ああ。彼女含め
ヴァンウッドの森も異常無しだ。
粗方の報告はこんな感じだな。
いつも済まないな。
その様子だとコレッタは留守番か?
アイツはこの周辺の見回りをしている筈だ。
ルミシー様直々の命令だからな。
聞き逃す事は出来ない。
それに、此処には
シノヴァルドの里長ヴァル様も居られます。
身を引き締める想いで望んでいる筈ですよ。
何言ってるんですか!?ヴァル君は怖くなんか無いですよ!!!
狼族なのに
優しく接してくれる所とかさ
1歩間違えたら人に深手を負わせる
獰猛さとか、危険と隣り合わせな
人種なのに何でそこまで……
バキッ(外に設置されている灯籠が壊れる音)
マツカゼ様、下がっていて下さい。
此処は僕が扉を開けます。
お前等、何かあったら
ルミシー様とヴァル様を連れて逃げるんだ!
何が何でも守り通してくれ!!
に、逃げるなんてイヤだよ!!!
ボクも培った誠拳道で撃退出来るのにー。
わ、私も出来る事があるなら
協力したいけど、逃げるのはちょっと……
余計な勢力が増えて
足手纏いになるのだけは避けたいんだ!!!
済まんな。出来れば
其方達の協力も受け入れたい所だが
此れは大人の問題だ。
拙者と頼もしい師範2人が
必ずこの一悶着に片を付ける事を約束する。
ああ。取り敢えず
裏口から隠密に退出を行い
この様子をギンジ殿に報告してくれ。
おい、マツカゼ。
こっちは何時でも大丈夫だ。
ガラガラ(シモンが玄関の扉を開ける音)
扉を開けた途端、
誰かの仕業により投げ飛ばされたコレッタが
3人の目前をスーッと横切り
マツカゼ宅の庭池に設置されている
獅子落としを壊してしまう。
あ、アレドシア様とヴェスターさんが
この里を襲って……
それより、何故無茶をしたんだ!?
一歩間違えれば其方も無事じゃ
無かったんだぞ。
そうか。身を
挺してまで
シノヴァシアを守ってくれたんだな。
その心意気、拙者が受け取った。
本当に感謝する。
その時、庭の方から聞こえた
物が壊れた時の衝撃音を聞きつけ
オリアナとシャノンの2人が駆け付ける。
ちょうど良い時に来てくれた。
コレッタがかなり弱っていてな。
ふふっ。
こんなボロボロになるまで
戦ってくれたんだ。敬意に表しないとな。
シャノン、彼女は私が運ぶ。
怪我の手当ての方、お願い出来るか?
そして、コレッタを連れて
マツカゼ宅の中へ戻って行く2人の様子を横目に
遂にマツカゼ・イムラ・シモン
3人の師範代の目前に現れたのは……
おや。こんな所で
師範の3人に出会えるとはラッキーだ。
アレドシア様、見つけたぞ。
マツカゼ宅前に来てくれ。
言われなくても
大体の会合は師範の邸宅で執り行われる事位
勘を働かせなくても多いに分かる。
ヴェスター、首の根を
圧し折ってでもヴァルを探せ!!!
此処から先は行かせません。
イムラ、彼の猛追を食い止めるぞ。
そして、ヴェスターの
相手をする師範2人の事を鼻で笑いながら
アレドシアは別の方向へと向かう。
だから、
長は
現在不在だと申して居るじゃないか!!
お前の嘘は分かりやすい。
何か隠し事があれば直ぐに目を泳がせる。
私が気付かないと思ったのか?
くっ!!!
ただ、拙者も貴様を長殿の邸宅に
行かせる訳には行かない。
だったら、此処で私を殺せば良い。
そしたら阻止出来るぞ。
ギンジ様は
人種共存を望んでおらっしゃる方。
些細な事で人を傷付けるのは御免だ。
なら、交渉決裂だ!!!此処から先は実力行使で行かせて貰う。
分からぬ奴だな!!!拙者を本気で怒らせたのは貴様が初めてだ。
じゃあ、かかって来いよ。
お前の全て受け止めてやるから。
次回、一悶着
中編。
シノヴァシアに襲い掛かる魔の手。
ヴァルを狙うヴェスター、ギンジを狙うアレドシア。
当時は未だチーム名も無かった2人が
更に里を追い詰めて行く。
そして、
物語は過去から現在となり
ブルーノがシルドラとティブルエイド行きの船上で
出会った経緯がいよいよ明らかに――。
要注目話、第077話(中編)へ続く。
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