天と海、数多の星々

文字数 2,268文字

あとは、これをどうするかだね
ようやく悪魔達を一掃した愛倫(アイリン)

巨大霊砲(スピリチュアルカノン)を撃ち込んでから

こちらの世界に出て来る悪魔はいなかったが、

いつまた進軍を再開するか分かったものではない、

そうそうに潰しておく必要がある。

何か策はあるんですか?

いまだ立ち上がれないでいる慎之介だが、

喋る方は意外に元気そうでもある。

船内の壁面というのが、

ポイントじゃないかと思うんだけどね

空間に浮いている訳じゃないから

空間座標を指定しているってことじゃない

つまりこの壁面が

ここに存在していることを前提にしてはじめて


ゲートもまた存在するということかね

なるほど……
それで、どうしますか?
こんなもん、あたしにも(ふさ)げないからね
船ごとぶった切るしかないかねえ

あぁ~

やっぱり、そうなりますか……

まぁ、予想はしてました

船には既に穴が空きまくっていて、

リリアンが言った通り

このままいけば沈むのは時間の問題。

ぶった切っても問題ないと言えば問題ないが

少々事が荒っぽ過ぎやしないかとも思う。

……

そんなことを考える慎之介をよそに

愛倫(アイリン)はとっとと準備をはじめていた。

両手を握り、その長い手を頭上に突き出す。
……

それまで愛倫(アイリン)が身に纏っていた

青白く燃え盛るオーラが

これまで以上により一層の輝きを増し、

船の天井を突き破って、遥か天空へと伸びて行く。

ぽっかり空いた天井の穴からは

夜空に浮かぶ美しい満月と

(きら)めく数多(あまた)の星々が見える。

――そうか、ここは日本ではなかった

夜空の星がこんなにも綺麗に見える

動けずに倒れている慎之介は、こんな時でも、

夜空の美しさに、今目の当たりにしている

幻想的な光景の美しさに感動してしまっている。

天高く昇る青白いオーラは

まるで夜空の月と星々と

愛倫(アイリン)を繋ぐ光の柱のようだ。

……

これから行われるのは

これまでの中でも最大級の破壊だというのに、

夜空と青白いオーラが織り成す神秘的な光景に

心が洗われるかのような清々しさすら覚える。

――美しい……

まるで女神のようじゃあないか

愛倫(アイリン)は天高く突き出した両手を

ゆっくりと静かに前方へと振り下ろした。

巨大霊剣(スピリチュアルソード)

まるで天空から振り下ろされたかのような

青白く輝く巨大な霊剣は静かに

船もろともゲートを真っ二つに切り裂いた。


ゲートの破壊を確認すると愛倫(アイリン)

すぐに倒れている慎之介を抱きかかえ

そのまま天空へと急上昇して行った。

……
……
上空から沈み行く船を見つめる二人。

なんだかんだ言っていたが、

結局最後まで船内に残って待機していたリリアンは

二人の邪魔をしないように

少し離れて飛んで行くことにする。

――もしかしてあたし

残っていた意味全くなかったのでは……

満点の星空、美しく輝く月、

空を飛んでいることもあって

まるで宇宙にでもいるかのような感覚。

綺麗だね、慎さん

でも異世界の夜空は

もっと綺麗だったんじゃないんですか?


空気とかも綺麗そうですし

そうなのかもしれないけどね、

でもあたしは慎さんと一緒に二人で見る

この世界の夜空が好きだよ

千年も生きて来たレジェンド級サキュバスのくせに

愛倫(アイリン)はやはり時々少女のようなことを言う。


そして慎之介はそんな彼女に

思わず胸をキュンとさせてしまっている。

なんか申し訳ないですね……


ずっと抱きかかえてもらっていて……

重くないですか?

何を言ってるんだい、慎さんは


あたしの慎さんへの愛は

もっともっと重いんだよ

それ、深い、の間違いですよね?


むしろそうじゃないと

自分ものすごくコワいんですけど

確かに愛が深いと重いでは、

似ているようで全然違う、メンヘラ的な意味で。

あの海に沈んだゲートからは

もう悪魔が出てくることはないんでしょうか?

明日、もう一度

調べてみる必要はあるだろうけど


手応えはあったから、

おそらくは大丈夫じゃないかね

それにもしまだ

ゲートが生きていたとしても

悪魔は海中がそれ程得意ではないしね


あれをまた使うことはないだろうね

存在するにあたって

人間との関係性が前提とされている者達、

サキュバスもそうであるし、

悪魔もそれにあたるのだが、


そうした者達は

あまりに人間世界と縁遠い場所、

生活環境とかけ離れたところでは

存在することすら出来ない。


だから深海にも宇宙にも

悪魔が出現したという例は過去に一度もない。

しばらくして日本の領海に入ると

そこにもまた星が広がっていた。


それは空にということではなく、

海の上に(きら)めく星々だった。

漁村の船、民間船団、海上保安庁の巡視艇、

そこに居るのは三人の帰りをずっと待っていた人々、

おおよそ百隻近くの船が

ライトを点けて海上を(とも)している。

来た、来た
無事だったでござるな
よっしゃっ

人魚の娘達をはじめとして

種族を問わず救出された者達、

協力してくれた忍軍や有翼人の救出部隊、

魚人族と漁村の年寄り達、

そしてサキュバスの仲間達、

みなが笑顔で愛倫(アイリン)達に手を振っている。

おーい
いやぁ、よかった
あねさーん!

おそらく全員無事だったのだろう。

誰か一人が欠けてしまっていても暗い顔となって、

この笑顔は達成出来なかっただろうと考えると

まるで奇跡のような笑顔だ。

みんな無事でなによりだね
あぁ、よかった
それは愛倫(アイリン)が命を賭けて守った笑顔。

そこは、戦いに明け暮れるのではなく、

命ある者達が寄り添い

互いに助け合って、喜びを分かち合う世界。

異世界で愛倫(アイリン)が果たせなかった

願い、夢、希望……

その笑顔の一つ一つが愛倫(アイリン)にとっては

この世界での大切な希望の星に他ならなかった。

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