第88話

文字数 2,681文字


源三郎江戸日記(弟三部)88
 
そうじあよ、祭りは大層賑わうんじあろうというと、山車が沢山出て町を練り歩くんですよと言うので、こんどは祭りの時期に来ようと言って、邪魔したというと町屋を出て3軒見て、
回ると、昼時じあな、美味い蕎麦屋はあるかと聞くと、案内するだと言って高根庵と言う蕎麦屋につれて行ったので小上がりに座り、二人にお前達も食べろと言って天麩羅そばで良、
いかと聞くと、

ハイと言うので酒と天麩羅蕎麦を注文したのです、1人の娘が傍に来て津軽三味線はいらんかねと言うのでやってくれと言うと、座ってバチを取り出し軽快な三味線を弾いたのです、
3曲弾き終わると、大勢の客が手を叩いたのです、すご~いと2人が手を叩くと、お粗末様でしたと言うので、まあ一杯とお玉が手に湯のみを握らせたので酒を注ぐと、飲み干して、
美味しいと言ったのです、

手に2分銀を握らせると、こんなに良いんですかと言うので、ご祝儀だとっておきなさいと言うと、有難う御座いますと言うので、津軽弁ではないようじあがと言うと、旅のお方に、
津軽弁はわかりませんので、町衆も旅のお方には、津軽弁はつかいません、城下を外れて土地の人と話すとさつぱり、わかりませんよと言って、それではと店を出て行ったのです、

蕎麦を食べ終わり、お前達の親方は良い人かと聞くと、親方ではなく師匠です、ねぶたの絵師なんです、私たちは二親がはやり病で死んだのでおとうの知り合いの膳衛門師匠に引き、
取られたのです、おとうも絵師だったのですと言うので、なぜ角兵衛獅子をと聞くと、ふたりのおまんまくらい自分達で稼ごうと師匠に言うてやらせて貰っているのですと言うので、
そうか、

それは感心な事じあなと言うと、それでは師匠の書いたねぶたの絵は何処で売っているのじあと聞くと、城下のみやげ物屋で売っているだ、祭りの時は沢山売れるけど、この時期は、
あんまり売れないのだよと言ったのです、2人の歳を聞くと、お照が13でお玉が8才と言ったのです、師匠には子供はおらぬのかと聞くと、やはりはやり病で死んで1人身だよと言っ、
たのです、

それで土産に買うていこう、その土産物屋に案内しておくれと言うと、ハイと言うので勘定して店を出て土産屋に行くと、沢山のねぶたの絵が置いてあります、これは中々の絵じあ、
なと言うと、店の者がさすがな目利きですね、これは善衛門が書いたものです、あんまり書いてくれないので今は5枚しかありませんがと言うので、その5枚を買おうというと、ハイ、
5枚で2分ですと言うので、

2分を払うと、油紙に包んで筒にしたので受け取り、お照にその師匠に合わせてくれんかと言うと、ハイと言うと家に案内したので、中に入るとおかえり、お腹すいただろうと言うと、
蕎麦をご馳走してもらいましたというと、これは、済みませぬ、どうぞお上がり下さいと言うので、上がると、絵師の善衛門で御座いますと言うので、村上源三郎と申す、縁あって、
お照達にねぶたの山車の場所を案内してもろうたのじあ、

中々見事なもんじあなと言うと、ハイ、城下だけでも20人からの絵師がいます、夏まつりには近隣から大勢の人が見にこられますと言うので、それは賑やかな事であろう、お手前も、
この娘達もはやりやまいで肉親をなくしたそうじあのう、気の毒な事であったと言うと、あれは5年前でしたが、この城下でも多くの人が、なくなりましたといったのです、ところ、
で、

ねぶた以外に何か絵を書いておるのかと聞くと、ハイ、本職は風景の絵師でして、津軽の山々、海岸風景等を書いておりますと言うので、見せてもらえぬかと言うと、ハイと言うと、
奥からもって来たので、見ると今にも絵から出てきそうな迫力があります、これは、お売りなされぬのかと聞くと、年に一度神田の文教堂で飾って売って貰っています、それで、
一年飯を食うているのですと言うので、

おう文教堂かよく知っておると言うと、そうですか、毎年秋口に書きためた絵を、江戸に持って行きますといったのです、このお照の父親は絵師だったと聞いたがと言うと、ハイ、
腕の良い絵師だったのですが、残念な事をしましたと言うので、お照にはその才はないのかと聞くと、いいえ、ありますが、女子の絵師はいませんのでと言うので、腕がよければ、
女子でも良いじあろう、

書かせてみて文教堂で展示して見てはどうだ、文教堂の主人にはわしから頼んでおくと言うと、そうですね、女絵師がいてもおかしくはありませんね、どうもその道の者は考えつ、
きませんがと言つて、お照やってみるかと言うと、ハイ、絵は大好きです、暇な時に書きますと言うと、そうか、やって見なさいと言つたのです、この中に蝦夷地の風景があった、
が、

これは稚内から見た樺太じあなと言うと、ご存知ですかと聞くので、昨日行って来たばかりじあと言うと、貴方様はと聞くので諸国巡察視の村上源三郎と言う者じあ、この絵を譲っ、
てくれぬかのうと言うと、ハイ、どうぞと言うので、5両だすと、これでは多すぎますというので、いや、この地を書いた者はおらぬじあろう、これは国防の為に大変役に立つのじ、
あよ、

どうじあろう、こんどは、蝦夷全体の地図と樺太、千島の地図を書いてくれぬかのう、船は玄海屋の店が函館にあるので、その船を占有させるがと言うと、ハイ、一度書いてみたい、
と思うていました、地図に海岸線を船から見た絵をつければ、みなさんにも良く分かりますというので、それなら500両で頼みたい、その間はお照達は留守番になるがと言うと、ハイ、
弟が城下にいます、

江戸に行く時も預けていますと言って、500両とは過分ですと言うので、それ位の価値があるのじあよ、よし、これで蝦夷地の防衛も何とかなるじあろう、玄海屋が段取りに来るので、
頼む、案内はアイヌとの混血がやるので大丈夫じあ、体だけは気をつけるのじあぞ、500両は玄海屋に持たせると言って、お玉頑張って、腕の良い絵師になれよと言うと、ハイ、また、
津軽に来てくださいと言うので、

必ず立ち寄る事にしょうと言って、ところでこの城下にはゴロツキ等の悪人はいないのかと聞くと、津軽様の治世は良いようで、祭りの時は山車のぶつかり会いで怪我人が出る事もあ、
りますが、普段は平穏な町ですと言うので、それは、何よりじあ、邪魔したなと言うと家を出て繁華街の居酒屋に入ったのです、お玉がその絵図面が出来れば、全体がはっきりします、
ねと酌をしたのです、

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