先の無い、深い闇の中

文字数 1,192文字

――クソッ、ここまでなのか?
妹ハンナの仇、その最後の一人を

追い詰めた復讐者だったが、銃での反撃を受け、

今この廃倉庫では銃撃戦が繰り広げられていた。

――ヤバいな、

血を流し過ぎた

目の前が白く霞んで来てやがる
四肢を銃で撃たれ、大量に血を流す男は、

片膝をついて崩れ落ちる。

手にしていた筈の銃は、撃たれた際の衝撃で、

既に落としてしまっている。

ふふ、俺は、

他の三人とは違うんだよ

お前が来るだろうと思って、

準備していたんだ

復讐者に向けられる銃口。
妹の仇が取れなくて、

残念だったなぁ、おい

――ハンナ、すまない


仇は取れそうにない

死にやがれっ
パァン、パァン
放たれた銃弾。


だが、それは復讐者に当たることはなく、

不自然な動きをして逸れて行った。

なっ!?
!?
それはまるで、

何か透明な壁にでも当たって跳ね返されたかのような、

この世界の物理法則を無視した軌道。

復讐者はこの隙に、最後の力を振り絞って、

落ちていた銃に飛びつき、これを拾い上げる。

クッ
パァン


廃倉庫の床に血まみれになって倒れている二人の男。
――
一人は心臓を撃ち抜かれて、

すでに事切れている。

ハァッ、ハァッ……
目的を果たした復讐者ではあったが、

立ち上がるどころか、もはや動くことすら出来ない。

……
照明が消えた廃倉庫、

その暗闇の中から姿を現した愛倫(アイリン)は、

復讐を遂げた男の前に立つ。

……さっきの、あれは、

あんたが助けてくれたのか?

さぁ、どうだろうね

一応は、

救急車を呼んでおいたよ

……なぁ、サキュバスのねえさん

……ここで、このまま

俺を殺してくれないか?

……目的は果たしたことだし


このまま人殺しとして生きて行く気は

俺にはさらさらねぇ

すまないんだけどね、あたしは

人間は殺さないようにしてるんだよ

あたしが大怪我させて

それが原因で死んじまった人間も

多勢いるからね

今更どの面下げて

そんなこと言ってるんだって話しだけど

それが自分に課したルールなんだよ

そうか……

俺も、あんたの言うことを無視して、

俺の中のルールに従った訳だからな

まぁ、仕方ねえな

まぁでも、

心配しなくてもいいさ

その出血じゃあ、あんた

救急車が着くまでもたないよ……

もう、じきに

あの世逝きだよ

そうか……

あんた、

本当に、後悔は無いのかい?
あぁ……
むしろ、清々しいぐらいだよ……


心残りは、まったく無い

本当にまったく……
これまでも、あっちの世界で

あんたみたいに復讐に囚われた人間を

嫌というほど見て来たけどね

そういう類の人間は、

どいつもこいつも


あんたみたいな

頑固者ばかりだったよ

でも、前も言ったけど


これでもあたしは闇の眷属だからね

あんたみたいな人間も


嫌いじゃあないんだよ……

――

男はそのまま動かなくなって、

やがて息を引き取る。

そうかい、もう逝っちまったのかい

息を引き取った復讐者の魂を見送った後、

愛倫(アイリン)はその場から姿を消した……。

照明も消えた廃倉庫、

そこには先の見えない暗闇が

広がっているだけだった……。

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