第045話:シルドラの快復大作戦!フェイスウォールの薬草を求めて!!(Ⅱ)
文字数 5,264文字
旅人の宿、1階――。
リラックスルームの横にある台所。
シャノン達が居ない事を良いように、
冷蔵庫の中に何か食糧があるか確認をしている。
フラジーさん、勝手に開けちゃダメですよ!
皆さんの帰りを待ってましょう。
な、何も入って無いよー!
少しでも腹の足しにしたかったのに。
シルドラ君、何か持ってないの?
何か食べ物ー!!!!
盗られないように何処かに
隠してあるのかな。例えば……
段ボールの中にあるとかさ!
ほら。この箱に割れ物って書いてあるしね。
もしかしたら、
お煎餅が入ってるんじゃない?
えっ、知らないの?
穀物の粉を使って、潰して搗いて延ばした
お米を原料にしたお菓子なんだけどさー。
もしかしたら
クラッカードって言うお菓子かな?
クロスウッドではそう呼ばれていますよ!
あっ。ごめん! お煎餅って
確か作者の世界での呼び方だった。
今も食べてるんじゃないかなー?
ズルいー!!!
俺にも食べさせてくれー。
お腹空きすぎて死んじゃうよー。
もう良いもんっ!
この箱開けちゃうもんね!!
此処の人が帰って来たらシルドラ君が
開けたって言えば良い話だからさ。
その時、心地の良い音色と共に
旅人の宿の玄関横に取り付けられている呼鐘が
家中に鳴り響く。しかし、ここは旅人の宿。
ここに来たのも初めてな2人からしたら
誰が此処に訪れて来るか分からない。
どうしよう。
出た方が良いと思うんだけど
どうやって説明しようかな……
フラジーの悪ふざけにより
シルドラが対応する形になり、急いで玄関へ向かい
扉を開けるとそこには懐かしい顔触れが。
あっ、プラムちゃんだよね。
確かヴァーズメルトで会って以来だから
本当に久し振りです。や、ヤバい……
懐かしさに涙が止まりませんっ。
あら。 会って無い間に
泣き虫になっちゃったのかな? よしよし。
シルリアさん、あれから
喫茶店の方は繁盛してますか?
もちろんよ。今日は配達日でね
巫女族と森の民の皆様に、以前から
頼まれていたバージュベリーケーキを
届けに来たの。美味しいって言う評判が
ヴァンウッドに伝わって私も
作り甲斐があったわ。
いや。僕とフラジーさんしか居ないんだ。
もしかしたら出掛けてるのかも。
じゃあさ、今日は
此処で
配達終了だから、戻って来るまで
部屋の中で待たせて貰おうよ。どうかな?
それもそうね。せっかくですので、
少しお暇しましょうか。
旅人の宿に用があったのは
以前ヴァ―ズメルトと言った喫茶店でお世話になった
店長シルリアとプラム。大評判でシルドラも
食べた事があるバージュベリーケーキを
ヴァンウッドへ配達している最中だった。
****
森の一本道を抜け、見上げる形に聳える崖。
それこそフェイスウォール。
崖の上から3分歩く所にある里こそ
ブルーノが長を務めている忍者の里シノヴァシア。
そこに行くには目の前にある山道を
使わないといけない。
しかし、用があるのはこの崖に生えている薬草。
す、すげぇ崖だな。
ここに例の薬草が生えてるのか……
ん? いや、確か新しい壁面が
発見されたんだろ。気になってただけさ。
そうなんですね。
せっかくなので薬草の採取前に
その新しい壁面を見て行きましょう。
全然構いませんよ。
ルミシー様、此処からは私が案内します。
左右のうち、右に行ける道を通り
森の民が丁寧に育てている植木や柵に植えてある
花々に見惚れながら歩くこと10分。
少し開けた場所に
誰もが閲覧出来るように足場が組まれていて
記念品のように大切に保管されている。
ただ、一瞬見ただけでは
判断できない壁面のようで……
ん。何の変哲もない壁に見えるけどな。
シルヴェスはどうだ?
済まん。俺こういった見極めるのって
苦手なんだ。ほら良く見るだろ。
視力回復する際に使われる立体視。
この壁も一見そんな感じに見える……
あっ。分かったぞ!
良く見るとこの辺り、人の顔に見えて来た。
この表情からして男だな。
ただ、聞いてくれない?
新しい壁面と言っても顔が
浮かんでくるだけの事なのに、気付いたら
世間的に大騒ぎになってね。あの
ゴッシュさんまで閲覧しに来たのよ……
彼は権威のある地図博士ですからね。
発見あり次第、積極的に足を運んで
自分から目に焼き付けるタイプの人です。
でも、新しい発見なんだろ。
普通だったら、崖の一部が顔なんかに
見える訳無いと思うぞ。
それもそうですね。
ミルフさんの言う通りかもしれません。
シャノンさん、見て下さいっ。
確かあの薬草ですよね。見つけましたよ!
あら。先越されてしまいましたね。
まずは当たっているかどうかの
確認をしなければいけません。
間違えて調合したら
シルドラさんの身体を壊しかねないですし。
もう! 以前この辺りを
歩いた際に教えて貰ったじゃないですかっ。
崖に咲いている野草の中で
唯一茎が太くて、葉っぱの形が細長いって。
でも、此処からじゃ
下からしか見えてないから分からないよ。
その為に、ミルフさんと
シルヴェスさんに崖を登って貰い、あそこに
生えている薬草を採取して頂きたいのです。
我儘言って申し訳ございません。
アレを取れば良いんだな。
お安い御用だ。あたい達なら簡単だ。
俺が最初に登らせて貰うぞ。
シルドラの完治の為に頑張ってやる!
先言って置くぞ。
この崖は約5mの高さを誇る。
割と足を引っ掛けられる場所が多いから
それを利用した方が良い。
ボルダリングを1度でも
体験した事があれば楽に進められるぞ。
ロッククライミングって言う奴なら
以前父さんと海近くの断崖絶壁を登った
経験があるから分かるけど、ボルダリングも
同じ感覚のスポーツなのか?
そうだな。
壁を登る事を踏まえれば、両方とも
同じスポーツだけど、シルヴェスが
ゼルガスと一緒に登った際に
ロープを使って10m以上の崖を登ったなら
それはクライミングと言う認識になるんだ。
その逆で、
ボルダリングは大体3mからの
高さを命綱付けずに身体1つで登る事を
そういう風に呼ぶと聞いた事がある。
さてと、前置きが長くなると
キリがないから、もうそろそろ良いか?
分かりました。
くれぐれも無理をなさらずよう
お気を付けて採取して来て下さい。
トップバッター、シルヴェス――。
足元を良く見て、
自分の体重を支えてくれる足場に両足を置き
少し上にある次の足場に手を引っ掛け
ハシゴを登る感覚で次々と上へ登って行く。
ロッククライミングの経験があるせいか、
要領をかなり掴んでいて、難なく
薬草が生えている場所へと到着する。
それを「さすが!」と言った表情で見ているミルフは
指を指しながら何かを確認したり
どうやら体を動かしてる雰囲気。
あ、これか。
この行為はオブザベーションって言ってな。
今シルヴェスが登っただろ。
彼を観察して、ゴールまでの流れを
自分でシミュレーションするんだ。要するに
イメージトレーニングと言えば分かるかな。
成程。ミルフは崖登りのプロなのか。
身体作りはイメージが必要って聞くからな。
皆さん、見て下さい!
シルヴェスさんが無事に薬草を
手に入れたみたいですよー。あそこで
私たちに手を振ってます。
さすがシルヴェスだ。
これ位の事で音を上げないからな。
シルヴェスさん、ご苦労様です。
それ貰っても宜しいですか?
残念ながら、これは私達が求めている
薬草ではありません。この葉っぱは
細長って言うより、モミジ型していて
素材として向いていないのよ。
ごめんなさいね……
葉っぱなんか、どれも
一緒に見えるのに、違うんだな。
モミジ型の葉には、
複数の切れ込みがあってね、潰した際に
人間の体に入る必要な栄養素が
全部逃げてしまうのよ。
くそっ。俺とした事が
とんだミスをしてしまったな……
でも、一早く気付いて良かったじゃん。
間違えてシルドラの身体に入ったら
元も子もないだろ。
シルヴェスは頑張った。次は
あたいの番。少しゆっくりしていてくれ。
ミルフ、こっち来てくれ。
あそこにも野草が生えているぞ。
次回、2度目のチャレンジ。ミルフが
シルヴェスのリベンジを果たす為、崖登り開始。
****
場所は戻り、旅人の宿――。
あーーー!!!
これって前チャイから貰って食べた事がある
バージュベリーケーキだ!!!
違いますよ。このケーキは
ヴァンウッドに住んでいる巫女族と森の民に
作って来た物らしいです。
ギクッ。だって……
さっきから腹の虫が鳴りやまないからな。
それほど、お姉ちゃんが作る
ケーキが美味しいって言う事だよ。
もちろんっ!
土台となるスポンジケーキのちょっと
控えめな甘さ、そしてバージュベリーの
独特な酸っぱさ。見事な具合いにバランスが
良くて、子供から大人まで楽しめる味わいを
しているからねー。
彼はエアロブルー飛行場で
働きながらも、1年に1回に開催される
コンフェクトフェスティバルの
パティシエ大会審査員をしてるのよ。
えっとね、
コンフェクトフェスティバルって言うのは
大陸毎に存在する種類豊富なお菓子を
出品して色んな方に食べて
貰うお祭りなんだよっ。
その中で一番の目白押しが
各パティシエがその腕を競って
各大陸の審査員の心を震わせる一品を作る
大イベントがあるんだ。実はそれに……
シルリアさん、大イベントへの参加
おめでとうございます。
凄いじゃないですかっ!!
もしかしたら優勝出来るんじゃないですか?
もちろん応援させて貰いますね。
でも、フラジーさんの
食レポも的確で侮れないな。
ちなみに他にも審査員って居るんですか?
次の僕の目的地じゃないですか!!!
どんな人だろう……
【????】
あっ。呼んだ?
玄関の扉開いてたから勝手に入っちゃった。
えっ、君、誰? それに
頭にヒヨコが乗ってるんだけど、何故。
あ、あれあれあれあれあれ!?
ブルーノ様、まさかの
留守ですか?
あーーーー!!!!
フラジーさん、お久し振りです。
前回の大会お疲れ様でした。
紹介しよう。彼の名は
ブラウン。シノヴァシア出身で、俺と同じ
ティブルエイドからの審査員としての参加は
自分と彼と言う事になる。
あっ、最後に1つ言わせてー。
そこのキミなんだけど。何か甘そうだね!!
ノックもしない。何の挨拶もしないで黙って家に入るのは泥棒と一緒だ。
ブラウン、聞こえてるか?
それに、子供の分際で可愛い振りして貰っちゃ困るんだよ。何でも許される
時代だと思ったら大間違い。僕も
怒る時はとことん怒るぞ。
謝罪の言葉って知ってるか?ほら。聞こえるように言ってみろよ。
謝る時は心の底から詫びている事を表に
出さないと伝わらないからな。
久し振りに怒ったんだけど、楽しいね。アハハハハハハハハハハハハ。
本当に怒らせてはいけない人は……、
目前にいた。
森の小屋の中で、
薄気味悪い笑みをしながら
包丁を研いでいる山姥に取り憑かれたかのように
類を見ない表情でフラジーとブラウンに迫るシルドラ。
最終的に彼を怒らせてしまったのは事実。
旅人の宿でも
混沌と化しながら、物語は……
第046話(Ⅲ)へ続く。
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