『紙の動物園』
文字数 1,141文字
著者のケン・リュウさんは中国生まれで11歳の時に両親と共にアメリカに移住。ハーバードで英文学とコンピュータサイエンスを学び、マイクロソフトのプログラマーに。その後弁護士に転身。なんてことをしつつSF&ファンタジーを執筆しまくり、本書の表題作でヒューゴー賞・ネビュラ賞・世界幻想文学大賞と、世界初の三冠に輝いてしまうという八面六臂ぶりのスーパーマン。すごい人もいたもんですね、ほんと。
この本には表題作『紙の動物園』を筆頭に15編のいろいろなジャンルのお話が詰め込まれています。
表題作はほんとスゴイです。さすがの一言。短編でさっくり読めるので、立ち読みでもしてみてください。これが気に入ったらお買上げして損はなし。絶対他のお話も気に入りますよ〜w
で、日本人的には、その次に乗っているお話『もののあはれ』がまた良いのです。原題の ”THE FUTURE IS JAPANESE” というのを読後に知ってなるほど〜と思い、著者が「(日本や中国の話の多くは、)西洋的ストーリーテリングの『規則』(物語の主人公は問題解決のため積極的に行動しなければならない)に従っていないことに興味を抱いて書いた」というのを知ってなるほどなるほど! と膝を打ち、そして、その例としてあげるのが『ヨコハマ買い出し紀行』と聞いてうわびっくり!! たしかに、あんな話は欧米SFにはなかなかないですよねw
それでインスパイアされて書いたこのお話、これは日本人なら是非読んで頂戴というなかなかの逸品に仕上がっています。(これも表題作の翌年のヒューゴー賞受賞)
その他のお話たちも、おそらくは訳者の古沢嘉通さんのチョイスなのでしょう、中国はもちろん台湾、香港、日本等のアジア各国の歴史や文化をとてつもなく深く掘り下げ、欧米的な視野と解釈を交えて語られるSFやファンタジーになっていて、これ、英語圏の人たち、ちゃんと理解してくれてるのかなあ。と、妙な心配と別の意味でセンス・オブ・ワンダーを感じさせてくれるスゴイ話ばかりでした。
近代のアジアの歴史物など、ヘヴィな読了感のあるお話もはいってますけど、それも味ですかね。
久しぶりの超オススメSF短編集です。オススメ!
表紙の画像、めっちゃ縦長ですよね。早川文庫の普通の海外SF(いわゆる青背)になじんでいるとびっくりなのですが、大昔は縦長の新書版の銀背と言われているSFシリーズがあったのです。最近はその銀背スタイルを踏襲した『新☆ハヤカワ・SF・シリーズ』と銘打った、見た目だけリバイバルのシリーズが出ているのです。これはその一冊。本棚に並ぶと普通の文庫本よりインパクトありますね♪