第073話:猛火と爆破の連鎖!危険な罠の時間を阻止せよ!!(前編)
文字数 5,742文字
ヴァンウッドの森。
緑で生い茂っていた草花や木々が
アレドシアの爆破行為により、忍者の里シノヴァシアに
行けるフェイスウォールが崩壊されてしまい
向こう側の様子も確認出来ずにいる。
それとは別に周辺は火の海と化し、
現在巫女族総動員で、消火活動が行われていた。
オリアナさん、
今は森の消火をしないと!
皆さんがバケツリレーで水を運んでいます。
一緒に手伝ってくれませんか?
だけど、此処は
巫女族しか住んでいないから
水入りバケツの往復だけで力が付きそう。
確かに私達、女だけじゃ心細いよな。
それこそ、力のある奴が1人でも
居れば心強いんだけど。
だとしたら、
今は此処にいる皆で
この森を守り通さないといけないよね!!
もうっ。貴方達の帰りが遅いから
様子を見に来たんですよ。
でも、この森はヴァル様が
命名した守護花 "シンティア" で
一から築き上げる事に成功した
ヴァンウッド。私達の手で
救い出してあげる義務があります。
ああ、分かってる!!神聖な地に火を放したアレドシアを許さん。
目に物を見せてやろうじゃないか。
他の巫女族も頑張ってくれています。
私達も現場に戻りましょう。
****
ランバードと共に
喫茶店ヴァーズメルトで働く姉妹の
手作りケーキを食べに来た兄ライガー。
しかし現在、彼女達は
エバスとブランザの護衛によりホットソープへ配達中。
留守だと分かってでも、心配でならない
彼は無事である事と信じ、飛行機を着陸させた
クリアリッチパークへと急いで戻り
上空から彼女等を探していた所……
ティブルエイド、
ヴァンウッドの森が徐々に酷い有り様と化す光景を
偶然にも目の当たりにしてしまう。
どんどん火が燃え移ってるじゃないか!!
移動してるなら森の中にいる
可能性も多いにあるな……。
くっ。このまま
お前の姉妹を探すのは一苦労だ。
エアロブルーに一旦戻って対策を考えるぞ。
何言ってるんだ!!
此処まで来て引き下がれるかよ!!!
じゃあ、何だ?
飛行機諸共火の海に突っ込んで
エンジンオイルに着火でもしたら
ライガー、お前も無事じゃ済まされない。
無茶にも程があるだろ!!!
その時、
突如として彼等に襲い掛かって来たのは
空気中に渦が生じて乱れ、不規則な動きを
否が応でもさせられてしまう乱気流。
進行方向を阻むかのように
中へと入ってしまった機体は急激な上・下降を
繰り返し、エアロブルーに戻る所か
ライガーが向かう目的地に近付けさせない
空気のせいで2人を困らせていた。
や、ヤバい!!
乱気流の中に入ってしまった。
大きい揺れが生じる筈。しっかりと
機体に掴まっていれば安全だ。
ああ。俺の事は構うな。
今は目先の事だけに集中するんだ。
ああ、済まない。
えっと、此処はクリアリッチパークの
進入経路上に該当する。迂闊に飛び回って
ダウンバーストなんかに出くわしたら
最悪のシナリオと化すぞ。
※ ダウンバーストとは……
積乱雲からの強い下降気流の事で
地面にぶつかった後、水平方向の広い範囲に飛散し
強い風をもたらす。発生時期は4~9月で
特に夏場に集中するけど、一年を通し発生する。
考えろ。最短ルートで
プラムとシルリアの元に辿り着く方法を。
確か、あの時……
それはまだ
喫茶店に向かう前、
ランバードとライガーがエアロブルー飛行場の
滑走路でチャイ、ビッケの2人と
世間話をしていた時の出来事――。
『そうだ。ライガーは良く
後部座席から飛び降りる癖があるからな。
安心して地面に着地出来る箇所があれば
出来る限り、低い位置で操縦桿を
固定すれば最適だと思わないか?』
『あっ、そう言えば
マリーナブルーとホットソープは
低空飛行可能箇所だった気がするよー。』
『それに、ボク
昨日お休み貰ってヴァーズメルトに行ったら
明日ホットソープに差し入れするって
一生懸命作ったクッキーの良い
匂いがしてたから覚えてるんだ!』
そ、そうだ!!
何で今の今まで思い出さなかったんだ!?
操縦桿、
操縦輪を手前に引き
昇降舵は上に動く。気流の当たる力を有効に使い
機首を持ち上げた状態で無事に
その場から抜け出す事に成功。
巧みに飛行機を操る技術を熟す所は
伝説の操縦士であるフラジーを見ているよう。
流石の一言に尽きる。
方向を北西に固定。
操縦桿を少し奥に倒し、機首を安定っと。
ああ。お陰で
お前の姉妹と再会出来るのも時間の問題。
もう安心して大丈夫だぞ。
ハプニングは付き物って言うだろ!?
こんなモン、屁じゃないぜ!!
後15分程度で到着する。
好きなタイミングで降りてくれ。
ライガー、お前との空の旅楽しかったぞ。
俺は一旦エアロブルーへと戻る。
姉妹の事、頼んだからな。
当たり前だろ!!!俺が戻って来た暁には礼を
沢山言ってやるから覚悟しとくんだな。
そのままライガーを
乗せた機体は低空飛行を保ち
軌道に乗りながらマリーナブルーの方向へと進み
ランバードとの空旅終了時間、そして
プラム・シルリアとの再会する
時間も迫って来ていた。
ただ、気流を抜けるまで
時間が相当掛かってしまったせいか
上空で飛行機が滞空していた事、フェルマータ城の
回廊からティブルエイドの様子を監視していた
アレドシアの目にきちんと
捉えていたようで……
アレドシア様、
此処から南東方向に飛行機の主翼を発見。
俺に何か出来る事はあるか?
ふん。
蝿のように
うろつく飛行機の対処はもう出来てる。
そんな事より
シルドラはどうしたんだ!?
私から直々に任務を受け取りたいなら
本来のお前に課した役目を果たせ。
用心棒って言うのは
護衛と同じ意味なのは知ってるだろ。
結局、レブロンも
ロギュア、グラッツ、アッジ同様に
何の役にも立たない只のお荷物なのか!?
どんだけ言っても
お前の共感を得る者など誰も居ない。
これ以上、俺の仲間を傷付けるのは……
咄嗟に地面に落ちてあった
ヴァルを処刑した際に使用した血液付きの剣を
今1度手に持ち、計画を遂行しないと
何の意味も成さない衝動に駆られたアレドシアは
何の躊躇いも無しに、レブロンの
腹部に突き刺してしまう。
ブラウンの
繰り出した誠拳道の技の
後遺症が残る中、再び吐血してしまう。
先程と違う所を言えば、今回は腹を貫通している為
常に命が尽きる運命と背中合わせ。
このままだと、彼も危ない――。
お、お前如きが……
私に歯向かうからこうなるんだ!!!
う、うるせぇ!!人の痛みを知れって言いたいんだ!!!
いつか途切れるかもしれない
脆く
儚い物。
そんな曰く付きの為に何故お前は
そこまで頑張れるんだよ!?
必死になって色んな奴と一緒に冒険を交わし
様々な絆を紡いで来た。それなのに……
俺が出来た事はこの身体でアイツを
守ってあげた事だけなんだ!!!
シルドラは察する能力が高い。お、俺はいつ切られても可笑しくなかったんだ。
だけど、沢山馬鹿騒ぎをする中で気付かされた。
彼はやっぱり
シルドラ達の事を裏切ったりしていなかった。
ずっと胸の奥底に眠っていた本心が
時間を経て、ようやく自分の口から吐き出す事が出来た。
刺された腹部を抑え
両手に大量の血液が付着していても
命を顧みず、小声で熱い想いをアレドシアに主張。
その直後、レブロンは
背中を石壁にもたれつつ
身体に走る痛みと戦いながらも
足元が覚束ない、目前が霞み出す中で
下の階へ続く階段から転げ落ちてしまった。
****
忍者の里 "シノヴァシア"。
此処はフェイスウォールから
少し離れた場所の為、火の手が回って来ていないけれど
崖下のヴァンウッドの森が今もひっきりなしに
燃え続けている様子がこの場所から
良く見る事が出来る。
フラジー、此処は慌てる箇所では無いぞ。
現在、里の者達が二手に分かれて
作業を行っているじゃないか。
でも、ジッとはしていられないよ!!!
俺にも何か手伝える事あるよね!?
役に立ちたいんだよー。
そうか。それなら
あそこの井戸に桶が沢山置かれている。
それに大量の水を汲んでシモンの元へと
持って行って欲しい。出来るか?
それだけで大丈夫かな?
火が消える御呪いとか掛けた方が良いかな?
うむ。それは妙案だな。
ヴァンウッドの木々達もきっと喜ぶ筈だ。
よーし!!
俺も皆に負けないように頑張ろうっと!!!
爆破で壊された
フェイスウォールから行けるヴァンウッドの森の
旅人の宿に繋がる小道上の瓦礫を
イムラ、アロイス、狐族ランザーの3人が
必死になって撤去作業を行っていたり――
アロイス、ランザー。
この場所に柵を設けたから
今は此処に取り除いた瓦礫を置いてくれ。
俺も手伝うぞ!!!
ああ、分かった!!!
ランザー、急いで撤去するぞ。
此処が開通さえすれば、この様子を
森の長ルミシー様に伝える事が出来る。
情報を共有して、共に消火活動をすれば
一気に解決へと導ける筈だ。
そう言う事か!!
分かった。共にこの壁を乗り越えよう!!
そして、シモンの指示で
長年の使用が無かった鷲吐水を扱う為
生活用水に使われている井戸から
大量の水を桶に汲み、1回1回その火消し道具に
移す作業を里長ブルーノ、狐族でランザーの姉妹
レルナ・ヒューナの3人が行っていたり――
※ 鷲吐水とは……
消火道具(火消し道具)の1つで
鷲が水を吐く様に見えた事からその名前が名付けられた。
木製の手押しポンプで、空気の圧力を
用いて水を15m飛ばす事が出来る。
この作品で誕生した造語。
レルナさん、ヒューナさん
安心して下さい。彼が扱おうとしている
鷲吐水があれば一時凌ぎですけど
多少は消火活動が可能です。
勿論だ。取り
敢えず
これ以上の拡大を阻止しなければならない。
此処で火の手を食い止める!!
燃え広がるヴァンウッドの森を救うのは
巫女族だけじゃない。
黙って見過ごす事が出来ない事態が彼等の目前にある。
一丸となって協力してあげるのが
師範、そしてシノヴァシアの
住民達の役目。
地獄の業火のような
オレンジ色の夕焼けから時間が経ち
今度は黒煙と暗雲が立ち込める夜へと
刻一刻と秒針は動き始める。
しかし、此処で問題が1つ発生してしまう。
それは……
ぶ、
ブロス君が……
何処にも見当たらないと思ったら
森の中へと入って行ったらしくて……
****
茶屋「甘蜜」
火の魔の手は
遂にコトハの元にも訪れ
父親のアッジが行方不明になり、1人で
切り盛りしていた穏やかで心安らぐ御店の
台所等も勢い良く燃え上がる光景を見てしまい
失意に駆られてしまう。
原木で出来ている支柱も
全て燃えてしまい、今にも音を立てて
崩れ始めようとしていた。
やっぱり私1人じゃ何も出来なかった。
この御店を守る事も。
森全体を
覆い尽くす火の様子を
一部始終、上空で監視をしていたグレントが
茶屋の屋根の骨組みで一番高い棟木と
小屋梁がボキッと折れてしまい
彼女の頭上に降り注ぐ光景を
目の当たりにしてしまうと、
その瞬間、地面を
強く蹴り上げ走って来た誰かの声が聞こえ始め……
店先の前で立ち尽くしていた
コトハを崩壊寸前に見事なスライディングで救出成功。
そう、命を張って助け出したのは
先程シノヴァシアから突如として姿を消した――
ええ。危ない所を助けて下さり
誠に有難う御座います。
男として当然の事をやっただけだ。
取り敢えず無事で良かった。
その様子だと
すっかり私の事を忘れてしまったんですね。
あっ。え、えっと……
何なら、今初めて会った気がするんだけど。
違うの、か?
ええ。ブロスさんは
以前当店を訪れた事があるんですけど……
その際に
注文した品をご機嫌なご様子で
待っていた所、大量のスチュキートに襲われ
森の奥へと消えて行った光景を
御見受けられたので、貴方の無事を
ずっと祈念していたんですよ。
今、ブロスの
過去が
現在へと繋がる――。
第074話(後編)へと続く。
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