『人工知能の作り方』

文字数 1,104文字

『人工知能の作り方』/三宅陽一郎

スクウェア・エニックスのAI技術者が書いたゲームの裏側の本。NPC(ノンプレーヤーキャラクター)たちの行動AIは、いったいどうやって作られているか。その作り方を丁寧に解説した一冊。


なーんてつもりで手に取ってみたのですが、実はこの本に書かれているのはそれだけでなく(もちろん、そういう点もしっかりと描かれていますが)ゲームの中のAIの作り方を説明するために、まず個々のAIの開発されてきた歴史的経緯や機能や仕組み、ゲームAI全体の説明をはじめ、その説明のために人工知能というものそのものの説明にはいり、その説明のためにそもそも知性とはなんぞや? という哲学を掘り下げ、さらに知性が認識する世界とは? と、世界と知性の関わり合い、認識論全般に話がおよび……。

というぐあいに、単なるAIの技術解説にとどまらない、人の知性とは? 動物の知性とは? 環境とは? 世界とは? と、多くのクエスチョンを掘り下げていくなかなかすごい本でした。


個々のAI技術の実装レベルの細かい話の方向と、世界の認識や知性とはなにか? という大きな両極端の方向に向けて、現在一般人が手に取れる最良のAIカタログというかガイドブックな気がします。(これより細かい深いところは哲学書や研究論文になってしまう。それと、たいてい英文になっちゃうw)

実際に動作しているAIの数々をゲームの画面で見れるというのも良いですね。ああ、なるほど、これはこうなってこうなんだあ。とついつい感心してしまいます。


ミクロからマクロまで広がる話題の中で、特に面白いと思ったのは、知性とは体の中に作られるわけだけれども、身体だけでなくその身体がおかれている環境世界とともに発現する。ということですね。脳みそだけあっても知性は生まれず、知性の存在するための世界が必要で、その世界に知性が接する身体という(世界に干渉する)エフェクターが必要。ということ。なかなか哲学的です。


その「世界」をノイズのないピュアな環境で作り出せるのはある意味ゲームならではで、そして、その中で適応していく知性はまさに「生きて」いるのね。とちょっと感動でした。


こうした哲学的課題をゲームのように限られたメモリーに実装するゲームAIは、あたりまえのことですが学術的というよりもはるかに実用的・実践的で、そしてなによりエンターテイメントになっていなくてはいけないわけで、ゲーム業界が寄ってたかって作り上げてきた工夫の数々は、テクノロジーとアートの交差点はこういうところにもあるのだなあと改めて思わされたのでありました。まる。

Original Post:2018/02/28
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登場人物紹介

神楽坂らせん

読書の合間に本を読み、たまにご飯してお茶して、気が付けば寝ている人です。一度おやすみしてしまうと、たいていお昼ぐらいまで起きてきません。

愛読書は『バーナード嬢曰く。』

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