第068話:フェルマータ城到着!失意が紡ぐシルドラとレブロンとの再会!!
文字数 5,771文字
だったら、
皆の元に帰りましょうよ!!!
ほら、ボクの手を握って下さい!!!
ブラウンは彼の笑顔を知っている。
笑った時に見せる優しい表情をも知っている。
何とか振り向かせようと説得を続けるけど
自分の笑みを損と謳うレブロンには
後1歩届かず、何度もその話を聞かされるのに
酷と判断し、不意に拳をバン!と彼の腹部
目掛けて殴ってしまった。
アレドシアが
企てた
第2幕の喧嘩もいよいよ佳境。
違った意味で苦しんでいる2人はどうなってしまうのか?
いよいよシルドラと最悪な再会を果たす
時間が迫ろうとしていた――。
****
シノヴァシア。
正門前で執り行われている、
見るに堪えないやり取りの映像を
見せられている事に対し、此処にいる者全員
心を苦しめられていた。口から血を流すブラウンに
精神力が削られているレブロン。両者とも仲間同士。
シルドラと同じく深い絆で繋がっている。
今にも苦しそうな表情で
情けない姿が晒されてしまった。
ま、マツカゼさん!
ブラウンの口から微量ですけど
出血が生じています!!!
そのようですね。
現在両者とも微妙な関係です。
口論は免れないと思いましたけど……
くそっ!!シルドラとの絆を引き千切る為に
仲間にも手を出すなんて、なんて奴だ!!
そんな訳が無いだろう!!
俺の目はアレドシアしか見てないぞ!!!
奴の手中にあっても
自分らしく進めば良いじゃねぇか。
他人が勝手に答えを出すんじゃねぇよ。
ああ。これは
レブロンの心の問題だ。
拙者達が話の腰を折ってまで追求する
必要は無い筈なのに、かつての仲間も
切り捨てるように悪用する
とんでもない輩だな。
ま、マツカゼさん。
ちょっとフェルマータ城に行って来ます。
このままじゃ不味いだろ!?まずは2人を解放して、後は僕が
アレドシアと共に海の藻屑になるしかない。
おいおいおい!!
自分で蒔いた種を片付けに行くのか!?
他にどんな方法があるって言うんだよ!!
シルドラ達も何時到着するか
分からないのに!!!
其方の気持ちは多いに分かる。
今までの罪滅ぼしを遂げたい想いも
拙者には理解できる。
只な、もう少しの辛抱だ。
もうこれ以上ブロスには被害に遭って
欲しくない。ようやく居場所を見つけたと
申していたじゃないか。
俺も反対だからね!!!
絶対に孤独になんかさせないんだから!!!
勿論じゃないですか。
もう1人は懲り懲りなんで……
ふ、ふう。
何とかブロスさんを引き止める事は
出来ました。だけど御二方の喧嘩は
未だ終息していない……。
今から申す事は
シノヴァシアが襲撃された際の全貌だ。
これは全て――
現状に繋がる過去への入り口。
此処にいる者達が
全員この一悶着を経験した過去がある。
その中でも "とある1つの真実" だけは
当時の長ギンジとマツカゼ、2人だけの秘密とされ続けて来た。
あの日は北風が強く、
夏とは真逆の季節、冬の夜。
何処の屋敷からも美味しいご飯の匂いが漂い
囲炉裏で暖を取りながら、狼族の
長であるヴァルが均衡の手約束と題し
ブルーノ宅に宿泊しに来る際に起きた出来事――。
アレドシアの計画第3幕にて
いよいよティブルエイドの大陸に隠した
全ての伏線が明らかに。
****
フェルマータ城、テラス。
映像には映し出されていないけど
2人の喧嘩の行く末を監視しているアレドシア。
想いを吐き捨てた所で
今のレブロンには全く届かない。
やっと私への役目を果たしてくれたからな。
こうやって生中継してるのも
かつてのシルドラの仲間が音を立てて
くだらない絆が崩れ去る光景を
有権者である私に歯向かった罰として
見せ付けただけの事だ。
おい、レブロン!
手が止まってるぞ!!!
ブラウンをとことん痛め付けてやれ。
大丈夫だ。
大抵の人間は腹部を殴打すると
血液を吐かざるを得ない。それに未だ
スチュキートに刺された後遺症が
残ってる筈だ。痛みはそう簡単に
取れはしないからな。
ふん。
流石にそれは可哀想だ。
歯が取れる位の痛恨の一撃を入れろ。
そんな感情はさっさと捨てろ。
一矢報いたいが為に私の元に戻って来た。
れ、レブロンさん……ぼ、ボクは絶対に手を出しません。
う”っ。あ、アレドシアさんなんかに
負けないで下さい……
ほら。ブラウンは
手を出さないって言ってるんだ。
今が叩きのめす機会だろ。
喧嘩の裏側で計画の
首謀者アレドシアと会話している光景も全て筒抜け。
只、ブラウンだけは
この1件を通して傷付けられても
彼の心の中に眠る善の姿を信じたい。と
一切手を出さない事を誓い、逃げずに
死を覚悟してでも2人に立ち向かう。
レブロンの本当の笑顔を必ず見るまでは――。
****
此処はヴァーズメルト上空。
ランバードが
操縦する飛行機の座席から飛び降り
地面が避ける程の力強い着地を果たしたのは
此処の喫茶店を営んでいるプラムとシルリアの
兄であるライガー。
この行為は彼からしたら鉄板行為。
久しぶりに再会を果たせると店先を見てみると、そこには――
臨時休業営業時間10:00~20:00
都合により臨時休業する場合があります。
残念だったな。
もしかしたら何処かに
配達に行ってるんじゃないのか?
遅かったな。
俺が着地してから5分以上は経ってるぞ。
す、済まない。
ティブルエイドは地盤の関係上
飛行機を着陸させる場所が
2か所だけしかなくてな。
1つは先程立ち寄った
空の玄関先であるエアロブルー飛行場。
もう1つは
冒険者、観光客を口を揃える程の
人気を誇るクリアリッチパーク。
その有名振りは空大陸にも届いている。
お前のような肉体派が好む場所だ。
その公園に着陸させて貰った。
そうか。そんな事より
プラムとシルリアの方が心配だ。
合鍵とか無いのかな?
何だ。黙って
家の中に入るのは不法侵入だぞ。
もし2人が何処かに鍵を隠していても
意地でもお前を止めるさ。
でも、お前の姉妹が作った
バージュベリーケーキは食べてみたい。
あのルアンジュにも取り上げられた
今流行りのスイーツ10選に
選ばれていたからな。
おお、マジか!!!
ルアンジュってスイーツ業界では
有名な雑誌だろ。パティシェなら誰でも
夢見る1面を手にしたんだ。
さてと、どうする?
此処で2人の帰りを待つか、それとも――
何言ってるんだ!!!待つのが嫌いな事知ってる癖によ。
よし。そうとなったら
クリアリッチパークへ戻るぞ。
俺に付いて来てくれ。
臨時休業中、の文字に
何処かへ配達しに出掛けていると直ぐに推測。
※ 本来はティブルエイドの文字で表記されております。
やはり肉体派は何処か
強引の2文字が合っているようで
ジッとするのも嫌い、目前に姉妹がいるかと
低空飛行し出すと後部座席から飛び降りると
言った大胆過ぎる行動が好き過ぎる。
そんな2人にも
不敵な笑みを零しながらも計画実行中の
アレドシアの魔の手が迫ろうとしていた……。
そう、場所は配達先であるホットソープ。
****
ヴァンウッドの森、後半地。
少しずつ霧が晴れて来て
周辺の様子と不確かだった道が目視出来るように。
急ぎ足でこの森を抜け、フェルマータ城に
向かっているのはもちろん――
は、はい。
さっきからこの上空の方で
物凄い機械音と誰かの話し声が……
えっ、そうなのか?
あたいには風の音と鳥の囀りしか
聞こえて来なかったけどな。
ああ。時間的にも
アレドシアが計画を進めてる筈だしな。
それと並行するようにブラウンも
突如として迷子になった。
えっ、えっと……
この一本道を進めば到着するんですよね?
ああ。一本道の幅が
少しずつ大きくなって来ている。
森の出口が近い証拠だ。お前等行くぞ!!
シルドラとシルヴェスの2人が
ヴァンウッドの森、出口付近で
偶然にも耳にしたのは、
アレドシアが執行中の計画の全貌を
一部始終映し出すモニターが固定されている
機械が数台のカメラと共に上空を通過する音。
家を留守にしていて
外出中の御方にも自分の存在意義を正すと共に
ヴァルの処刑、ブラウンとの喧嘩、後にこの地を揺るがす
とんでもない事態を共に見届ける為に
全て彼が用意した物。
周囲がどのような状況になってるかも知らずに
レブロンとの再会とも……
残り10分を切ろうとしていた――。
****
場所は戻り、フェルマータ城正門前。
場面は切り替われど
アレドシアの悪魔な囁きに導かれ
レブロンがブラウンの腹部に拳を入れたのは確か。
逃げたくない、その想いから
一方的に彼の攻撃を喰らい続けているせいで
地面に先程の倍以上の血液が零れていた。
喧嘩は手を出したらおしまい。
平和的に解決させるシルドラの手法を真似たけど
結果的には更に悪化。
使いたくなかったと自問自答しながらも
彼を意地でも止める為、遂に誠拳道の技を
レブロンの腹部目掛けて繰り出し
同じ状況に陥ってしまっていた。
くっ。これが噂の
誠拳道か。
立派じゃねぇか!!!
だがな、俺はまだくたばってないぞ!!
その拳をもっと浴びせてくれ。
レブロンさんも
ボクみたいに血を流してるじゃないですか。
もうおあいこです。終わりにしましょう。
はぁ、はぁ……。
な、何を言ってる!!拭いさえすればまだ戦えるだろ!!!
その場で
口から滲ませていた血液を手で拭う。
しかし、息が荒い事だけは隠せない。
両者ともダメージだけが襲い
後1撃でも喰らったら戦闘不能となる。
レブロンの笑顔を見るまでは、と
意気込んでいたブラウンは少しずつ前の景色が
霞み出しながらも意識が朦朧として来てしまい
直立不動するのも儘ならない。
今、彼の身体は
ゆっくりと地面と倒れ込んでしまう……。
それでも、
何とか本当の自分の姿を
取り戻して欲しいと力を振り絞って小声で語り出す。
お、お願いです。レブロンさん、笑って下さい……。
このまま笑顔を見られないまま、ボクは。
ふん。戦闘不能になったか。
彼はもう用済みのようだ。崖から落とせ。
オイ!!!
何で攻撃しないんだ!?
笑顔が出来ない俺は只の無能な人間だ。
結局シルドラにも朗報を伝えられずに
今に至ってるんだぞ!!!
アレドシアさんの為、ですよね。分かってるんです。誰も見捨てる事が出来ない。
ボクはレブロンさんの味方です。
本音を聞かせてくれませんか?
人間には出来ない事も少なからずあります。
完璧なんて存在しません。ですので
そんなに自分を、はぁ、はぁ……
責めないで下さい。
何でそこまでシルドラ君に朗報を届けたい事に拘るんですか?
人には短所があるんです。出来ない事があれば
皆にもっと頼っても、良いと……
フェルマータ城の
テラスから見えた光景とは
ヴァンウッドの森から無事に抜け出せたシルドラ達。
もう此処まで
来れば、後は坂道を上るだけ。
茶屋「甘蜜」で休憩したり、濃霧に阻まれたりして
出遅れたと思い、駆け足、駆け足と
荒い息を吐きながら向かっている
光景を目にする――。
あっ、見て下さい!!
レブロンさんが正門前で待っていますよ。
もしかしたら
アレドシアさんとの
交渉に成功したのかもしれませんね。
そのようだな!!
じゃあ、シルドラお得意の
最高の笑顔でお出迎えしてやろうぜ。
おーい、レブロンさんーーー!!!
お久し振りです……
どれだけレブロンと
これ程までに再会したかったか。
ホットソープ到着前の
分かれ道にて一時的な別れを告げるも
何時か必ず、また一緒に馬鹿やって笑ったりと
いつも通り、と思える日常を
また過ごしたい。
フランバージュの用心棒としての
務めを終えて、皆で港町ビューウェーブで
戻ろうと約束もした。只、そんな事も束の間……
ど、どうしたんですか?
レブロンさん、表情が厳しいですよ……。
正門の柱と
周辺の外壁に見えないように
隠してあったブラウンの身体を掴み
シルドラ達の目の前に見せしめのように投げる。
ぶ、ブラウン君!!!
だ、大丈夫なんですか!?
道着にたっぷり血が付着してるんですけど。
感動の再会、とは言えない
今まで味わった事が無い最悪の再会を果たしてしまった。
次回、回避し切れない
緊急事態が港町ビューウェーブを襲う。
アレドシアの計画第2幕最終話前後編。
そして遂に、ティブルエイド近海に牢獄島が到着。
獄長ブレイアが始動――。
第069話(前編)へ続く。
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