第035話:しあわせの温泉宿を救え!ヴァリングス陣営vsリブマッド!!(前編)
文字数 4,479文字
くそっ!!!
逃げられた。此処から先はミルフ担当だ。
腕っぷしがありそうだからな。
えっ!?
あたいは女性だぞ。客の誘導をしろって
言ったのはお前じゃないか。
何だ何だ!?
お前等、リブマッド退治中でも
愉快だな。俺も混ぜてくれよ!!
シルドラ不在でもツッコむ所は容赦無く行くからな!!!
返事は!?
ホットソープ前章のあらすじ。
シルドラ達一行が辿り着いたのは、ティブルエイドで
有名な温泉地"ホットソープ"。そこで番台のラグとの
再会を経て、ヴァリングスへと足を運ぶ。
そこでは、ヴェスターと言った商売人が
ヒートリンスを拠点にし、以前社長夫婦だったミルフの
両親を殺害。そして不満を言い続けた宿潰しを
決行する為、猪の容姿をしたモンスター "リブマッド" を
周到過ぎる準備を経て、放してしまう。
そんな時、彼がフランバージュの元メンバーである事を
告げに補佐であるグラッツとロギュアが姿を現し
この1件を全てシルドラに託されてしまった。
ホットソープの未来を切り拓け――。
確かフラジーって、
シルドラ達を乗せたフリューウィングを
操縦してた奴だったよな。確か
左翼が無くなって今にも墜落
しそうだったけど……
やっぱり!
あの後、ヴァンウッドの森に墜落して
気絶してた所、ルミシー様が助けたんです!
ミルフ、さっきから失礼だぞ。
ルミシー様はシノヴァシアとの均衡を保つ
ヴァンウッドの森の長だ。
均衡って言うのをその2つの土地で
例えるなら、シノヴァシアとヴァンウッドは
長同士で、お互いの信頼が程よく
バランスが取れていると言う事ですね。
森と忍者の里、切っても切れない存在。
素晴らしい響きです。
立派じゃないか!
信じあってるからこそ
出来る芸当だと思うぞ!!
うん! お兄ちゃんありがとね。
フラジーさんも治療して、何とか
大丈夫だよ。久し振りにシルドラ君に
会いたかったんだけどなー
そう言えば、ブルーノ様。
ちょっと、ここでは出来ないお話が
御座いますので場所を移動したいのですが
宜しいでしょうか?
おう。確かお前達は
リブマッド退治だったよな!
頑張ってくれ。健闘を祈る!!
もちろん。これ以上
ヴァリングスを攻撃させはしないぜ。
ロギュアとグラッツはあくまで
フランバージュの一員としてブルーノと "とある事" を
話さなくてはいけない託を
アレドシアから頼まれていた為
少し離れた場所に移動し始める。
そして、いよいよヴァリングスの番台ラグ、
従業員のブランザ・リタ。そして
ミルフ達とのリブマッド退治と言う名の
戦いの幕が切って落とされた――。
くそっ。俺も手伝ってあげたいのに
さっきのヴェスターの攻撃で
思うように動けない……
無理するな。安静にして置いた方が良い……
せっかくリタが治療してくれたんだ。
また傷口が開いたら元も子も無いだろ?
シルヴェスもヴァリングスを守る為に
頑張ってくれたんだ。それに
応えてあげないとな!
****
ヴァリングス、6階――。
現在宿泊しているお客をリブマッドの襲撃に
遭わないようにユリシールとシスティアの2人が
この館内の四方八方にある螺旋階段の他に
緊急事態な時の為に作られた非常階段を
使って誘導している。
お、若いのに偉いな!
ヴァリングスの従業員じゃなさそうだけど
誘導してくれてありがとな。
お姉ちゃんが助けてあげる!
ほら。私の手に掴まって。
こう言う時は下を見ない方が良いんだよ。
気持ちを落ち着かせる事も大事!!
あら。神対応じゃない。
その子もきっと安心できる筈。
その調子で残りのお客も誘導するわよ。
10階――。
2人と同じように、エバスの家内ニリアも
当館の最上階にして "黄梅" "紅葉" と言った
最高級の部屋に宿泊しているお客を誘導していた。
緊急事態ですので、
焦らずゆっくりと下りて下さい。
私が誘導させて頂きます。
はぁ。私達、優雅な時間を過ごして居たのに
獣に当宿が襲われるなんて
聞いてないわよ。
大丈夫だ。宿泊先の対応が悪いだけ。
こういう事が分かって居れば
違う宿を抑えれば良かったな!
ちょっと、貴方達!
この事態は宿側も予測していなかったのよ。
前言撤回しなさい!!!
うるせえよ、ババア!!!
こっちには金やコネがあるんだよ。
俺の一言でこの宿位潰せる事が出来る。
何か言ったらどうだ?
何ですって!!
ちょっと貴方からも
何か言ってくれないかしら?
私の家内を困らせないで頂きたい。
確かに私達は従業員じゃない。しかし
今現在ヴァリングスは緊急事態。金銭、
コネなんかより大切にしないといけないのは
お客様1人1人の命です。ご自愛の程を。
分かれば良いんです。
下の階でも次々に避難が完了しているので
後は私達だけ。一呼吸整えたら
1階へと向かいましょう。
人気宿 "ヴァリングス" に宿泊している客層は様々。
6階から9階までは一般層として
程良いプランの1つに組み込まれているコースで
値段が統一されており、お手頃。
10階は高貴な方専用の所謂VIPルーム。
最上級のおもてなしから、その部屋に
泊まった方でしか味わう事が出来ない
プランが組み込まれている。値段はお高め。
ただ、こう言った緊急事態に人間は慣れない。
増してや、現在猪が暴動を起こしてるとも言えない。
安全だと思っていても、対処が遅いと
クレームを入れる人も多々いる。
セレブの人は特にそう……。
****
館内の観葉植物の匂いを嗅いでいるリブマッド。
気配を消して、背後から捕らえようと
忍び足で近寄るエンディア。
そっと、そっと……だ。
今奴は匂いに夢中だからその隙に
俺のこの腕でガチッと……
標的の範囲内に居て、
尚且つ足音も立てないで近寄れば
後ろからでも捕獲出来れば大丈夫だろう。と
思い込んでいたエンディア。
肉弾戦ならお手の物。シルドラが故郷でモンスターに
襲撃された際も彼の正義の拳で退治してくれた。
今回もヴァリングスの為、一生懸命
頑張ってくれているけど、リブマッドは
そう簡単にはいかなさそうだ……
ミルフの足音に勘付き、
鼻息を立てて、違う場所へと移動してしまった。
リブマッドは剛毛なんだ。
柔軟そうに見えるけど、実は固いから
素手で触ると怪我する。結構被害を
受けてるみたいだから気を付けた方が良い。
そうだったのか。
何の対策も無しに行動に移すと
奴の思うツボ。でも、どうすれば良いんだ?
世間一般の方が抱く "猪のイメージ" として
ひたすら目標を目指して行動する "猪突猛進" と
言った言葉があるように、あまり頭が
良くないと言うイメージがある。
しかし、こう見えて賢い獣。
油断ならない相手に引けを取る事が出来ない状態。
様子見に来たラグが現状況を聞き始める。
お前等、どうやら
手こずってるようだな。
俺も奴の生態は知ってるけど、
お目に掛かった事は無かったから
対処の施しようが分からないんだ……
クソ。早すぎてなかなか追いつけない!
それにさっき多少だけどジャンプ
してたぞ。巨漢なくせに
油断ならない相手だ!!
ちょっと待ってくれ。
ブランザ、何でお前此処に居るんだ?
そういう事じゃない。
お前、確かシルヴェスの看病をするって
名乗り出たじゃないか。と、言う事は……
急いで1階に戻るんだ。
奴の嗅覚はほんの微量でも、鼻に
行き渡ってしまう。特にシルヴェスは
今止血をしてる。このままだと彼を
攻撃し兼ねない……
当館のあちらこちらが
見るに堪えない姿になっていく。
逃げ惑う客に背骨を折る位の威力を誇る
タックルをかまし、ひたすら装飾品や壁に穴を
開けて、決してスピードも抑えずに
壊すだけ壊し、ヴァリングスの崩壊は
ヴェスターの思惑通りへと運び出す。
5階から4階、3階から2階へと物凄い
勢いで突進するリブマッドを追い掛けるハディーサ。
はぁ、はぁ……。
どんだけ走ってもスタミナ切れないのかよ。
タフ過ぎるだろ。
早く追い付いてみなよ! と
言わんばかりに挑発し、嫌味ったらしく
彼の目の前で尻尾を
左右にフリフリさせて、1階へと
再び走り始めて行く。
ハディーサ、立ってくれ!
猪の狙いはシルヴェス。彼を守るんだ!!
ヴァリングス、そして客として
入湯しに来たシルヴェスを守る為、毎日
ランニングして鍛えた足を酷使してまでも
責務を果たすべく、懸命になっている。
目の前にいたリブマッドを捕まえる事が出来ず
情けない姿を見せてしまったハディーサは
後から付いてきたエンディアの顔を
直視出来ずにいる。
すみません、エンディア様。
俺、捕まえる事が出来なかった。
目の前にいたのに、疲れの方が
押し寄せて……
そんなに自分を責めるな。
失敗は誰にだってある。俺だって
さっき捕らえられなかったんだ!
人を奮い立たせる言葉。彼の場合、自分のミスを振り返って
優しい言葉を掛けてあげる手法。決して
怒りはしない。相手の頑張りを必ず見てくれる。
そんな彼は、熱く燃え滾る魂を
持ち合わせてるタフな男。それが
カインドフォース、リーダーエンディア。
メンバーやシルドラからも尊敬されていて、
ずっと一緒にいたいと思える存在だ。
仲間である幸せを噛み締めて、ハディーサは再び
立ち上がり皆と一緒に1階へと急ぐ。
1階――。
竹椅子でシルヴェスの看病をしながら
身体を休ませてあげてるアロイス。
そんな彼が見つめているのは……
今にも襲いに来そうな1匹の猪。
俺だって守らなくちゃいけないものがある! と
握りしめていた拳を解き、両手を広げ
覚悟を決めた。
ダメだ、アロイス!
お願いだから逃げてくれ!!
このままだとお前も無事じゃ済まないぞ。
俺はゼルガスから
お前を守ってくれと頼まれたんだ。
尻尾撒いて逃げるなんて出来ない。
だから……
これ以上、お前には血を流させはしない!
来れるもんなら来てみろ!!
彼の決意、覚悟に牙を剥いたリブマッドは
標的を瞬時に変え、突進し始める――。
(最後まで守ってあげられなくて
済まないな。今まで楽しかったよ!)
次回、自分を犠牲にシルヴェスを守る
アロイスの無事はいかに。そして、
リブマッドとの対決に終止符を打つ。
そんな中、皆の前から
突如として居なくなってしまうエンディア。
彼は何処へ行ってしまったのか?
第036話、後編へ続く――。
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