第22話

文字数 1,831文字

 東條、明日香、来栖沢夫妻、大沼の五人でギフトマンのメッセージの解釈と今後の方針について議論を交わしていると、上手側の通路から男性の怒鳴り声が聞こえてきた。
「……なんでワイの武器がロープやねん。こんなんじゃ人ひとり殺せんやないかい! もっと派手な――日本刀やら拳銃やらマシンガンやらロケットランチャーやら用意できへんのかいな」口調から察するに、声の主は関西人のようで、誰かに愚痴を垂れている模様だった。
 やがてその姿が東條たちの前に現れる。ロビーで老人と一緒にいた水色のミニスカートの女性を伴っていた。彼女はうんざりした様子で、「そんなこと言っても仕方ないじゃない。それとも私のと交換する?」と関西弁の男をなだめすかす。刃渡りニ十センチほどのナタを握りしめており、それが彼女に与えられたアイテムであることが(うかが)えた。
 関西弁の男はクセの強いパーマを肩まで伸ばし、体形はやせ形のひょろ長で白ぶちの大きな眼鏡をかけている。両手の指にはいくつもの指輪がジャラジャラと光っており、白いワイシャツの上からライトイエローのセーターを胸元に軽く巻き付けていた。いわゆる業界巻きと呼ばれるスタイルである。幾重にも丸められたロープを肩にかけ、ベージュのスラックスに青のスニーカーを鳴らしている。その歩き方からオラオラ系であることが読み取れた。年齢は東條とさほど変わらないように思えた。
 一方のミニスカートの女はというと、黒髪をサイドアップで高度に編み込んでいて、肩にチェック柄のカーディガンを羽織っており、水色のミニから覗く細い足はバランスのいい見事なふくらはぎをしている。整えられたメイクと相まって、夜の蝶を思わせる妖艶さがあった。むしろセクシーといった方が似つかわしいかもしれない。右腕にはハイブランドのバッグを抱えている。反対の左手に何気なく握られたナタが猟奇的な匂いを漂わせ、小悪魔的なオーラを感じずにはいられない。年齢は三十手前といったところだろうか。派手な見た目とは裏腹に凛とした佇まいが彼女の気品を物語っている。豊満なバストを強調したグレーのチェニックを見ると思わず顔がにやけてしまう。一方、少し不機嫌そうな明日香の胸部というと……ここでは多くを語るまい。

 東條たちを視界にとらえたようで、関西弁の男は顔を揺らしながらつかつかと歩み寄ってきた。ミニスカ美女も後に続く。
「おお、兄ちゃんたち。あんたらの武器は何や? よかったらワイのロープと交換せえへんか? ロープはええで。首吊りにも使えるし、夜のプレイにも最適や」
 なんという下品な男だろう。この女はよく一緒にいられるものだ。もしかして本気で付き合っているのだろうか? それとも金銭目的のただの愛人か。
 ふくれっ面の愛人(?)は下品な関西男をたしなめる。
「よしなさいよ、みっともない。みんな引いているじゃないの。それにわざわざロープなんかと交換する酔狂な人がいるとは思えないわ。賞金が掛かっているんだから、皆さんも慎重になっているに違いないわ」
「冗談やがな。そない目くじら立てんでもええがな。まあ、どうしてもというんやったら、交換してやらんこともないがな」
 もちろん交渉に応じる者はいない。それはロープがどうのこうのではなく、男のキャラに圧倒されて、関わりたくないといった方が正しいかもしれない。
 四面楚歌の関西男を無視するかのごとく、ミニスカ女は自己紹介を始めた。
 彼女は自身の名前をツバキで、二十九歳だと告げた。もちろん本名ではなく源氏名で、都内某所にあるファッションヘルスに勤務しているそうだ。
 成程、関西弁のこの男はツバキの顧客という訳かと東條は納得した。自称二十九歳なのは見た目通りだが、この手の女性は多少なりともサバを読んでいるだろうから、もう少し上乗せして考えるべきだろう。

 続いて東條たちが自己紹介を繰り返すと、男は溝吉豊(みぞきちゆたか)と名乗った。差し出された名刺によると、予想通り業界人で、サンサンテレビのディレクターだった。ただ、予想に反し、ツバキの顧客では無く、ついさっきトイレの前で溝吉の方から声を掛けて知り合ったばかりなのだそうだ。つまり溝吉がツバキをナンパしたのである。思えばシアターホール内にて並んで座っていたのは来栖沢夫妻だけだったので、その説明もうなずけた。
 年齢は三十五歳と、東條より四つ上だったが、それよりはずいぶんと若く映る。テレビマンという職業がそうさせるのか、それとも彼が特別なのか――。

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