第97話
文字数 1,228文字
* * *
スイッチをしまうと、キャサリンは壁にもたれながら腕時計とにらめっこをした。現在は十一時二十六分を指している。ボタンを押してから四分が経過していた。正午まではあと三十四分。十二億円分の札束を想像し、顔のニヤつきが止まらない。
毒ガスの効果がどれほどのものかは判らない。実験しようにも一度きりしか使えないのだから試しようがなかった。それどころか本当に作動するかも定かでは無い。
だが、東條たちの慌てふためく叫び声を聞くと、それが本物であったと自信を持つ。
「フウ。死体のふりも疲れるのよネ。ずっと同じ姿勢だから、ボディのあちこちが痛くなっちゃって。もう歳カシラ」
肩を回し、首を捻ると、悲鳴の続くドアを冷ややかな目で見つめた。
さらに五分が経過した。
室内からの悲鳴は鳴りを潜めた。だが、それと入れ替わるようにドアの隙間から白い煙が漏れ出してきた。どうやら毒ガスは実際に発生したようだと、キャサリンは後ずさりしながら確信を深めた。
ドア越しに畳のめくれるような音がした。かと思うと、続けざまに東條の声が聞こえくる。
『あっ、こんなところに出口がある』
――バカな。ミーがそんなヨーチな手に乗るとでも思っているのカシラ? このシアターに出口なんて無いことはとっくに調査済み。さすがに畳の下まで調べたワケではないが、そんなコドモダマシでドアを開けるほど愚かなではないワ。
『助かった。これで賞金が貰えるわね』
明日香の声は嬉しそうである。これも演技なのだろうか。 しかし、現に煙が漏れているのだから、毒ガスが発生したのは間違いない。ガスマスクでもない限り、生き延びるのは不可能だし、そんなものが無いのはとっくに確認済みである。
『キャサリンのマヌケ顔が思い浮かぶわね。“Oh! クレイジー! ミーの負けネ”……なんちゃって』ツバキの声はからかっているように聞こえた。
芝居とは思いつつ、キャサリンは聞き耳を立てながら緊張を走らせた。
ガタガタと音が鳴った。キャサリンは咄嗟に身構える。
だが、それを最後に控え室は沈黙した。
腕時計を見ると十一時四十六分。毒ガスが発生してから二十分ほど経った計算になる。もし毒ガスが効いたとならば、とっくに絶命してもおかしくないと思われた。
このまま正午まで放っておくつもりだった。だが、万が一、東條たちの言っていた出口が、本当にあったとするならば……。
やがて煙も収まり、パネルを外したキャサリンは、いつでも発砲できるように拳銃をしっかりと握りしめながら反対の手でノブを回し、勢いよくドアを引き開けた。
足を踏み入れるが誰もおらず、中央にあったちゃぶ台が壁際に移動されていた。ちゃぶ台の下の畳は少しズレた状態で置かれていた。トージョーたちはそこに隠し通路を見つけて、抜け出したのだろうか。
焦る気持ちを抑えながら、足元に拳銃を置き、慎重に畳を動かしてみると、キャサリンは驚きのあまり声を上げずにはいられなかった。
スイッチをしまうと、キャサリンは壁にもたれながら腕時計とにらめっこをした。現在は十一時二十六分を指している。ボタンを押してから四分が経過していた。正午まではあと三十四分。十二億円分の札束を想像し、顔のニヤつきが止まらない。
毒ガスの効果がどれほどのものかは判らない。実験しようにも一度きりしか使えないのだから試しようがなかった。それどころか本当に作動するかも定かでは無い。
だが、東條たちの慌てふためく叫び声を聞くと、それが本物であったと自信を持つ。
「フウ。死体のふりも疲れるのよネ。ずっと同じ姿勢だから、ボディのあちこちが痛くなっちゃって。もう歳カシラ」
肩を回し、首を捻ると、悲鳴の続くドアを冷ややかな目で見つめた。
さらに五分が経過した。
室内からの悲鳴は鳴りを潜めた。だが、それと入れ替わるようにドアの隙間から白い煙が漏れ出してきた。どうやら毒ガスは実際に発生したようだと、キャサリンは後ずさりしながら確信を深めた。
ドア越しに畳のめくれるような音がした。かと思うと、続けざまに東條の声が聞こえくる。
『あっ、こんなところに出口がある』
――バカな。ミーがそんなヨーチな手に乗るとでも思っているのカシラ? このシアターに出口なんて無いことはとっくに調査済み。さすがに畳の下まで調べたワケではないが、そんなコドモダマシでドアを開けるほど愚かなではないワ。
『助かった。これで賞金が貰えるわね』
明日香の声は嬉しそうである。これも演技なのだろうか。 しかし、現に煙が漏れているのだから、毒ガスが発生したのは間違いない。ガスマスクでもない限り、生き延びるのは不可能だし、そんなものが無いのはとっくに確認済みである。
『キャサリンのマヌケ顔が思い浮かぶわね。“Oh! クレイジー! ミーの負けネ”……なんちゃって』ツバキの声はからかっているように聞こえた。
芝居とは思いつつ、キャサリンは聞き耳を立てながら緊張を走らせた。
ガタガタと音が鳴った。キャサリンは咄嗟に身構える。
だが、それを最後に控え室は沈黙した。
腕時計を見ると十一時四十六分。毒ガスが発生してから二十分ほど経った計算になる。もし毒ガスが効いたとならば、とっくに絶命してもおかしくないと思われた。
このまま正午まで放っておくつもりだった。だが、万が一、東條たちの言っていた出口が、本当にあったとするならば……。
やがて煙も収まり、パネルを外したキャサリンは、いつでも発砲できるように拳銃をしっかりと握りしめながら反対の手でノブを回し、勢いよくドアを引き開けた。
足を踏み入れるが誰もおらず、中央にあったちゃぶ台が壁際に移動されていた。ちゃぶ台の下の畳は少しズレた状態で置かれていた。トージョーたちはそこに隠し通路を見つけて、抜け出したのだろうか。
焦る気持ちを抑えながら、足元に拳銃を置き、慎重に畳を動かしてみると、キャサリンは驚きのあまり声を上げずにはいられなかった。