第058話:牢獄島の企み!空中戦艦"ハデスバディード"に訪れる危機!!
文字数 4,725文字
少し前の出来事。
場所、クラムビーチ周辺――。
自宅からランタンを持ち、
波音を聞きながら岸辺を歩いていたのはゴッシュ。
以前も言った通り、彼は権威のある地図博士。
それと同時に
様々な生態系の研究もしているせいか
この夏の期間内にしか現れない、砂浜に混じっている
キラキラとした何かを凝視していた。
これが噂の
ラメックソルトか。
ティブルエイドの周辺海域の海水が
長い時間を経て構成された、と
文献に記されていたな。
砂浜に混じっていたのは
ティブルエイドの海水が元となって出来た
ラメックソルトと言った粉末状のラメ入り塩。
時間帯は夜。
周りには何も灯になるような物も無い。
それなのにも関わらず、クラムビーチの浜辺には
見渡す限り、ラメのキラキラした光沢が敷き詰められ
幻想的な空間にと広がっていた。
自分の目や足で確かめる、それはお手の物。
ただ、気になった食材も舌で確かめたい為
何の躊躇も無しに口へと運ぶ。
お”えっ!!!何だこれ。塩辛いにも程があるぞ!!
家から水持って来といて正解だったな。
ふう。これで何とか口内が治まったな。
さてと今日はこの辺にして
自宅へと戻るとする……
辺りを見回していると
ゴン!と頭を岩に叩き付けられた音が
彼が背を向けている岩場の方から聞こえて来る。
ん、今何か聞こえたぞ……
岩に付着している苔を海水魚が
食してる音か?
いや。異様に物音が大きかった気がするぞ。
念のためだ。確かめてみるとするか。
もしかしたら
危険な回遊魚、海水魚が浜辺に
打ち上げられているかもしれない。場所が海なだけに
色んな魚類がこの世界に居る。部類が違うけれど
先程までシノヴァシアを襲撃していた
スチュキートも害虫の1種類に過ぎない。
用心に越した事は無いと
ランタンを持って恐る恐る反対方向の岩場に向かう。
ただ、そこで確認したのは魚では無く人間。
気を失い波に遊ばれていた
レブロンの姿が……。
お、おい!!
レブロン。大丈夫か!?
一体何があったんだ!!!!
ダメだ。返事が無い。
それに身体が冷え過ぎてる。
このままだと体温が下がり、死に至る筈。
急いで自宅に運ばないと……
今はレブロンの無事を信じ
自分の服が濡れようが必死に彼を担ぎ
いち早い処置を施さないといけない為に
ロックドクリフの崖の上にある自分の家に急ぎ早になりながらも
無事に自宅前の庭に辿り着き
焚火を起こし、自分の手作り木製スツールに
座らせながら彼の背中をさすり始める。
もう大丈夫!!
少しずつでも良いから、お願いだ。
口内に溜まっている海水を全部吐いてくれ!
き、気が付いたようだな。
何とか無事で良かった。口の中が
血と海水で違和感だらけだろう。今台所から
水を持ってくる。ちょっと待っててくれ。
バタン!と玄関の扉を閉め
台所にあるコップに水を注ぐ前に
居間に置かれているソファにゆっくりと座り込み
クラムビーチで横たわっていたレブロンを
無事に救出出来て、何処かホッと一息付いていた。
何とか一段落着いたな。
血液の量もそこまで著しく無い。
大事に至らずに済んで本当に良かった。
いや。貴方様に
話す事では無いです。そう言えば
通信を切らずに外出してしまいましたね。
その度は誠に申し訳御座いません。
ああ。待ちくたびれたぞ。
外にレブロンが居るんだろ?
お前と普通に話してる声が漏れてたぜ。
話を
逸らしてしまったら
怒られると思ったので、秘密にしていました。
現在自宅の庭にて彼の身体を
完治する為に療養させています。
良いんですか?
ヴァーロン様は牢獄島に向かってる最中です
貴方様が出る幕では無いと思われ……
わ、分かりました。
全ての元凶はアレドシア様です……
ティブルエイドは今彼の監視下に
置かれている状況。シノヴァルドの元長
ヴァル=バーンズを処刑する為に
フランバージュとして暗躍してます。
そこにシルドラは居るか?
アイツもその計画に深入りしてないよな?
それに、奴等は彼の両親が残した
ネックレスを執拗に追い掛けていまして。
現在はシルドラさんが所持――
その時、
ゴッシュの通信機器越しに
向こう側から何かの攻撃を喰らった轟音が数発響き渡る。
空中戦艦 "ハデスバディード" の
廊下や操舵室、迎賓室、更にはエンジン室と言った
様々な部屋で乗務員やヴァーロンの傘下が
乗り込んで以来、今まで味わった事が無い
非常事態を経験してしまう羽目になってしまった。
ゴッシュ、済まない!!
邪魔が入った。また後で連絡するぞ。
****
操舵室兼通信司令室――。
避難状況が把握出来る戦艦の内部。
被害状況が確認できる外部。様々な場所に
設置されている監視カメラの映像が映し出されたディスプレイ。
何処の方角から攻撃されているのかが
明確に分かるパソコン、敵襲対策の
武器を搭載している格納庫の扉開閉も
全てこの部屋から行える。
そして、この司令部の室長を務めている彼も
ヴァーロンの事を慕っている1人。
名前はフォック。
【フォック】
どういう事だ?
モニターの範囲に該当する大陸無し。
一体何処から攻撃されてる!?
おい、フォック!!!
ハデスバディードが攻撃されてるぞ。
さっさと武器格納庫のハッチを開けろ。
総攻撃を仕掛けてやる。
ダメだ。
このモニターを見てくれ。
この赤くて丸いポイントが今この戦艦が
滞空している箇所なんだけど、辺りを
見回す限り大陸も無ければ
目立つモノも無い……。
これは対象範囲の境界線のようなもんだ。
線内に目標物があれば赤く点滅するように
システムが作動する筈。
じゃあ、何か!
指を銜えて敵の攻撃を受け続けろって
言いたいのか? ふざけるな!!!
ヴァーロン様、
さっきから揺れが半端ないぞ。
早く対処しないといくら頑丈な戦艦でも
集中砲撃され続けると皹が入って、滞空が
不可能になり、いずれは墜落する。
どうした?
何か妙案でも思い付いたのか!?
何でも良い。教えてくれ!!!
戦艦の下部分に
設置されている小さい穴らしき箇所が開き
小型爆弾を数個、フォックが押したボタン1つで落下。
殺傷能力は無いけど
もしかしたら、ハデスバディードに総攻撃をしている
敵を炙り出す事が出来るかも、と
ガディウムの指示に従う。
ただ、海中でオレンジ色を帯びながら
水飛沫を上げて爆破はした物、
そこには何も無いようで――
浮上して来い!!!!俺を怒らせた事、後悔させてやる。
司令室の
100インチ位ある大型モニターに
突如として砂嵐が生じ、そこから浮かび上がって来たのは
不慮の事故により右目を負傷してしまい
その大陸に置ける一番偉い存在である
牢獄島の獄長、名はブレイア。
【ブレイア】
ふん。周辺捜索ご苦労だな。
この声が聞こえてるなら、返事をしろ。
お前が噂の獄長か!
何で俺等の戦艦を攻撃してるんだ!?
答えによっては、何処にいようが
ミサイルをぶちかましてやるぞ!!!
うるせぇよ!!!俺はヴァーロンだ。この
ハデスバディードを用いてお前等の
牢獄島に突撃する輩だと覚えとけ。
ご丁寧に自己紹介してる場合か。俺達に遭遇した洗礼を喰らわせてやる。
近くにモニターとかあるんだろ?
外を見て見ろ。
おいおいおい。何だこれ!?
突如として数発のミサイルを確認。
そこの君。あのディスプレイに映してくれ。
艦隊の下に備え付けられた
カメラからの映像で、映し出されたのは
雲の下から飛来して来たおよそ30発を誇るミサイル。
大体5~10発だと思い込んでいた
首領ヴァーロンもこの数には驚きを隠せず――
おいおい、マジかよ!
さすがのハデスバディードも
この数を喰らったら一溜まりも無い。
フォック、急いでシールドを張ってくれ!
一先ずこの領空を離脱するぞ!!
おう。艦隊全体にシールドを展開。
爆風の影響で機体が揺れる可能性がある。
何処かに掴まっていてくれ!
青白く発光している弾道ミサイルが線を描きながら目標物に到達。
どんな攻撃も屁としない
耐熱シールドを艦隊全体に張り巡らせている為、
機内には影響を受けないと思われ――
ドドドド
物凄い爆音が一斉に響き渡る。
なんと、シールドを貫通してしまったようだ。
操舵室兼司令室のデスクの上に置かれている
資料、内線電話やマイクが床に落ち
きちんと椅子に腰掛けていても
体勢を崩してしまう程の揺れに、今までどんな攻撃を
受け流して来たヴァーロンさえも驚きを隠せずにいた。
そんな!!!
シールドが貫通されてしまった。
これは本格的にヤバいぞ。
おい!!!どうせ何か仕掛けがあるんだろ!?
俺等の自慢な高性能シールドも意図も
容易く突破しやがって!!!
ヴァーロン様、刺激してはいけません。
今は堪えて下さい。
お、おう!!!ソウルコアのエネルギーを使って
オーバードライブモードに切り替えろ。
直ぐに退避出来るように準備しとくんだ。
ふん。さっさと立ち去れ。
初回は見逃してやる。命拾いしたな。
立ち退く前に1つ聞かせてくれ。
さっきも聞いたけど、何で俺達を狙った?
センサーに反応しただけの事だ。
処刑を免れない2人の護送をしている
身でな。進行方向に邪魔な存在があれば
即座に排除。其処にてめぇ等が現れただけ。
さっさと消え失せろ。
質問は1つまでだ。
牢獄島の圧倒的な軍事力を舐めない事だな。
返事をしろ。
ギルド、幻惑ノ紅の首領。
ヴァーロン・レイクフォード……
あぁ、分かったよ!!!
全員退避する。フォック、急げ。
ありがとな。
おい、ブレイア。
最後にこれだけは言って置くぞ。
次会った時は
必ず俺等の責務を全うするだけだ。
幻惑ノ紅の名に恥じない働きをさせて貰う!
ああ。つまらん余興でも楽しむ事が
要だ。
その時はせいぜい楽しませてくれ。
戦艦を包んでいたシールドは
獄長ブレイアの号令により牢獄島から放ったミサイルにより
貫通してしまい、ハデスバディードの腹と言える部分が
大破してしまった。しかし、稼働するのに
必要不可欠となるエンジン部のソウルコアが無事な為
滞空が維持出来ている。
何とか見逃して貰った
幻惑ノ紅の次の目的地は、
まさかの空大陸。
ヴァーロンとシルドラとの再会も間近に控えていた。
次回から4話続けて、
いよいよフェルマータ城編の直前話。
フランバージュとの対決、大陸ティブルエイドに
隠した複数の伏線、怒涛の展開と
共に回収開始――。
第059話へ続く。
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