『Solaris~ソラリス』

文字数 1,168文字

『Solaris~ソラリス』スタニスワフ・レム/沼野充義訳
SFどころか小説もあんまり読まないのがなぜか自慢の友達が「ソラリスってどんなお話? おもしろい?」なんて聞いて来たもので、「なぜに興味をもったの?」と理由を聞いてみたら、NHKのテレビで紹介されていたのをラジオで伊集院光が紹介していたのだそう。たんにまた聞きならぬ紹介の紹介をさらに聞いただけだったわけですが、レムがソラリスで描いている物語の多重構造が現実に現れたかのようで、ちょっとおもしろくなり、あらためて新訳版を読んでみたわけですよ。(遠回りなうえに回りくどい説明w)

さて、この沼野充義さんの新訳は、ポーランド語の原作から直接和訳されたもの。(写真は国書刊行会版)
昔ハヤカワから出ていた『ソラリスの陽のもとに』(故:飯田規和訳)は、当時のソ連の検閲を受け、いろいろ削除されて出版されたロシア語版から訳されたものだったそう。
むかーし読んだ遠い記憶の内容と新訳はおおむね一緒でしたが、知らない部分もだいぶ入っていました。ラストがちょっと違うのと、途中のやたらとくどい考察部分が増えているかんじ。この部分があるかないかでダイブ印象がかわりますね。新訳には特に哲学やハードSFっぽいニュアンスが増えているかんじです。

めっちゃ大雑把に書いてしまうと、お話は、思考する「海」で覆われた惑星ソラリス=まったく異質な知性とのコンタクトのお話。
なのですが、その表層の下に、コンタクトする側の人間の意識や知性ってそもそもなんだろう的な深い洞察や、人の忘れがたい過去の記憶との対峙、サスペンス、SFホラー的な層、そしてラブロマンス的な層などが幾重にも重なっている深い深いお話だったりします。

今回読んだ新訳では、科学や哲学を科学する(?)パロディ科学のメタっぽいSFの層なども読み取れて、これまた未知な深い海を探査しているような不思議な感覚を味わえました。

訳者の沼野充義さんが解説で語っているとおり、そのどの層もバラバラなわけでなく混ざりあい渾然一体となっていて、あらゆる読み方ができてしまう不思議な小説です。


旧訳の『ソラリスの陽のもとに』は同名の映画同様、どっちかというとラブロマンスのほうに重点を置いて訳されていたようですね。

そういう(映画的な)ニュアンスは、著者のスタニスワフ・レムさん的にはイマイチ嬉しくなかったようで、本書(新訳)のあとがき・解説でもすこしボヤいていました。

けれどもまあ、どういう読み方もできてしまうのもこの小説のすごいところですから、痛しかゆしといったところでしょうか。


なお、新訳版もハヤカワから文庫で『ソラリス』として改題されて出版されています。(原題もそっけなく”Solaris”なので、それに合わせたのだそうです)


Original post:2018/01/22

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登場人物紹介

神楽坂らせん

読書の合間に本を読み、たまにご飯してお茶して、気が付けば寝ている人です。一度おやすみしてしまうと、たいていお昼ぐらいまで起きてきません。

愛読書は『バーナード嬢曰く。』

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