第9話
文字数 1,157文字
東條は、ふらつく足取りで今夜の宿を探す。
五分ほど彷徨 った先に、錆の目立つ古びた看板のカプセルサウナを見つけた。店名は『ホテル&サウナ・モルワイデ船橋』。
――船橋は判るが、モルワイデとは何ぞや、それにここは船橋でもないし。
東條は一瞬、眉をひそめたが、迷うことなくドアを開ける。
受付には、白髪交じりの男性がフロント内の壁際の椅子に腰かけながら、うつらうつら舟をこいでいた。が、東條を見つけるなり、目をこすりながらカウンターに立った。
料金は前払い制になっており、先に一泊分の料金を支払う。ルームキーを渡され、サウナは最上階の五階だと説明を受けた。
薄汚れたエレベーターに乗り、指定された四階の部屋へと向かう。カプセルサウナというからには上下二段になっているコインランドリーのような窮屈な部屋を想像していたが、そこはちゃんとしたワンルームになっており、さながらビジネスホテルのようだった。
財布を金庫にしまうと、階段を使ってサウナのある五階へ上がり、脱衣場に入る。
服を脱ぎ、専用かごに投げ入れると、タオルをぶら下げながらサウナルームへ続く引き戸を開けた。
中はそれ程広くないが、意外と清潔感があり好感を憶えた。週末のせいか、深夜だというのにやたらと人がごった返していて、繁盛ぶりがうかがえる。
体をさっと洗い、サウナの木製扉を開けると、心地よい熱気を体中に浴びる。酔いが一気に醒める気分だった。
八畳ほどの空間に五人ほどが腰を下ろしており、東條は間を縫うようにしておくに座ると、隣にいた禿げ散らかした初老のオジサンが話しかけてきた。
他愛もない世間話を一方的に浴びせられ、正直うっとうしい。昼間の叔父といい、どうして人間というのは。年を取るにつれ、見境なく話しまくるのだろう。
隣のオジサンも、鬱陶しいのは間違いないが、まだ我慢できた。
だが、しばらく相槌を打っていると、彼の指が股間にまで手が伸びてきた。これにはさすがの東條も耐えきれなくなり、一目散でサウナルームを飛び出した。
板張りの脱衣所で備え付けのアロハに手早く着替えると、髪が乾かないまま、逃げるように脱衣場を飛び出した。
階段を下りて自分の部屋に戻り、タオルをハンガーにかけると、心を落ち着かせるためにスプリングの利き過ぎる硬いシングルベッドに身をゆだねる。
寝ころびながら何気なく窓に目を向けると、すりガラスの向こうは、点滅するネオンサインが眠らない街を煌々と照らしていた。
所々シミの目立つ天井に視線を移すと、ふと、飯島明日香の顔が浮かんできた。有給は明日までなので、夕方まではフリーだ。
「明日は朝イチでメールしてみるか」
独り言を呟き、おもむろにまぶたを閉じた。
やがて穏やかな気持ちになっていき、東條の意識は暗闇の奥へと沈んでいく……。
五分ほど
――船橋は判るが、モルワイデとは何ぞや、それにここは船橋でもないし。
東條は一瞬、眉をひそめたが、迷うことなくドアを開ける。
受付には、白髪交じりの男性がフロント内の壁際の椅子に腰かけながら、うつらうつら舟をこいでいた。が、東條を見つけるなり、目をこすりながらカウンターに立った。
料金は前払い制になっており、先に一泊分の料金を支払う。ルームキーを渡され、サウナは最上階の五階だと説明を受けた。
薄汚れたエレベーターに乗り、指定された四階の部屋へと向かう。カプセルサウナというからには上下二段になっているコインランドリーのような窮屈な部屋を想像していたが、そこはちゃんとしたワンルームになっており、さながらビジネスホテルのようだった。
財布を金庫にしまうと、階段を使ってサウナのある五階へ上がり、脱衣場に入る。
服を脱ぎ、専用かごに投げ入れると、タオルをぶら下げながらサウナルームへ続く引き戸を開けた。
中はそれ程広くないが、意外と清潔感があり好感を憶えた。週末のせいか、深夜だというのにやたらと人がごった返していて、繁盛ぶりがうかがえる。
体をさっと洗い、サウナの木製扉を開けると、心地よい熱気を体中に浴びる。酔いが一気に醒める気分だった。
八畳ほどの空間に五人ほどが腰を下ろしており、東條は間を縫うようにしておくに座ると、隣にいた禿げ散らかした初老のオジサンが話しかけてきた。
他愛もない世間話を一方的に浴びせられ、正直うっとうしい。昼間の叔父といい、どうして人間というのは。年を取るにつれ、見境なく話しまくるのだろう。
隣のオジサンも、鬱陶しいのは間違いないが、まだ我慢できた。
だが、しばらく相槌を打っていると、彼の指が股間にまで手が伸びてきた。これにはさすがの東條も耐えきれなくなり、一目散でサウナルームを飛び出した。
板張りの脱衣所で備え付けのアロハに手早く着替えると、髪が乾かないまま、逃げるように脱衣場を飛び出した。
階段を下りて自分の部屋に戻り、タオルをハンガーにかけると、心を落ち着かせるためにスプリングの利き過ぎる硬いシングルベッドに身をゆだねる。
寝ころびながら何気なく窓に目を向けると、すりガラスの向こうは、点滅するネオンサインが眠らない街を煌々と照らしていた。
所々シミの目立つ天井に視線を移すと、ふと、飯島明日香の顔が浮かんできた。有給は明日までなので、夕方まではフリーだ。
「明日は朝イチでメールしてみるか」
独り言を呟き、おもむろにまぶたを閉じた。
やがて穏やかな気持ちになっていき、東條の意識は暗闇の奥へと沈んでいく……。