第056話:スチュキート退治戦開幕!ブルーノとシノヴァシアを守り抜け!!(前編)
文字数 5,148文字
獲物はっけーん~
最後はキミの番。美味しい血を貰うよ~♪
ダメだ。聞こえてない。
どうすれば助けられるんだ!?
前回
(前後編)のあらすじ。
シルドラ達は無事に忍者の里シノヴァシアに到着。
マツカゼのご好意に甘えて屋敷に
お邪魔させて貰うとそこには以前
連行して行ったブロスの姿が。
ただ、彼の尖った根性を叩き直す事は絶対にしない。
褒めちぎるとは違うけど、怒った表情を
している所しか見ていない為、本当の
感情を引き出す為にも家事全般をやらせて
色んな景色を眺めさせる事が大事だと思い
現在精進中――。
そんな中、シモンが
スチュキートが巣窟している場所がグレイブ洞穴だと
発覚し、オリアナとコレッタを先導に
陣営を組み、退治しに向かう。
それにしても
スチュキートって何匹いるんだろう……
以前はあの廃れたフェルマータ城を根城に
していたんだから相当だよね。
奴等は群れを成して行動をするんだ。
夜の闇に隠れて移動する習性もあるせいか
姿なき犯行をする事が可能。
それ程厄介な存在でな。
だからヴァンウッド同様、シノヴァシア
両長も危惧してるんだ。
確かに。あの森は
シンティアに守られてるから被害が
拡大しなかったけど、里は隙だらけ。
目印は灯籠と松明の2つ。犠牲になった方も
夜に襲われたってマツカゼさんに
聞いたから間違いないかな。
そう言ってる間に到着したぞ。
此処が例のグレイブ洞穴だ。
現在の時刻は夕方。
今日は風が少し冷たい。
揺れている木々達もこれから
里に起きる非常事態など知る由も無い。
スチュキートの群れはあちらこちらに苔や蔦が
絡まってあり、何処か物寂しそうな雰囲気を
醸し出している洞穴の奥に巣を作って
来る時を待っている。
奥が全く見えないな。
奴等が隠れるには持ってこいの場所か。
よし!何人かは私と共に
スチュキートの動向を監視する。それと……
コレッタ、お前には
洞穴の入り口で何かあった時の為に
スタンバイして置いて欲しい。出来るか?
言われなくても出来るに決まってるじゃん。
わたしを誰だと思ってるの?
****
場所は変わり、中央広場――。
前回、シルドラの静かなる怒りにより
ニワトリ帽を被って、自宅から逃げ出した
ブラウンは頭に違和感を感じ
鶏冠の部分を掴み、外そうとするけど
彼の頭と帽子のサイズがジャストフィットしていた為
なかなか取り外す事が出来ずにいた。
あああああああ!!!
いいいいいいい、痛いよー!!!!
ボク、髪の毛無いけど
頭が蒸れちゃうから早く外したいのにー。
どうしたんだ? マツカゼさんの
屋敷までブラウンの声が聞こえて来たけど。
あっ、シルヴェス君!!
あのね、今身に着けているこの帽子が
外せなくなっちゃったんだ。お願いだから
君の力で外してくれない!?
ちがーう!!!
今はそんな事言わないで、助けてくれよー。
僕を驚かそうとしたから
罰が当たったんですよ。あはは。
えーっ!
サプライズしたかっただけなのにー。
言うでしょ、雛が成長すると鶏になるって。
その進化の流れを頭で表現したかったの!!
まあまあ。これが彼なりの歓迎なんだ。
怒らないであげてくれ。
うふふ。もちろん分かってます。
でも、何か揶揄いたくなっちゃうんですよ!
さてと、皆さんで彼の
帽子を外しに取り掛かりましょう。呼吸を
合わせる事が出来れば必ず成功します。
おう。そのつもりだ。
どうやらこの中で力担当は俺と
イムラさんの2人しか居なさそうだしな。
帽子の
鶏冠の部分を
力担当のイムラとシルヴェスが掴み
超ドでかい大根を引っこ抜くかのように
その後ろをシモンやシルドラの腰付近を通し
真横に植えてある木に縄を縛り付け、「よいしょ!」の
合図で引っ張る、綱引きの要領で帽子を外す
大がかりな用意がシモンの提案で
実行される事になった。
よしっ!
ブラウン、多少の痛みは許してくれ。
男を見せる時だ。良いな!?
うんっ!!
ボク、頑張るよ!!!
イムラさん、お願いします。
イムラの号令により
帽子の取り外し作業が始まる中
マツカゼのおつかいを頼まれて
屋敷へと戻っていたブロスが偶然にも真横を通り掛かる。
こんな大掛かりなモノ
用意しなくても首を傾げた状態で、
このニワトリの顔部分を後ろに持って来て
深呼吸してくれれば、こういった帽子
なんか直ぐ取れるんだ。
ほら。こんな感じに
痛みなど感じないで容易く外せる。
や、やったあー!
やっと自由の身になれたよー。
ブロス君、ありがとねっ。
うん。マツカゼのお世話をしているせいか
少しずつ良い顔になって来たな。
それがブロス、君の本来の姿だ。
此処にいる者代表として言わせてくれ。
ブラウンを助けてくれた事、感謝する。
しかし、シモンさんが提案した
縄引張り作戦が無駄になっちゃいましたね。
多分それが妙案に違いない。
人の身体って言うのは繊細だからな。
それにしても上出来だ。
ブラウンを傷付けずに済んだ事
お礼をさせてくれ!
何を言ってる?
もっと自分に自信を持って欲しい。
このシモンが保証しよう。後にマツカゼにも
報告させて頂く。
アイツは土産話が大好きなんだ。
きっと喜んでくれる筈。
そう言えば、ブロスさん!
その手に持ってる物って何ですか?
これか?
これは此処シノヴァシアで汲める水と
土・肥料で育て上げたキャリッジと言った
根菜なんだ。栄養があるって
里の皆に聞いてな。
ちょうど畑から
3本貰って来た所だったんだ。
マツカゼさんの夕飯を作る序にもなったし。
ちょっと!
ボクのお腹が鳴った音だよ!
体内に怪獣なんか飼ってないのにー!!
さっきからシルドラ君、酷いよー。
あはは。何か
寒いから
マツカゼさんのお屋敷にお邪魔しようかな。
もし良かったら、ボク達にも
作ってくれない?
別に構わないぜ。
寒いなら囲炉裏で暖を取っていてくれ。
やったー。
シルヴェス君の次はブロス君の
手料理が食べれる。今から楽しみだなあ。
もし良かったら
イムラさん、シモンさんも如何ですか?
気持ちだけ感謝する。
済まないな。これからグレイブ洞穴に行く
用事があるんだ。もうそろそろ夕暮れ時だ。
きちんと戸締りを心掛けてくれ。
気付いたら時刻は17時。
季節は夏と言えども、
森を吹き抜ける風は里全体を包み込み
一気に肌寒い時間帯になる。全ての屋敷の外に
設置されている灯籠、中央広場に置かれている
松明が徐々に点灯して行き、夜を告げ始める。
ブラウンの帽子騒動が治まり
いっぱい外で遊んで帰って来た子供達のように
賑やかな皆の声が聞こえて来た事に気付き
縁側ですっかりアロイスと共に
寝てしまっていたフラジーが
寝ぼけ眼を擦りながら一足先に起床。
ああああああ!!!
すっかり寝ちゃった。シルドラ君!?
『フラジー、
少しの間留守にさせて貰う。
以前突風が吹き荒れた際に裏山に生えてある
木が倒れてな。通行の邪魔になると思うから
ミルフと共に片付けて来る。』
そうだ。思い出した。
その後、アロイスさんと会話が弾んで
気付いたら寝てたって言う事ね!
って言う事は
屋敷にいるのは俺達2人だけじゃん!
早く誰か帰って来てくれー。
寂しいよー!ぐすん。
中央広場――。
木枯らしが吹き荒れると
同時にシルドラがかました怪獣ネタにも
何処か寒い風が吹き荒れてしまった。どちらかと言えば
ガオーはライオンのような気がしますね。
****
マツカゼ邸。
少し時間が経ち、
ブロスは夕飯の仕込み、フラジーとブラウンは
忍者の里の各家庭に必ず置かれている
五右衛門風呂に入れる湯を沸かしていた。
やっとお湯を入れる事が出来たー!
シルヴェス君、足りなかった分の薪を
割ってくれてありがとね!
うん。マツカゼさんは
熱いお湯に浸かるのが趣味なんだ。
だからいつも多めに薪をくべるんだよ!
成程な。それにしても
五右衛門風呂なんて初めて見たぞ。
この上の部分って桶なんだろ?
そうだよ。
釜戸の中で
薪をくべてる時
桶の下部分って熱くなるでしょ?
だから、足を火傷から守るために
底板を敷いて入湯するんだ。もちろん
露天風呂も好きなんだけど、桶って
木製道具だから独特の匂いもするし、
何より風情があるんだよー。
ブラウン君、フラジーさん!
お風呂の様子はどうですか?
今、この瞬間女性が居なくて良かった。
それもその筈。
マツカゼから支給された道場着を
慣れているかのような手付きで早着替えのように
パッと脱いだ所にシルドラが現れてしまった。
要するに上半身は裸で、
下はきちんとパンツを穿いてる状態です。
うぉっと!!
び、ビックリした。もうとっくに
お風呂に入る準備していたんですね。
あっ、シルドラ君。
えっ、えっと今回は大丈夫だよ。何時
誰が来ても良いようにパンツ穿いてるもん!
やったー!
マツカゼさんが帰って来たら
またお風呂の湯を焚けばいいもんね。
あっ!!!
家にクマさんタオル置きっ放しだ。
あれが無いと身体を拭いた感じがしないから
一回取りに帰るね。すぐ戻って
来るから待ってて!
服着なくて良いんですか?
裸じゃ風邪引くと思いますよ……
それなら大丈夫!
こう見えて風邪引いた事無いもん。それ程
ボクの身体が丈夫って言う事でしょ。
****
場所は戻り、グレイブ洞穴。
イムラとシモンの2人が合流し
スチュキートの動向を探るけど、現状全く音沙汰が無い状態。
逆に静か過ぎて不気味な状況とも伺える。
そんな中、オリアナと隊員が
不思議な顔をしながら視察から戻って来た。
あっ!
イムラさん、シモンさん……
オリアナさん達が戻って来ましたよ。
オリアナ、
さっきから様子が変だぞ。
洞穴の中で何か見つけたのか?
どんな些細な事でも良い。教えてくれ。
彼女の右手の上にはスチュキートの死骸が1匹。
こいつが里の皆を
苦しめてるスチュキートの姿か。自然と
擬態出来る生態故、生で見るのは初めてだ。
でも、死んでるんだろ?
別に可笑しい所等無いと思うぞ。
いや、ちょっと待って欲しい。
この死骸を見つけたのは何処だ?
し、しまった。急いで戻るぞ!
此処に奴等はもう居ない。多分洞穴の上層部に
外に抜けられる穴があるに違いない。
ふう。すっかり夜になりました。
仕事をしてると時間を忘れてしまいますね。
遅くなったけど、
マツカゼさんのお宅にお邪魔しないと。
あっ!!!
ちょっと待って。
あそこに倒れてるのって……
シルドラ達にとって
今日はシノヴァシアで過ごす最初の夜。
この里を満喫している最中、緊急事態が発生してしまう。
住民の個人情報が
記載されている帳面の整理を終えたブルーノが
マツカゼの屋敷に届けようと外に出てみると
中央広場の手前付近で倒れている……
タオルを取りに帰って
マツカゼの屋敷に戻ろうとしていた
ブラウンの姿が――。
もしかして、スチュキート!?早くブラウン君を治療しないと!
次回、いよいよ
里の平和を守る為スチュキートとの退治が始まる。
そして奴等の魔の手は長である
ブルーノにも襲い掛かろうとしていた。
そう、シノヴァシアを完膚なきまでに落とす為に――。
第057話(後編)へ続く。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)