第036話:しあわせの温泉宿を救え!ヴァリングス陣営vsリブマッド!!(後編)
文字数 7,242文字
前編のあらすじ。
ヴェスタ―がヴァリングスに放った
猪の姿をしたリブマッド。闇雲に捕まえようとしても
剛毛であり直接素手で触ると怪我を負う事が分かり
現状成す術が無い。
そんな中、微量の血液を自慢の鼻で嗅ぎ取り
1階で静養しているシルヴェスに襲い掛かろうと
自分の命に変えてでも彼を守ろうとするアロイス。
(最後まで守ってあげられなくて
済まないな。今まで楽しかったよ!)
エンディア、今だ!
身体がダメなら、顔しかない。
渾身のパンチを叩きのめしてやれ!!!
おう!!
アロイス、もう大丈夫だ。
後は任せてくれ!!!
お前にしては遅かったじゃん。
何だ? 撃退方法でも分かったのか?
ああ。賢い事が良く分かったからな。
だったら俺はそれを更に
上回れば良いだけの事だ!
だから、それは違うと何回言ってるんだ!
それが考えた対策なのか?
間違ってるぞ。
"ふん。獲物が増えても変わりはしない" と
想像しながらも、猪は鼻息を荒げて
徐々に彼等の元へと突進して来る。
何の対処無しだと思いきや、どんなに考えても
なかなか解答が見つからない。そういう時は
エンディア得意の肉弾戦に持ち込めば
リブマッドも一網打尽に出来ると
腕捲りをし、筋が見えている
上腕二頭筋、三頭筋がかなり
盛り上がっている腕を見せ付けた。
どうしたんだ?
そんな冴えない顔して。
鍛え上げられてないって言うのか?
いつの間にか、アロイス・シルヴィス2人の
標的補足を瞬時に止め、再びヴァリングス当館を
さっき以上に暴れ狂いながら
走り回っている。
その姿はまさに血に飢え、
尚且つ獲物を求め、彷徨っている肉食動物そのもの。
興奮は更に増し、被害もかなり甚大……
攻撃のチャンスを見逃さない為にも
従業員の皆は諦めてない。
絶対にこの宿を救ってみせると意気込み、持てる
知識を全部集結させる為、リブマッドの監視を
ハディーサに任し、今一度再会議をする事に。
何とかシルヴェスの一件は
免れた。
しかし、状況は変わってない……
一体、どうすれば沈静出来るんだ?
このままだと、本当に!
何言ってる、ブランザ!
お前らしくないぞ。俺はラグが
大好きな温泉をずっと守ってあげたいんだ。
お前もさっき一緒に見ただろ?
この有様を。アイツのせいで
ヴァリングスは崩壊を始めてる……
今から30分前の出来事。
ここは5階――。
シルドラの為に作ってあげた "シルドラの湯" が
リブマッドの猛襲により壊されていた。
恥ずかしそうな顔をしていたけど
心の中ではきっと喜んでいると
そう、思っていた。
工事していた時は
まだ彼等は旅の途中。
いつか此処を訪れて、旅の疲れを癒してくれると信じ
彼の笑顔を湯に込めて懸命に湯舟工事をしていた。
無言で銅像の顔部分に付着した足跡を綺麗に拭い
破片を感慨深げに拾い集めている。
そ、そんな……。
よ、よくも汗塗れになってまで
作り上げたシルドラの湯を!!!
何でこうなったんだろうな。
アイツに合わせる顔が無いよ……
俺の温泉愛はこんなモンだったのか!
くそっ。番台として情けねぇな……
だったらさ、また作れば良いんだよ。
すぐには直せないけど、復旧した暁には
シルドラと皆を呼ぼう。絶対に来てくれる!
大丈夫だ。
それと、俺も協力させてくれ!
こんな形でしか出来ないけどな……
そうか、そうだよな!
俺がこんな所で躓いちゃダメだ。
ミルフの両親が作り上げたヴァリングスを
守る役目がある。とことん
守り抜いてやるぜ。
何があってもここはヴァリングス。
番台としての責務がある。胸に秘めたる想いを
情熱に変え、再びブランザと湯舟の
復建を目指し拳と拳を交わす。
リブマッド退治に炎を灯し
心を燃やせと自分に言い聞かし、少しずつ進み始めて行く。
おい、作者!!!あのキャラが好き過ぎて
ついに本性現したな。成敗してやる。
****
シルドラの湯に引き続き、シルヴェスの一件があり
更に追い詰められるラグ。
襲撃を止めさせる為にも
誰一人欠けてはいけない。シルドラも
ヴェスタ―を改心させる為に孤軍奮闘している。
自分達も負けていられない。と
奮い立たせようとしているけど、目の前に立ちはだかる
強敵相手に悪戦苦闘していて、前に進む事が出来ずにいた。
どうした?
何か対処でも思い付いたのか?
さっきみたいな早まった考えなら
もう1回考え直して貰うけどな。
いやな。さっきハディーサから聞いたんだ。
猪は猛スピードでひたすら真っ直ぐ
突進する習性があるって。
それって本当か?
それは確かに本当だ。
猪突猛進って言う言葉がある位だからな。
あっ! そうか。もしかして急な判断が
アイツには出来ないのか?
いや。それは違う……
猪も他の動物と同様、危険が迫った際は
急停止して方向転換し、回避する生態を
持っていると聞いた覚えがあります。
だったらさ、この建物とホットソープから
追い出せば事は済むんじゃないのか?
そ、そうか。無理に館内で退治するより
効果的。くそっ! 何でそんな考えに
至らなかったんだ?
例えリブマッドをホットソープから
追い出したとしても、また戻って来る
可能性だってあるわ。エリア内の
生物侵入ボタンがシルドラ君の
手で押されない限りね……
やっぱり、そうだったんですねっ!
おーい、皆聞こえてる?
聞き慣れた声が館内アナウンスとして聴こえる。
そう、それは現在ヒートリンスにて
黒幕ヴェスターと決着を付ける為、
改心させているシルドラの声。
そ、その声は……
シルドラか!!!!
お前、大丈夫なのか?
こっちは大丈夫です。
少しずつですけど、ヴェスターさんも
心を取り戻していますよー!
ちっ。おい、お前等。
まだリブマッドなんかに苦戦してるのか?
シルドラにこっぴどく言われた。誰もが
幸せになれて、疲れを癒す場所を汚した
お前の心はどうなってるんだ? と……
ははは。答えられなかったさ。
オレはブランザを使ってまで、ブッ壊そうと
していたんだ。そんな奴に答える
資格などないだろ?
だから、ヴァリングス潰しはこれまでに
してやる。今生物侵入ボタンも解除した。
リブマッドを外に放してあげてくれ。
おう。ヴァリングスの一件は諦めてやる!
だけどな……
このホットソープのプロジェクトを
調べた時に気付いた事があった。
シルドラ……
何でお前の両親がこのプロジェクトメンバーに居るんだ!?
クルディーとプリメラ、親御の名前だろ。
し、知らないです……
僕、両親と長い間連絡とってないので。
とぼけるなよ!
ヴァリングス潰しはもうどうでもいい。
根本的な所の解決と行こうじゃないか。
聴こえなかったのか!?
早く通信を切れ!!!
屋上へ戻るぞ。
そう、これは彼を誘導させる為の
ヴェスターが前々から企てていた
計画の1部に過ぎなかった。
ヴァリングス潰しは彼が生物侵入ボタンが
解除された事により、いつでもリブマッドを
外に放つ事が可能となり、いよいよ退治編は佳境――。
しかし、思わぬ事態に。
あたいは見てなかったから
何処に行ったか知らないぞ。
あっ。そう言えば……
さっきヴァリングスの裏口は何処だ? って
聞いて来たから教えたけど。まさか……
1人で何かしに行ったのか……。
まだリブマッド退治終わってないのに。
くそっ。またアイツ……
独断で勝手な行動しやがって!
だったら、ここからは俺も手伝う。
エンディアが居ない今、力を発揮出来るのは
自分しか居ないんだ!
シルヴェス、お前まだ怪我が
回復してないんだ。ゆっくり休んでくれ。
イヤだ! 皆が頑張ってるのに
何も出来ないなんて……、悔し過ぎるだろ。
アロイス、彼の想いを
受け止めてやってくれないか?
俺達が徹底的にサポートする。どうだ?
分かりました。俺もシルヴェスを
無事にゼルガスさんの元へ引き渡したら
クロスウッドに帰るんで、それまでは
沢山面倒見ないといけないですね!
そうだったのか。
いつか別れが来ると思うと辛いよな。
その日が来るまでシルヴェスと沢山
仲を深めてくれ!
そして、ヴァリングスが復旧した際は
お前に招待状を送ってやる。
もちろん無料券付きだ!!!
こら!!!
また赤字覚悟になるから止めて下さいっ。
愉快な方達ですね。
もちろん招待状来たらその時は
クランチャードのメンバーと
一緒に行かせて貰います!
その為にはまず
リブマッドを退治する事から始めないとね。
さあ、皆呼吸を揃えてケリを
つけるわよ!!!
猪退治が終ってないこの状況と言うのに
エンディアが突如として居なくなってしまう。
一体彼は何処に……。
今この現状を打破し、
指揮を執れるのはシルヴェスただ1人。
しかし、怪我をしてしまい今行動に移したら
再び出血が再発するかもしれない。だけど彼も
ずっと黙っている訳にはいかない。
何にも出来ずに悔やんでいた彼を救ってくれたのは
ラグの一言。ヴァリングスの従業員が今一丸となって
リブマッド退治最終章の幕が開ける――。
5階――。
ラグがリブマッドを呼び寄せる為に
仕掛けた特徴的な匂いを放つ観葉植物に誘われていた。
ふん。見事に引っ掛かってくれたな。
第1作戦完了だ! よし
付いて来いよ!!!
彼の背中には
柑橘系の匂いを放つ "ブレイドミング" と言った
本来だったらヴァリングスの装飾花として
用意していた植物を強化用の紐で繋ぎ
リュックのように背負い、それを
各階でスタンバイしている人に
襷代わりとしてリレーしていく事に。
トップランナーはラグ。
4階で待つアロイスの元へと走り始める。
ほらほら付いて来いよ!!
俺はこう見えて足めっちゃ速いんだ。
舐めて貰っちゃ困るな。
よし、アロイスが見えて来た。
おうい。ここから先は頼んだぞ。
3階で待つブランザに絶対渡してくれよ!
まさか俺が走る事になるとはな。
あまり髪を乱したくないんだけど、
リブマッドを退治する為なら仕方ない。
よし。ヴァリングスの未来へ繋ぐ
走りを見せてやるか。
2番目のランナー、アロイス。
今、ラグから
襷を受け取り
3階へ待つブランザの所へ――。
走りが速い人なら次の人に辿り着くまで約45秒。
彼の場合、ちょっと特殊。ダイナミックな
アクションを取り入れた走りを見せる。
(ここはホットスライダー……。
これを使う手は無いな。服濡れるけど
今はそんな事を言ってられない!)
(よし、今!!!
コースに飛び移って
向こう側へショートカットだ。)
恐れも知らずに
5階から下の階に繋がるホットスライダーの
終着コースを伝って、ちょうど向こう側の螺旋階段に
繋がる付近を狙って飛び移る。
某アニメ劇場版で魅せる
見事なアクションのようなスタントを見せた
彼の行動を見て驚きを隠せずにいる
ミルフ達や従業員一同。
お、お前凄いじゃないか!!!
こんなホットスライダーの
使い方があるとは。
な、何ぃ!!!
アロイスがこんなアクションを見せるとは。
ここまでやるとはな。
服がずぶ濡れになっても動じない。くっ……
アロイスの凄まじい判断力により
大胆なショートカットを成功し、リブマッドが
徐々に下の階、下の階へと向かっているのを確認。
猪のスピードとブランザの元に辿り着く時間を
逆算し、頃合いを見て彼に襷を繋ぐ。
後は頼みましたよ、ブランザさん。
一緒にヴァリングスを猪の魔の手から
守りましょう。
おう、任せろ。
レブロンと一緒に走った
俺の走りを見せてやるぜ。
3番目のランナー、ブランザ。
基本は和装をする事が好きな彼は
滅多な事が無い限り走らない。
かつてはレブロンやグランザとトレーニングの
一環として一緒に走っていた事がある。
こう見えて、彼の大腿四頭筋は立派なモノで
このホットソープで働く以前も脚力を使った
仕事をしていた為、相当鍛えられている様子。
今は此処を守る為、
必死に2階でスタンバイしている
ハディーサへと繋ぐ。
くそっ。俺が築いてきたヴァリングスを
これ以上リブマッドに壊されてたまるか!
フルスピードだ!!!
や、やばい!
少しずつリブマッドが速度を上げてる。
このままだとブランザ目掛けて
突進される恐れが……
追い付かれる……
仕方ねぇ。おい、リブマッド。
付いて来い!!!!
螺旋階段から左に繋がる廊下へと入り込み、
別のルートから2階にいる彼の元へ
向かおうとリブマッドを誘い込む。
一旦、急停止した猪は今にも襲い掛かって
行きそうな勢いでブランザが担いでる襷を
狙ってるに違いない。
一気に階段を駆け下り、近くにある襖が開いていた
部屋を物凄い速度で通り、少し間が開いた
状態をキープし、なんとか大量の汗を
流しながら辿り着く。
ようやく俺の番か。
ちょっと足の方は期待出来るかは
分からないけど、ちょうど
此処にはミルフが居る。
おう。脚力には自信がある。
あたいも一緒に走るから、
疲れたら言ってくれ。
済まんな。よし、
襷は貰った。
行くぞ!!!
4番目のランカー、ハディーサ。
サポートするのはミルフ。
彼等と比べたら、少し走りに自信が無く
徒競走をやらせてもビリから2番目。
追い付かれないか心配だけど、彼も当館を
守り抜きたい気持ちは一緒。
やらないより、やった方が人一倍輝ける。と
自分の言い聞かせ、1階で軽く準備運動をしている
シルヴェスに最後の襷を渡す為走り続ける。
ただ、螺旋階段を半周した所で……
その時、5階からテンポ良かった流れが
崩れ始める。リブマッドは彼等を追い越してしまい
視界から標的が無くなった事で、また1階にいる
シルヴェスを目掛けて突進するに違いない。
くそっ!!!
逃げられた。此処から先はお願い出来るか?
今までの皆の努力が無駄になってしまう。
ハディーサ。よく頑張ったな!
エンディアも何処かでお前の努力を
見ている筈だ。ここから先はあたいの出番。
鍛え上げられている足が
鬼畜なんだろ?
例えが凄いな。
だったら見とけよ!
あたいの足がアイツに追い付く所をな。
荒い息を立てて疲れ果てた
ハディーサから襷が渡されて
相当自身しかないミルフの脚力で、リブマッドの
走り込みを上回り、もうすぐで1階に到着する。
相当な速度で走っても
全く疲れを見せない底力を皆に見せ付け、
頼られる存在と再確認された瞬間だった。
よしっ。追い抜いた。
後はこれをアンカーに託して
あたいの出番は終了だぜ。
おい、シルヴェス。
ヴァリングスから出たら庭を通って
担いでる奴を壁の外へ放り投げるんだ。
リブマッドならそれを目掛けて壁を
突き破ってくれるからな。
アンカー、シルヴェス。
これがラストの襷渡し。
ヴァリングスでのリブマッド退治。
いよいよクライマックス。5階から繋いで来た
彼等の想いが彼に託される事に。
ヴァリングス、ここはしあわせの温泉宿――。
各フロアに様々な湯舟があり
四季折々の草木と共に入湯が味わえる
心揺さぶる温泉宿。猪リブマッドの襲撃により
当館はほぼ壊滅状態。しかしそんな
心優しい場所を壊されたくない一心で
従業員総出で頑張って来た。
そして今、決着が付く。
皆が徐々に庭に集まり、
事の終幕を見届けようと
彼が投げた襷を辿って
リブマッドが壁を突き破る所を目撃。
何分しても戻って来ない様子からして……
存続を賭けたヴァリングスの猪退治は
勝利し無事にやり遂げた。ミルフは
感極まって、シルヴェスとハイタッチし
皆で歓喜を分かち合っている。
よっしゃ!!!!
リブマッド退治、成功だ。
それもこれも皆が頑張ってくれたお陰。
こんなに清々しい事は無いぜ。
皆、良く働いてくれたね。
これで御客達も安心してくれるわ。
シルヴェスもやれる範囲で
皆の力に貢献してくれた。よくやったな!
うんっ。さて、皆で
ヴァリングスに戻ろう!!!
これからが大変なんだろ?
そうだな。さてと次の客が来るまで
急ピッチで片付けるぞ。
ヴァリングスに笑顔が戻って来た――。
これは皆の努力が紡いだ結果。
さあ、次はヒートリンスでヴェスターを
改心させているシルドラの出番。
この調子でホットソープが照らす一筋の光を導き出せ。
ん? そんな時、
どうやら当館に新たな
お客が来たようだ。そのお客とは……
お、新しい客か。
済まんな。ちょっと一騒動後なんだ。
ちょっと片付けてるから
また後にしてくれないか?
【?????】
いや、私にも手伝わせて下さい。
エンディアさんに呼ばれてきたんです……
お、手伝ってくれるのか?
1人でも多い方が助かるぜ。
次回、いよいよ核心に迫る
ホットソープ誕生に纏わる過去話。
そして何故この一大プロジェクトに
シルドラの両親が関わっているのか。
リブマッド退治編、終幕。
いよいよホットソープ編は佳境へ。
第037話へ続く。
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