ビッチであり、聖母であり
文字数 2,638文字
それまでの静かな夜の輝きから、
徐々に空が白んで明るくなりはじめ、
闇の眷属でありながら
この朝日が昇る瞬間を美しいと思う。
感覚が人間に似て来ているのか、
相変わらず陽光は苦手ではあったが
それでも嫌いという訳ではなくなっている。
人間達が日の光を求める
そんな気持ちも理解出来なくはない。
船団が漁村に着くと、
村でじっと我慢して待っていたおばあちゃん達が
人魚の娘達と抱き合って泣いていた。
その光景についもらい泣きしそうになる、
そんな人間味溢れる自分も
再会の喜びが一段落すると、
今度はおばあちゃん達が
一生懸命用意していたご飯が振る舞われた。
慎之介からおにぎりと豚汁を手渡される
漁港はいろんな種族の者達でごった返し、
ちょっとしたカオス状態になっていた。
捜索から救出まで協力してくれた有翼人達。
禅問答のようなことを言いながら
配下の忍軍を
今回百名以上の忍者が参加していたことを
慎之介は今はじめて知った。
シャドウに関しては、
普段ご飯をどうやって食べているのか?
という疑問からはじまる。
リリアンや黒ギャル派をはじめとする
サキュバスの仲間達も元気そうで何よりだ。
村の年寄り達は魚人族と一緒に、
助けてくれた者達一人一人の手を握り、頭を下げて
お礼を言って回っている。
そんな光景を見ながら
おにぎりを一口頬張る。
むしろ慎之介にとっては、それからが本当の仕事で、
仮眠を取ることすらなく
忙しく、身を粉にして働き続けた。
被害に遭った者達に事情聴取を行い、
捕らわれていた人魚以外の他種族、
彼女らの身元確認等を
増援に来た移民局の仲間に引き継ぎ、
海に沈んだゲートと船の調査を
魚人族に依頼するなどなど、
事件に関しては処理しなくてはならない
事務仕事が山のようにあった。
明日もまた一日
事件の報告に追われることになるだろう。
悪魔達の動きについては、
今後もシャドウが継続して調査すると
上層部からも連絡があった。
店内では人魚の娘達が
無事に救出された祝杯を挙げており、
村の年寄りと魚人族の他にも
朝からずっとまだ呑んだくれている
有翼人やサキュバス達の姿があった。
慎之介はずっと待っていた
二人で酒を酌み交わす。
どれぐらい過酷で熾烈な世界で戦い続けていたのか、
慎之介には到底想像もつかない。
完璧な人間などが居る訳もなく、
人間は誰しもが弱さも脆さも持ち合わせている。
そういう部分を悪魔に狙われたら
自分も過ちを犯してしまうのではないかと
慎之介は恐れているのだ。
どんな状況であっても、空気であっても、
穏やかで優しくて、
その場のみなが思わずほっこりしてしまう、
そんな不思議な力を持つ慎之介が
その力とは、もちろん
物理的な力の強さや術や能力、スキルなどではなく、
簡単に言えば人間的魅力とか人柄、
人望ということなのだろう。
この世界に見出した人間の可能性の光、
それを体現化した象徴的な人間の男。
人間の弱さや欠点、
こうやって、慎之介が悩んでいる姿でさえも、
千年を生きて来た
酔って潰れてしまった慎之介に肩を貸して
ホテルまで連れて帰る
余程疲れていたのだろう、
慎之介はベッドでぐぅぐぅと
いびきをかいて寝入ってしまっている。
まるで新婚夫婦の新妻であるかのように
ついでにパンツも脱がしてしまう。
そしてまた自分も全裸になって
慎之介の腕の中に潜り込む。
疲れ果てて寝切っている顔を
しばし眺めている
その穏やかで優しい微笑はまるで
無垢な顔で眠っているまだ幼い赤子を
愛おしく見守る母のようでもある。
そして
いたずらっぽくキスをした。