第072話:フェルマータ城編後半戦スタート!爆破が迫るティブルエイド各地!!
文字数 5,413文字
ブラウン達が小部屋で
地下へ行ける階段を探している最中。
これは、今から30分前の出来事である。
監禁部屋。
建物の構造上、周りは
石煉瓦で出来ていて遥か上の方に小窓がある。
しかしただの装飾品のようで
開閉すら出来ない硬い鉱石から作り上げられている。
要するに
目の前にある扉を誰かが開けるか
ぶち壊さない限り、脱出は不可能。
今此処にいるのはゼルガスと、レブロンに
殴られてしまい気絶してしまったグラッツの2人だけ。
無理に起きようとするな。
俺で良ければ治療してあげたい所だが……
クソッ。薬も救急箱も無ぇから
お前の手当ても出来ない。
少し安静にしていたせいか
グラッツはなんとか自力で意識を取り戻し
石壁に背中を押し付けながら、深い息を吐きつつも
身体を起き上がらせ、態勢を
少しずつ整えていく。
俺の事は気にするな。
此処を脱出する事だけを考え……
ゼルガスはお世話になっていた
グラッツを助けたい一心で、彼が身に付けていた
灰色に近い洋服を捲り、レブロンに
殴られた箇所を確認しようとすると……
グラッツ、お前
腹部に殴打時の痣が付いてるだけで後は
何とも無いぞ。他に痛い箇所は無いのか?
ああ、大丈夫だ。
多分、レブロンが一撃の軌道を
アレドシア様の隙を付いて逸らしてくれた。
きっと、俺を殴りつけた際に
シルドラが脳裏にふと過ぎったんだ。
まだ善の心が残っているに違いない!!!
じゃないと、俺は
こうやって立ち上がる事も無く
この部屋で人生を終えてたんだ!!!!
そうか!!!だったら、こんな場所さっさと脱出して
レブロンに一喝を入れないと
気が済まないな!!!
その時、少し離れた場所から
ズシンズシンと地響きを鳴り付けながらも
誰かが階段を下りて、いや、どちらかと言えば
転がって行く独特な物音が聞こえて来た。
うわぁぁぁぁぁぁ。と
ブラウンが目を回しながらも
地下へと転がって行くと、1つは海食洞穴に繋がる通路。
もう1つは今彼等が捕虜されている監禁部屋に
繋がる階段へ行ける通路。
加速度を付けるとそのまま真っ直ぐ向かいそうだけど
偶然にも敷き詰められていた石煉瓦が
衝撃で取れてしまい、彼の全体重が
その小部屋へと繋がる通路に
進行方向を転換し、そのまま緩まずに転がり続け
見事にほぼ半壊状態の扉に超激突――。
目を回しながらも
蝶番が錆びていた小部屋の扉は
ブラウンの丸みを帯びたコロコロボディにより
完膚なきまでに壊された。
(まさか、彼の体重1つで
この扉が壊されるなんて凄いな。)
そして、反対方向を見てくれ。
彼こそがヴァールブルグ海賊団の船長
色黒でダンディズム溢れる心優しき
海の中の漢、ゼルガスだ。
おうよ!!!とりあえず扉をぶっ壊してくれた事に
感謝するぜ。これで心置きなくこんな物騒な
場所から脱出出来るからな。
前回のあらすじ。
フェルマータ城、
2階の食堂に仕掛けられた
爆破のスイッチがアレドシアに押されてしまい
1階の玄関の間に居た城内潜入組は何とか
崩落して来た瓦礫の魔の手から
難なく逃れる事に成功。
シルドラは
レブロンの後を追いかける為に2階へ。
ミルフ達は地下の何処かにあるゼルガスの
監禁部屋を探す為に、右手にある小部屋に入ると
シルヴェスが不意に足で絡繰りの鍵を
押してしまい、そのまま必死になっていた
ブラウンが猿のように飛び付いた蔦が
千切れてそのまま地下へ転がって行き、二手に分かれる踊り場で
遂にシルヴェスはゼルガスと再会を果たした。
****
監禁部屋に行ける通路から
少し離れ、此処は海食洞穴に繋がる岩肌通路。
心強い味方、
元フランバージュのメンバーである
グラッツからとんでもない事が知らされようとしていた。
何言ってんのよ。
外は外だけど、日差しが差し込まない
薄暗い只の洞窟じゃない。
そんな細かい事は別に良いじゃねぇか!!!
なっ、ブラウン!?
後は、えっと……
ゼルガスさんと船員の皆を
どのように外へ出してあげるか、だけど。
ん? 1階に玄関の間があるだろ。
そこから正門まで出れば外へ出れるぞ。
グラッツさん、それが
さっきアレドシアが2階を爆破した際に
瓦礫が崩落して、出入口が
塞がってしまったんだ。
数分前、上の階から物凄い
轟音が聞こえたのはそう言う事だったのか。
どうせ、城内に侵入した
あたい等の始末も兼ねた筋書なんだろ。
くっ。全て無かった事にするつもりなのか?
冗談じゃねぇぞ!!!
それに奴は
狼族の里跡地シノヴァルドを含め
ティブルエイドの大半を占める
ヴァンウッドの森を見境無しに……
この事態だけは絶対に避ける事が出来ない。
緑の豊かな大陸
ティブルエイドの西端から東端まで続く大きな森
ヴァンウッドを寸断するかのように
爆破活動を執行しようとしている。
狼族の長ヴァルは
少しずつ死に近付いている。
しかし、公開処刑したのは言えども
自分が企てた計画を少しでも覆してくれたシルドラを
必要以上に憎み、絆と言った紛い物で繋がった
繋がりを断つ為にとことん悪事を謀って来る。
支持する者は
大画面のモニターの向こう側に居るかもしれないと
アレドシアは今1度、住民達に
呼び掛け始めようとしていた。
****
港町ビューウェーブ、噴水広場。
皆、聞いてくれ。
どうやらさっきの轟音は
町役場の横の民家が爆破されたようだ。
何人もの通行人が
その光景を目の当たりにした。
それに確か、子供含め5名の男女も
巻き添えを喰らったと聞いた。
…………。
ハハハ。流石に爆破は不味いと思うな。
一歩間違えたら人の命が無くなってたんだ。
お、お前は……
噂に聞く牢獄島の獄長!!!
名はブレイアだ。
アジールの命を受け、アレドシアの
捕虜を執行する為にティブルエイドへと
来訪させて貰った。
それも良かったんだけどな。
この一件を上層部に伝える為に
ライザ海上情報機関に勤めるライアンが
色々と動き回っている。
ブレイアの言う通り
アレドシアが企んだこの策略の裏側に
何か大きな影が暗躍している事が判明した。
じゃあ、君に質問だ。
この大型モニターの向こう側には
彼とフェルマータ城が映り込んでいる。
だとしたら、その接続機械が繋がっている
代物を操縦しているのは誰だと思う?
そ、そうか。
裏の有権者と言えども
全て自分の力で成しえるのは至難の業か。
その時、消火と
瓦礫の撤去作業を行っていた
現場指揮官がアジールの元に、爆破物の更なる詳細を
報告しに噴水広場へと足早にやって来た。
アジールさん、
鑑識班からのご報告です。
先程の爆発物から空大陸の炭鉱郡で
採取出来るタルタナ鉱石の主成分が
微量ですけど含まれている事が
確認取れました。
間違いありません。
通行人が爆破の瞬間を目撃した際の証言と
班長からの供述が全て一致しています。
おい、ライアン。
急いでラスター大佐に報告するんだ。
今から1か月前
空大陸の重要施設から大量の爆弾が
何者かの手によって盗難に遭った事案が
俺達の元に届いてな。
現在、この世界に
存在する全ての機関が死に物狂いで
その行方を追っているみたいだ。
多分そいつが
アレドシアにその爆発物を渡した張本人。
影の協力者、と言う所かな。
ブレイア、今は
彼の連行を最優先すべきだ。
話す口と聞く耳があれば多少の傷を
負ってでも構わない。出来るよな!?
そう、これは
本筋で触れる事になる1つの爆弾騒動事件。
そこに丁度、アレドシアの計画と重なっただけかもしれない。
ただ、1つだけ言わせて下さい。
この事態は少しずつ大きくなり
後にとある場所で起きる“壮大な出来事” の序章に過ぎなかった。
いずれ来るその時まで――。
****
此処は道中。
フルージュクッキーを
手籠配達する為、エバスの護衛と共に
周辺の様子を伺いながらも
ホットソープに向かっているのは
喫茶店ヴァーズメルトを経営しているシルリアとプラム。
少し足早になってしまったので
この辺りで一旦休憩を挟みましょうか?
うんっ。エバスさんこそ
疲れたら足を休めて良いんだよー。
いや、私はラグさんから
君達のガイドを任されている身ですので
この程度で疲労困憊してたら
護衛している意味が無くなります。
その様子なら
後15分程度で到着しそうですね。
私も若い子には負けませんよ。
何か今そこの草むら、誰か横切ったよね?
小動物さんなら良いんだけど……。
おい。何者かは
知らないけど、女性御二方に
危害を加える行為を執るようなら
私も時と場合によっては黙ってないぞ。
その時、3人が
耳にしたのは馴染みのある方の声のようで――
あら。ブランザさんじゃないですか。
こんな所で奇遇ですね。
今から5分前の事だ。
ヴァンウッドとシノヴァシアの境にある
フェイスウォールが爆破されてしまってな。
その際に生じた火の粉が
木々達に燃え移っているせいか
異常な速さで被害が拡大しているんだ。
ラグには
俺から説明するから
プラムとシルリアはヴァーズメルトに
戻った方が良い。此処から先は危険なんだ。
えっ、でも……
せっかくお姉ちゃんが焼いた
クッキーを皆に食べて貰いたかったのに……
でも、私達には
エバスさんやブランザさんの御二方が
居ます。心配で見に来てくれたんですよね?
ん、ライガーの事かしら?
アイツはどちらかと言えば熱烈よ。
やっぱりな。大体は
予想してたけどレブロンと同じタイプか。
あ、あの……
此処での長居は不味いかと。何時
火の手が回ってくるか分からないですし。
よ、よし!!
此処からは俺が先導してやる。
付いてきてくれ!!!
****
場所は変わり、フェルマータ城。
回廊からアレドシアが目視しているのは
オレンジ色の夕焼け、いや、燃え盛るヴァンウッドの火の海。
もうすぐ自分が企てた全ての計画が
終わると思い、感慨深くなっていた。
その瞬間、ふと頭によぎったのは
アレドシアが忍者の里 "シノヴァシア" を襲撃した際に
亡き者にした当時、長だった――
や、やめろ!!!
人間と狼族は仲良くなんてなれないんだ。
現に私の両親は奴等の奇襲に遭い
命を落とした……。
それなのにも関わらず
アジールは人種共存を望んでいるんだぞ。
憎き者は排除。
この2文字だけを意地でも執行する為
下準備から今日までの段取りを
綿密に隙無く考えた。
只、シルドラだけは論外だ。
誰しもが絆で繋がれると思っている奴が
この世の中に居たとはな。人間なんて
何処か陰があれば不要に扱われる。
私と彼は対と成す存在だ。
だったら、見せ付けてやるよ!!!
この私を怒らせた事をな。
ピッ(ポケットに入った爆弾を起動する音)
とある場所に
仕掛けた爆弾が作動。
タイマーに表示された残り時間は……
"30:00:00"
アレドシアの心の秒針が止まったまま
遂にフェルマータ城編、佳境へと物語が動き出す。
次回、前後編。
3カ所目の爆破が幕を開け
その時生じた爆風の影響で
屋外で作業していた人達の元に瓦礫が落下。
その者達の生死は如何に――。
第073話(前編)へ続く。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)