第083話:離さない絆!アレドシアが見せた最高の笑顔!!(完結篇・Ⅲ)
文字数 8,788文字
時間は遡り、8月20日
アレドシアの誕生日――。
ち、父上……
申し訳御座いません。食した物が
喉に突っ掛かってしまっただけです。
【シルギム】
そうか。別に料理は逃げたりしないんだ。
もっとゆっくり堪能したらどうだ?
あまりの美味しさに
舌鼓を打っていた可能性も多いにある。
そ、そうですね。
少し早く食べ過ぎてしまいました……。
シルギム様、
向こうのテーブルでシルディバート夫妻が
御話したいと託を預かって来ました。
如何しましょうか?
突如として眉を顰め
何処か浮かない表情をしながらも
今日はアレドシアの誕生日、豪華絢爛な料理や
要所要所に施した装飾品のガーランドや
多種多様の風船が飾られている中で
大いに息子を祝っていた。
あの御夫妻は話を切り出すと長いんだ。
かれこれ1時間以上話す事になる。
なかなかの
饒舌家で有名でな、
正直あの方達に時間を割きたくないんだ。
別に席を外しても良いですよ。
食事摂りながら待ってますので。
その代わり、戻って来たら
先程の会話の続きを楽しみましょう。
時間は夜20時頃。
日暮れと共に始まった彼の誕生日会は
夜の時間帯に突入し、アレドシアも
父が戻って来るまで使用人や来客の御方から
祝辞を頂きながらも、目の前のテーブルに並ぶ
滅多に食する事が無い料理を堪能していた。
しかし、先程から
見張りと門番の方がシルギムの所の元に
駆け寄ったり、入れ替わるようにと
何か只寄らぬ事が起きるのでは、と
先程までシルディバート夫妻と会話をしていた
シルギムも血相を変えて、息子の元へ再び顔を出す。
何かあったんですか? さっきから
人の出入りが激しいんですけど……
誰よりも嘘を憎み続け
正しい事を教えてくれた私の尊敬すべき人。
じゃあ、何か!!!
この誕生日も偽りだらけの祝祭なのか!?
せっかくの誕生日当日に
今まで人生の中で起きた事が無かった
シルギムとの喧嘩で、せっかくの祝祭ムードも台無し。
それもその筈。主役がその場から居なくなり
自室に閉じ込もってしまったから。
しかし、自分の背中を見て
育って来た息子の言動を無視する事は出来ない。
ああ、良いんだ。
アレドシアをこの一件に巻き込みたくない。
ところで、狼族の動向はどうだ?
今奴等は何処にいる!?
正門前に群を成して
もう直ぐにでも城内に侵攻する態勢かと。
それなら、この城の
関係者一同を全員集めてくれ。
私はアレドシアの元へ行って来る。
****
アレドシアの自室。
閉め切っているせいで、
会話をする状況が扉越しではあるけれど
自分が嘘付いた事を真摯に受け止め
今のフェルマータ城に訪れようとしている
事態を包み隠さず話し始める――。
先程は済まなかった。
私の無粋な行為を謝らせてくれ。
正門前に
挙って
屯していてな
そろそろ城内に侵入して来る。
くそっ。最悪な誕生日じゃねぇかよ。
私が何をしたって言うんだよ……。
お前を危険な目に遭わせたくなかった。
それ程心配だったんだ。
アレドシア、
お前はこの事態が収束するまで
部屋に籠っていてくれ。必ず迎えに行く。
ああ。狼族は
私の最愛の妻レイシアを手に掛けた。
必ず討ち取って我が手に勝利を治めてやる。
おっと。
後もう1つ言わせて欲しい。
こんな形になってしまったけどな。
お前へのプレゼントは私からの愛だ。
是非とも受け取って欲しい。
別に変な意味では無い。
愛の捉え方は人それぞれだからな。
きっとアレドシアも
人付き合いを通して気付かされる筈だ。
絆は勇気だけでなく、愛でも結ばれる事を。
これが、アレドシアと
交わした最後の会話になるとは知る由も無い。
息子の誕生日までこの1件を引き摺って来たのも事実。
もっと早急に対処していたら、
こんな事態に陥っていなかったかもしれない。
祝祭の会場に戻ると
彼の先程の指示により集められた使用人達の姿が――。
彼等の先頭に自ら立ち、
息子の誕生日を邪魔されて迄、城に押し寄せた
狼族に対する演説をシルギムの想いと共に
全てその場に吐露し始める。
かつて私には最愛の妻が居た。
名はレイシア。順風満帆な生活を送る中
外出先で狼族に遭遇してしまい
襲撃された後、崖から落下し
他界してしまった。
お前等はどうだ!? そんな
野蛮な輩は処罰に値すると思わないか?
厨房の料理長っす。
声を掛けてくれて有難き幸せ!!!
そうか。アレドシアの
祝いの場に豪華絢爛な料理を
振舞ってくれた謝辞を述べさせてくれ。
只、私の大事な息子の祝祭に
奇襲を目論む狼族を断じて許す事は出来ん。
同時刻、
狼族はフェルマータ城内へ。
使用人達は実力行使で奴等との対峙。
祝祭の会場が一気に戦場となり、
活気が良かったこの城も、今日この時を以って
成れの果てと化してしまうなど
この時は誰も知る由が無かった。
さあ、俺達も戦いましょう。
全てはシルギム様の為に。
テーブルの上に
置かれている食器の中で
沢山の果物が乗せてある皿に手を伸ばし
ジッと凝視しながら、多少の腹の足しにしていた。
きっと、
最後の晩餐になるかもしれない。
今のうちに腹を満たして置くとしよう。
斯くして
シルギム含むフェルマータ城内で
ファーラック一族とその祝祭に招待された者達は
狼族の鋭利な爪と歯により、跡が残る位に
引っ掻き傷を負いながらも、玄関の間を
筆頭に各階まで押し寄せ、全滅。
ファーラック一族、主シルギム。
息子の誕生日と同じ日に命を落としてしまう。
没年48歳――。
****
2階の回廊に
亀裂が入る少し前。
無事にヴァールブルグ海賊団が
所有する海賊船で岩肌洞穴を脱出出来たゼルガス達は
少し離れた箇所に錨を下ろし、崩壊の
成り行きを自分の目で確かめていた時まで遡る。
おいおい、マジかよ!!!
もう跡形も無いじゃないか!!!
く、くそっ!!!助けに行きたくてもこの波の様子だと
迂闊に舵を切る事も出来ねぇ。
そうね。ゼルガスの言う通り
この時間帯の海流を舐めてはいけない。
それに……
瓦礫と破片が上空から降り注ぐ際の航海は論外だ。
落下物の影響で帆を支える帆柱が折れたら
風も読めなくなってしまう……。
おいおい。俺の声を忘れるなんてそりゃないだろ……。
彼もまたゼルガスと同じように
グラッツと共に海へ真っ逆さまに落ちてしまい
偶然にも海上を漂っていた大きな木目調の板にしがみ付き
空から降って来る大量の瓦礫は勿論、
この時間に発生する高波を喰らいながらも、
崖下を沿う形で、ヴァールブルグ海賊団の
海賊船がある所まで泳ぎ、辿り着いた模様。
おっ、ロギュアじゃねぇか!!良かった。無事だったんだな!!!
ああ。あの崩落と共に海に投げ出されたけどな。
運良く丈夫そうな板にしがみ付いていた
ロギュアと海上で合流したんだ。
爆破の際に生じた
砂埃が晴れたと同時に
シルヴェスが目にした光景とは、
2階の回廊に亀裂が入り
シルドラがアレドシアの足場に飛び移って
彼の身体を支えながら、攻撃を仕掛ける際に
直接面している城壁の壊れた狭間に
死に物狂いでしがみついていた所。
み、見つけた!!
シルドラだ。アレドシアも居るぞ!!!
その時、シルドラが必死に掴んでいる
城壁の狭間に少しずつ皹が入る瞬間を目にする。
おい、手を放せ!!
このままだとお前も海へ落下するぞ!!
だ、駄目です……。
最後まで希望を持って下さい!!
必ず助けますから!!!
誰1人欠ける事無く
皆でビューウェーブに帰りたいからです!!
この世に完全な悪なんかいません。
僕はそれを絆で証明するまで
足掻いても諦めませんよ!!!
「掴んだ手を離さない」と言う事は
まさにこの事。
彼の目前には
自分の誕生日から時計の針が止まってしまい
心に戸惑いを隠しながらも
計画を遂行させたかったアレドシアの姿。
あの誕生日から全てを失い、父シルギムの叶えたかった
狼族が居ない大陸を目指す為に
孤軍奮闘していた。
しかし、
シルドラだけは見過ごさなかった。
アレドシアの心底に眠る想いを汲み止めるのは
彼しか居ないと、どんな状況下に置いても
諦める事だけは絶対にしなかった。今もそう。
助けるんだ!と言う意志を持ち、彼は手を差し伸べた。
それこそ離さないと胸に秘めているから。
ただ、少しずつシルドラの体力が奪われて行く。
手に力が入れられなくなってしまい
皹が完全に繋がる前に2人は落ちる
態勢になってしまい――
あっ、ダメ!!!
シルドラ君、それにアレドシアさんも!!!
海賊船の船上で
事の成り行きを見ていた
シルヴェス、ブラウンはフェルマータ城が
崩壊する中で、海へと落ちて行く
光景を目の当たりにしてしまい
思わず2人の名前を叫んでしまう。
もう助からないのかと思ったその時、
倒壊した城と
岩肌洞穴の瓦礫を飛び越えて
着水前のシルドラとアレドシアをキャッチしたのは――
数秒でも遅れてたら、海面に
強く叩きつけられ大量出血が免れなかった。
ああ。シルドラに感謝するんだ。
てめぇの心を綺麗にしたがってたからな。
判決を下すのは
ラスター大佐だ。
俺ではない。ただ……
今のてめぇから
迷いを感じ取れない。
彼の頑張りは無駄じゃ無かった、
と言う所だな。
気絶しているけど、身体に損傷は無い。
少し休めば元気になるだろう。
ああ。ライアンから報告があってな
無事に森の消火活動完了。
レブロンも瀕死寸前だった
ヴァルをシャノンに治療して貰って
安静にしてる所だ。
フェルマータ城に
残留なんかでもしていたら
本当に命を落としていた可能性もある。
それに、
気絶しているシルドラを
このまま放って置くのは身体に酷だろ?
十分な休息を摂取しなければならない。
その為の治療だ。
私を改心させる為に
命を張って頑張ってくれた訳ですし。
この一部始終はモニターの映像を通し
ティブルエイド各地に伝わり
アレドシアが改心した事と、
シルドラ達が無事にフェルマータ城からの
脱出に成功した事に対し、ビューウェーブは勿論
エアロブルー、ホットソープで彼等の頑張りを
見届けていた皆から熱狂的な拍手喝采が
沸き起こっていた。
港町ビューウェーブ。
うおっしゃ!!!
あいつ、中々見どころがあるじゃねぇか。
まさか、裏の有権者である奴を
食い止められるとはすげぇな!!!
だから、言っただろ!?
シルドラには無限の可能性があるってさ!
うんうん。
私が用意した冒険者の服。
ボロボロになるまで頑張ってくれたのよ。
ホント、提供した甲斐があったわ。
ビューウェーブに戻って来たら
ギュッって抱きしめてあげようっと!
シルドラ、改めて言わせてくれ。
ティブルエイドを救ってくれて感謝する。
本当にご苦労様!!!
さっすが~、シルドラ君!!!
ティブルエイドの英雄って所かな!?
でも、彼が居なかったら
この大陸から緑の自然その物が
消えていたかもしれない。
シルドラさん、本当にお疲れ様でした。
ゆっくり休んで下さいね。
後でこっそり
旅人の宿に行ってみようっと!
シルドラ君の寝顔をチェックしなければ!!
うおおおおお!!!!!ティブルエイドどころか、
アレドシアの心まで救っちまうとはな!!!
ヴェスターの一件から
彼にはお世話になりっ放しだな。
私も負けていられないよ。
次はこの温泉宿を復興させて
必ずや客足を取り戻さないとね!!!
私も
厳かながら皆様の邪魔にならないように
精進させて頂きます。
そうだな。じゃあ今は
シルドラの頑張りを称えよう。
この街、そしてティブルエイドに
平和を救い出してくれた彼にせーのっ……
【ホットソープにいる者全員】
お疲れ様ーーーー!!!!
今までシルドラと出会った方達が
こんなにも優しく、交流を介して絆を深めて行く。
色んな場所を冒険し、色んな場面にも遭遇し
リンクリングを所有した冒険者の1人として
彼の勇気は次の目的地である
空大陸でも大いに役に立つだろう。
そして、いつか
彼が直面する大事件にも――。
ヴァールブルグ海賊団、船上。
水分を多いに吸ってしまった
フランバージュのドレスコードだった赤い特攻服を脱ぎ
シルドラとアレドシアの2人が無事に
獄長のブレイアの手によって助け出された所を目撃し
船員達も他の皆と同じように歓喜極まって
何故かブラウンの頭を必要以上に叩いていた。
ブラウン、やったな!!!
無事にシルドラとアレドシアが助かったぞ。
い、痛いよーーー!!!
何で喜んでるのにボクの頭叩いてるの!?
可笑しいよね!?
シルドラは頑張った。
アレドシアもアイツの心に答えた。
だからっ、止めて下さいって!!!
ボクの頭が腫れ上がったら
どうするんですか!?
ははっ。シルドラは本当に男を見せた。本当、クールな奴だぜ!!!
あーっ、もうっ!!
どれだけ叩けば気が済むんだよー!!!
そこには、
未だに歓喜モードの彼等が
ボコスカとブラウンの頭を必要以上に叩いている光景を
現在この船の舵を切っているヴァネッサが
目撃してしまい、注意喚起をし出す。
おい。命の恩人の頭を叩くなんて
感謝の気持ちすらも微塵に
思ってないのか?
現在指揮を執っているのは私だ。
従えないなら今すぐ船を降りろ。良いな?
さあ、気を取り直して
皆でビューウェーブに帰還しよう。
錨を上げて帆の確認をして欲しい。
準備出来次第、出航する。
斯くして
ヴァールブルグ海賊団が所有する海賊船は
ヴァネッサの的確な指示により、南の方向に向かう
海流に乗り、港町ビューウェーブへと帰還して行く。
****
ヴァンウッドの森、旅人の宿――。
いいえ、構いませんよ。
私共も先程まで多忙を極めていたもので。
だーっ!!!
もうっ、森の消火したりフェイスウォールの
破片の掃除だったり大変だったんだよ!!
こらこら。彼を困らせるでない。
来客の気分を損ねる対応はご法度だぞ。
無理に立ち上がっては駄目です。
作業中にギックリ腰を発症したんですから
ソファでゆっくりと休養を為さって下さい。
忝いな。其方の
御言葉に甘えさせて貰うぞ。
ふぅ。人間老いると
年々身体能力の低下が著しくなる。
あっ、あのさ!!!もしかして君が背負っているのって
シルドラ君、だよね?
ライアンって言う御方から聞かせて貰った。
城崩壊と共に海に投げ出されて
そのまま気絶したって……
シャノン、
急いで治療してくれ!!
このまま放って置くと、これからの冒険に
かなりの支障を来たす事になる!!!
アレドシアも改心させてくれたのに
気を失うなんて可哀想じゃないか!!!
ヴァル様も
レブロンが死に物狂いで
シャノンの元に連れて来なかったら
今頃、九死に一生を得ている状態
だったかもしれない。
私からも頼む。
シルドラには未だ感謝を述べていないんだ。
アレドシアさん、顔を上げて下さい。
彼もその言葉を待っていたに
違いありません。
分かりました。彼を私の
作業部屋に運ぶのを手伝ってくれませんか?
あっ、抜け駆けなんてズルい!!!
俺も手伝うよ!!!
気絶している彼を見過ごす事は出来ない。
シノヴァシア側から
火の魔の手を抑えてくれた際に
師範のマツカゼが懸命に頑張ってくれたせいか
ギックリ腰になってしまった。その少し前に
レブロンが息を切らしながら
お互い様に腹部に刺された痛みを堪えている
狼族のヴァルを連れて来た為、引っ切り無しに
シャノンは治療を行っていた。
次はティブルエイドを救ってくれたシルドラ。
絶対に助け出して欲しい!と
今まで絆を紡いで来た仲間が祈願をしている。
少し厄介な病状だけど、この手当ては
夜10時まで続いた――。
****
深夜1時――。
手持ちランプを
右手に持ちながら2階で寝ている
皆の様子をシャノンが見回りを行っていた。
えっと、後はヴァル様と
シルドラさん、レブロンさんの御三方だけ。
4人の最高の寝顔が。
もしかしたら、アレドシアにも
こんな一時が欲しかったのかもしれない。
幸福と言うのは仲間と最高の日々を過ごし
信頼関係を更に深め合う事。
そして、
近くの台上でキラリと輝く新品の腕時計。
壊してしまったお詫びとして、自分自ら
アジールの元に出向き「レブロンの物を新調して欲しい」と
懇願しに行った位。本当は心の何処かでは
絆や友情を信じていたのかもしれない。
シルドラが崩壊中の城内でその代物を
見つけていなかったら、今
此処には無いだろう。
2つのリンクリングが
その時、勝手に動き出し――
レブロン様のリンクリングが完了致しました。
登録番号001:シルドラ
レブロンにとって最高の贈り物になっただろう。
アレドシアも
仲間と言う大切な宝物が出来た。
近いうち、彼と元メンバーのブロスは
2人共、牢獄島へ連行される手筈になっている。
彼等とのお別れは3日後――。
最後にシルドラ達と記憶に残る思い出を作るべく
次回、次々回はティブルエイド総キャラクターによる
港町ビューウェーブ真横にあるステラビーチにて
最強でホットな宴が開幕する。
最高の1日がこれから始まる。
そして、シルドラ達が
ティブルエイドを旅立つまで残り5日後。
皆とのお別れも間近に迫っていた――。
次回予告。
何か高そうな車が止まりましたね。
誰が乗ってるんだろう?
おい、シルドラ!!
聞いてくれ。ゴッシュに買って貰った
海パンが窮屈になってしまった!!!
その時、上から下まで
スーツ姿の強面の御方が運転席と助手席から降り
1人はレッドカーペットを敷き、もう1人は
後部座席のドアをゆっくりと開ける。
ブラウン様、目的地にご到着しました。
降車の際はゆっくりと足元に
ご注意の程お願いします。
はっ!!!!
ぶ、ブルジョワ・ブラウンの爆誕!?
サングラス身に付けてるじゃないか!!!
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