第057話:スチュキート退治戦開幕!ブルーノとシノヴァシアを守り抜け!!(後編)
文字数 7,434文字
前編のあらすじ。
コレッタとオリアナの
2人が先頭を仕切る精鋭部隊に
スチュキートの退治を任せる為、グレイブ洞穴に
向かわせるけれど、行動時間である
夜になっても一向に音沙汰無し。
しかし、
里の中では最悪の事態が起きていた。
上半身裸の状態でクマさんタオルを取りに戻った
ブラウンが奴等の餌食となり、刺されてしまい
倒れ込んでしまっていた……。
シルドラの時と同じように、
早く処置を施さないと、アングリアンの菌が彼の
体内に流れ込んでしまう。里の長ブルーノは
彼を担ぎ、急いでマツカゼの屋敷へと向かう。
はぁ、はぁ……
ぶ、ブラウン君。もう少しの辛抱だからね!
くっ。
長として
親友のブラウンも守れないのか……
ふんふーん~
後ろにいる事気付いてないね~♪
クックックッ……。だったら隙あり~!
松明の近くで
情けない姿で落ち込んでいるブルーノを
背後から攻撃しようとしていたスチュキートを
急いでグレイブ洞穴から戻って来たコレッタが
小刻みなステップからの拳による打撃により
ゆっくりと地面へと落ちて行く。
申し訳ございません。
守り切れなかった為に、彼もまた
新たな犠牲者として、スチュキートによって
刺されてしまいました。
くそっ。これ以上
里に危害を加えさせないと
マツカゼ様と必要以上に約束したのに。
とんだ事態になってしまった。
何匹いるかも無知。
ようやく洞穴から戻って来ても
現在シノヴァシアはスチュキートの魔の手によって
襲撃されている為、戦いは終わってない。
せめてもの救いは、里の住民が
自宅の扉と窓の戸締りをきちんと行っている事。
侵入される事はないけれど、
スチュキートは大人になるに連れて
知恵を付けて行く習性がある。
どんな些細な隙間や煙突でも
侵入出来る場所を瞬時に判断し、襲う指示をしている。
それは夜だけで、基本太陽が出ている時間は
薄暗い場所に巣ごもりしている為
明るい場所が苦手な傾向がある。
松明の炎圏内に入ると
活発していた虫達の動きが鈍る為
コレッタ同様、イムラにも察知する事が出来
シモンの背後を通り過ぎようとしていた所を蹴りで撃破。
おい、シモン
弛むな!
もう少しでお前もブラウンの
二の舞になる所だったぞ。このままじゃ
全員お陀仏になる恐れもあるんだ。
そ、そう言う事か!
皆聞いてくれ。今若干スチュキートの動きが
射程圏内に入った際に動きが鈍くなった。
昼に行動が出来ないのは多分奴等が
明るい場所が苦手だと言う
証拠じゃないのか!?
そ、そうだよ!
だから廃れたフェルマータ城とか
グレイブ洞穴を根城にしていたに違いない。
不気味だし、人気が無い場所を好むもん!!
と言う事は、
灯を増やせば
奴等の行動範囲を狭められると言う事だな。
ふむ。マツカゼの屋敷横に
建てられている蔵に予備の松明や灯籠が
置かれていてな。それを中央広場に
設置して奴らを誘き出す。
ブルーノ様、落ち着いてくれ!
お前が慌てていると逆にブラウンは
助からないのか、って心配になるんだぞ!!
後は俺等に任せて
マツカゼの屋敷で彼を寝かせてあげるんだ。
たっぷり水を飲ませて休ませれば
落ち着かせられる筈だ。
この事態を終息した暁には
シルドラ達も交えて杯を交わそう。
ここからは三手に分かれての行動となる。
長のブルーノは
抱えているブラウンを療養させる任務。
シモンとイムラの2人は
マツカゼの屋敷横に建てられている蔵から
虫撃退用の灯籠や松明の運搬。
コレッタとオリアナの2人は
村のあちらこちらで獲物を狙っている
スチュキートを灯の元に誘き出し、一匹ずつ撃破。
もちろん狙いを里に定めている
虫達も黙っている訳には行かない。言ってしまえば
害虫と言っても可笑しくない。人に危害を加える前に
退治しなければならない、と
動き始めようとしていた――。
****
マツカゼ宅。
五右衛門風呂の前で
ブラウンの帰りを待っていたシルドラとシルヴェスの
2人が彼を担いでる事に気付く。
ブルーノさん、汗掻いてますけど
どうかしたんですか?
今はそんな事言っていられません。
ブラウン君がスチュキートに刺されてしまい
大変な状況になってしまいました。
そんな事ありません!
僕の塗り薬で対処できる筈です。
えっと、寝かせられる場所は……
話は聞かせて貰った。
囲炉裏が置かれてる横の寝室に運ぶんだ。
それとブルーノ様、この事態を
裏山で作業しているマツカゼさんに
急いで伝えて欲しい。
現在、シノヴァシアは
夜の闇に息を潜めたスチュキートの
大群によって攻撃されてます……
羽根を羽ばたかせている
微かで独特な音を聞き取り、点灯していない
玄関先で話し合っていたシルドラ達を
攻撃しようとしていた虫を数匹
空気を殴るかのように素手で一掃していく。
ブルーノさんは
急いで裏山に向かって下さい。
ブラウン君は僕達が必ず助けます!!
彼の身体を預かっても良いですか?
スチュキートの猛攻は止む事は決して無い。
里で起きている非常事態を
急いで裏山で倒木の処理をしている
師範のマツカゼと一緒に作業しているミルフに
伝える為に、ブラウン宅近くにある
山道を必死な想いで走り抜ける。
****
マツカゼ宅、蔵。
シノヴァシアに置ける
必要不可欠な物資を貯蔵していて、そこには
敵襲に遭い、やむを得ない状況になった際に
即効で仕留める事が出来る火縄銃や、急いで裏山に
逃げれるように縄梯子とかも保管されている。
大丈夫だ。手持ち
松明で
常にお前の安全は確保してる。
万が一な事が起きても、俺に任せてくれ。
そ、そうか。
大体、それぞれ5つ程あれば
足りるだろう。そこに徐々に置いて行くから
借りて来た運搬台車の上に
乗せて行って欲しい。
蔵の中に入り
設置されている古臭そうな
昔ながらの電灯で部屋を照らしながら
奥の方に置かれている灯籠と松明を1つずつ
出入口の地面に置き始めて行く。
それにしても、この蔵
本当に色んな物を備蓄してるんだな。
物騒な代物まで置いてあるぞ。
ああ。以前シノヴァシアに
甚大な被害を負わせた襲撃犯の顔を
傷付けて沈静化させた刀まで
何故か置いてあるからな。
誰かの血液が付着してるから
早く処理して欲しいもんだ。
よし、これで全部な筈。
イムラ、全部荷台に積んでくれましたか?
指示された物は全部此処に乗せてあるぞ。
大丈夫だ、積み忘れは無い。
分かりました。
急いでコレッタさんとオリアナさんの
元へと戻ってこの2つを設置しましょう。
善は急げ、って言うからな!
スチュキート、次は僕達の番だ。
絶対にこの里から一匹残らず退治する!!
そして、遂に動き出す
シノヴァシアを襲撃した実行犯。
蔵から居なくなった瞬間を見計らい
2人の会話を盗み聞きしていたその者は
草陰から颯爽と蔵の前へ立ち尽くし、中に入り
その物騒な刀を盗み、見つめる。
…………。
やはりシノヴァシアの師範達が
隠し持っていたか。
私の美麗たる右目に
傷を負わせ、里を落とす作戦を無にした
マツカゼ家に伝わる名刀。
月明りに照らされ
彼を包んでいた黒いベールが剝がされていく。
ずっと僕達を騙して
フランバージュの計画を成功させようと
手を回してたんだろ。何か言えよ!!!
すっかり様変わりしたな。
この里にシルドラ達と馴染んでる証拠だ。
ふん。悪いけど
この里と森を苦しめてる
スチュキートの騒動は全部私の計画の一部。
奴等の即効性のある菌で住民など
全員根絶やしに出来る。この右目に
傷を負わせた里の長共を始末する為
一から餌付けしてやった。
****
蔵前でアレドシアと
対峙しているブロスと打ってかわり
マツカゼ宅の寝室でブラウンを療養させているシルドラ達。
うぅ……。
フラジーさん、ごめんね。
心配かけちゃって。
フラジーさん、慌てないで下さい。
たった今薬を塗ってあげたので、後は
大人しくしていれば、痛みは消えます!
大丈夫ですよ。だって
タオル取りに帰るだけなのに
上半身裸で行ったんです。身体がタフなら
きっと菌に負けません!!
そうだよ。俺でさえ
こんな逞しい肉体しているのに
裸で出歩いた事無いからな。誠拳道で
鍛えられた精神の賜物じゃないのか?
今はゆっくりと休んでくれ。
シルドラと遊び尽くした疲れが来たと
思えばいいんじゃないのか?
もちろんです。
僕も遊びながらも多少怒ってしまいました。
彼が起きたら
きちんと謝らないといけませんね。
それにすっかり気分も良くなりましたし……
ん、と言う事はもしかして
怒りの感情が無くなったのか?
ちょっとフラジーで試させて貰うぞ。
いいから!!!もし薬の効き目が現れたなら
あの雲行きが怪しい表情にならない筈だ。
よーし、
また一緒にお風呂に入った時は
ブラウン君と楽しいシルドラ遊びしようね!
あっ、違うからね!アロイスさんからの提案だから
本気にしないでよー!!!
ふふふ。何怖がってるんですか?
もう、気分が楽過ぎて怒る気力も
無いですよ。どうやら本当にスチュキートの
菌に打ち勝ったみたいですね。
はい。皆さんが懸命に
僕を治療してくれたお陰です。
色々迷惑かけてすみませんでした……。
楽しそうな会話の中済まない。
シルドラが完治した所でまだ事態は
終息していないぞ。今は目の前で
苦しそうにしているブラウンの手当てだ。
****
中央広場。
戻って来た
シモンとイムラの2人が
灯籠と松明を適当な間隔を空けながら設置する中、
縦横無尽に移動するスチュキートを1匹残らず
蹴散らしていくオリアナとコレッタ。
連携プレイが上手く取れているようだ。
灯の下に誘いだして
1匹ずつ駆除してるから万事順調かな。
しかし、上出来だ。
この大群の中良く頑張ってくれた。
コレッタの拳は優秀だな。
うん。俺も素直に認めよう。
針を持つ虫相手によくここまで戦えた。
どうだ、俺の元で修行してみないか?
イムラ、こんな非常事態に
勧誘をしている場合じゃないぞ。ん?
おい!!!そこの不届き者。勝手にシノヴァシアに
不法侵入して只じゃ済まないぞ。
えっ、誰か居るの!?
全く気付かなかったんだけど……
偶然にも
灯籠や
松明が
設置されていない暗闇の中を通り
広場でスチュキート退治を実行中の
4人の前に現れたのはそう、このティブルエイド編において
重要な人物、フランバージュのリーダーで尚且つ
この大陸の有権者ファーラックの名を持ち
ヴァルの処刑、スチュキート騒動主犯、そして
シノヴァシアの本当の襲撃犯。
全てを取り仕切り、
裏で暗躍していたその名は……
ちょっと野暮用があってな。
そこに偶然居合わせたブロスにも無事に
再会出来た。連れて帰り次第処刑する。
ブロス!!!く、くそっ。奴の方が一枚、上手だ。
成す術が無い。ど、どうすれば良いんだ?
所詮私の前では何も出来ない。
主従関係を結んでいるブロスだからこそ……
は、離せよ!!!
里の皆は悪く無いだろ!?
僕を心の底から歓迎してくれた場所なんだ。
それに比べて何だよ。アレドシア様は
一度たりとも笑った事無いくせに
メンバー1人1人をきちんと見てるって
馬鹿の二日覚えみたいに言いやがって!
もう懲り懲りなんだよ!!!
うん。良く言った!
どうだ、思いの丈を吐き出した感想は?
今まで胸に秘めてた想いを
投げ付けた感覚かな。スカッとした気分だ。
日頃抱えている事は
吐き出した方がストレスが溜まらないんだ。
アレドシアの事で頭が一杯だっただろう。
絶対に連れて帰らせない事を誓おう。
その為にも……
蹴りを付けさせて頂く。
マツカゼさんに無事に報告出来るように。
ふふふ。悪いけど
いずれその報告も出来ずに終わるだろう。
此処に私が居るのは時間稼ぎだ。
現在スチュキートの親玉が長のブルーノ
そして、師範代表のマツカゼを自然と
擬態しつつ標的にしてる最中だ。
完膚なきまでに落とす為にな。
****
裏山のあちらこちらに
散乱している倒木を退かす作業だけで
夜まで時間掛かってしまった。後は屋敷の蔵から
持って来た縄で縛り、一カ所に纏めるだけ。
ふぅー。やっと一段落着いたかな!
後で縄で縛れば良いんだろ?
うむ。こんな時間まで良く頑張ってくれた。
何せ、この歳になったら腰が言う事を
利かなくてな。いやぁ、参った。
いや、良いんだ。
あたいを見て声を掛けてくれたと思うし。
マツカゼさんの力になれたなら
それもそれで嬉しいからな。
倒木を丸ごと片付けたのではなく
鋸で半分に切り、持ち運びやすい重さにした状態で
縄を縛り、裏山に建てられている
小屋の横に一カ所に纏めて、使用した
道具は工具箱に入れ、慣れた
手付きで部屋に戻して行く。
何から何まで済まない。
ミルフ殿のお陰で倒木で道を塞いでいた
裏山がこんな綺麗になった。本当感謝する。
それにしても、
何で里から少し離れた裏山に
この山小屋が建てられてるんだ?
ああ。これは
クルディー、プリメラと言った御方が
シノヴァルドの狼族で長であるヴァル様と
共にシノヴァシアを更に活性化させる為に
この裏山の土壌が樹木を育てるのに
必要不可欠だった。その拠点が
この山小屋だったと聞かされておる。
と言う事は、此処が
シノヴァシアの原点だったんだな。
あっ、そうだよ!!その2人はシルドラの両親だ。
ちょっと待ってくれ。ホットソープに続いて
シノヴァシアにも訪れていたとは……
どれだけ重要人物なんだ!?
こ、これで全て辻褄が合う。
何故シノヴァシアが襲撃される羽目に
なったか。やはり、黒幕はあの御方……
****
ブラウンの療養を手伝い
一段落着いたシルドラはマツカゼの屋敷庭園に
置いてある竹椅子に座り、深呼吸を整えていた。
ふぅー。今日は雲1つ
無いから月がはっきりと見えますね!
ブラウン君も処置を終えて一安心してる筈。
後はそっとして置きましょう。
あっ、あそこに
居るのってブルーノさんかな……。
ちょっと呼んでみようっと!
あっ、シルドラ君!
今は大きな声で叫んじゃダメです……
うひひ~。
里の長はっけ~ん♪
まだ若そうだけど美味しい血してそうだね~
おいら、スチュキートの親玉なんだ~。
人間の血液を大量に摂取すれば
する程成長も早いんだ♪
ほら。
あそこに居る坊主頭を見て♪
あの男の子も以前に吸った事があるんだ~。
そしたらビックリ。身体に眠る
アングリアンが目覚めたんだよね♪
目の前にいる
スチュキートの可愛い容姿をしながらも
狂暴さを併せ持つ体質と現状況のシノヴァシアの
有り様を重ねて見てしまうブルーノ。
本当だったら
マツカゼって言う人も襲わないと
行けないんだけど、指図受けるの嫌いだし♪
と言う事で、最後はキミの番。
美味しい血を貰うよ~♪
ブルーノさん、逃げて下さい!!!この状況、どうすれば……。
シルドラやブラウン、
2人の二の舞になってしまうと覚悟した瞬間
すると、その時――。
一匹の小さな狐が
スチュキート目掛けて飛び掛かり
噛み付くと同時に地面にゆっくりと落ちて行く。
とにかく、間に合って良かった!
ここまで導いてくれてありがとね。
グレントさん、だぁいすきー。
グレントさん、
ティブルエイドの偵察ご苦労様です。
何か報告は御座いますか?
はい、ブルーノ様。
フェルマータ城の海食崖から落とされた
レブロンさんの居場所が判明しました。
もちろんです。
現在、ロックドクリフの
ゴッシュさんの自宅にて療養しています。
な、何と。まさか
クラムビーチまで流されていたとは……
ヴァンウッド・シノヴァシア編最高潮へ――。
いよいよ、ティブルエイドでの
物語は佳境。黒幕はフランバージュのリーダー、アレドシア。
全ての思惑が錯綜するフェルマータ城編突入間近。
そして、衝撃すぎるラストが。
しかし、その中で
このキズナ・ワンダーランドの主軸となる
シルドラの両親、クルディーとプリメラの
処刑問題も大きく動き始めようとしていた――。
第058話へ続く。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)