『Xプライズ 宇宙に挑む男たち』

文字数 1,352文字

『Xプライズ 宇宙に挑む男たち』

 ジュリアン・ガスリー (著),‎ 門脇 弘典 (翻訳)

事実は小説よりも奇なり。っていうけれど、現実のほうがへたな小説よりめっちゃ熱いのですね。
本気で宇宙に行こうとした男たちのリアルなドラマがここにあります!

実際に今も続いている宇宙への挑戦の、そのとても大きな一歩目の詳細な記録です。

これまで、宇宙へ行くのは当然のごとく、大きな「国」という力が必要でした。NASAはもちろん、ロシアの宇宙ロケットも米ソの宇宙開発競争があってこそ。個人の力で宇宙へいくのなんて夢のまた夢。
でも、その夢に挑戦して、政府の力をつかわず、民間の力だけで宇宙のとば口へ、高度100kmを越え、人間を乗せたロケットを飛ばすこと。「夢のまた夢」から、たんなる「夢」へ、さらには実現可能なチャレンジとして。
越えられないカーマンライン(高度100km)の壁を、不屈の意思と、努力と、チームワークと天才の知恵とちょっとの幸運と時代の流れと、その他もろもろ、あらゆるエネルギーを注いで手繰り寄せた、ほんとにもう熱い熱い物語。

てっきり最初は表紙の写真、スペースシップ・ワンの開発物語かと思って読み始めたのですが、プロローグで飛行中危機に陥るスペースシップ・ワンが出てきて以降、いきなりアポロの月着陸時代に時はさかのぼり、よく知らない(失礼)ピーター・ディアマンディスという宇宙に憧れる少年が登場。以後、彼を主人公にして物語が進みます。
スペースシップ・ワンを作ったのは飛行機設計の天才、バート・ルータンさんだということはさすがに私も知っていたのですが、このピーター君ってだれ? というぐらい無知状態で読んでいました。
しかし、彼、ピーター・ディアマンディスこそはこの無謀ともいえる宇宙飛行コンテスト、Xプライズの発案者で創設者だったのです。

あてにできない政府が宇宙開発に後ろ向きになる中、彼はMIT(マサチューセッツ工科大学)在学中に宇宙を目指す学生の会を開き、さらにその会を拡大して国際宇宙大学(ISU)を創設し(国際大学を創設ですよ!)、誰もが反対して出資を断る中、あの大西洋無着陸飛行を行ったリンドバーグに倣ってXプライズを創設してしまいます。

この本は、ただ一機の宇宙船を作って飛ばすだけ(それだってものすごいことですが)の話ではなく、その産業をイチから興してしまったピーター・ディアマンディスの超人的な戦いの記録なのです。

バート・ルータンはもちろん、ジェフ・ペゾス、イーロン・マスク、ポール・アレンなどなど、どこかで聞いた名の人たちを巻き込んで、彼らの視点と興味を宇宙にまで持って行ってしまった、ほんとにもうすごい人なのでした。いままで知らなくてごめんなさい。

もちろん、ピーターだけでなく、日本語版タイトルの通り、Xプライズに挑んだ様々なチームの戦いも書かれています。が、やっぱり全てのきっかけはXプライズを作ったピーター・ディアマンディスの功績なのだろうなあと思いました。

(でも英語版のタイトルのほうがクールでいいなあと思いますw)

過去の偉人でも空想の物語でもなく、今、まさに進行中の物語。
ロケットや衛星軌道とプロジェクトXに燃える人には絶対のおすすめです。

Original Post:2017/11/26

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登場人物紹介

神楽坂らせん

読書の合間に本を読み、たまにご飯してお茶して、気が付けば寝ている人です。一度おやすみしてしまうと、たいていお昼ぐらいまで起きてきません。

愛読書は『バーナード嬢曰く。』

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