力ずくな傾国の美女
文字数 2,230文字
行方不明になった人魚達の捜索活動は
今なお続けられており、
夜間も交替で魚人族達は仲間を探している。
浜辺で薪を燃やし、
束の間の休息を取っている魚人族の者達。
やばいにももちろんいろいろな意味がある、
慎之介は思わず聞き返した。
影の中からひょっこり姿を見せたシャドウが
頷きながら同意する。
何がやばいのか気になって仕方ない慎之介
シャドウ達は異世界では有名な
アイリンの逸話を語り始める。
それは五百年以上も昔のことで、
ここにいる魚人族の者達も当時はまだ誕生しておらず、
逸話として語り継がれているのを聞いただけだと言う。
当時異世界の一大陸を支配していた王国があり、
そっちこっちで自ら戦を仕掛けては連戦連勝、
敗れた国を次々と植民地支配していた。
敗れた国では常時奴隷狩りが行われ、
その国の民、特に女や子供は
奴隷として強制的に連行されて
王国民達の間で人身売買されることになる。
その国の王が異世界を統一する覇者となると
人間だけでは飽き足らず、
さらには獣人やエルフ、魔族など
ありとあらゆる種族が奴隷にされる始末。
寝る間なく働かされ、食料も碌に与えられない、
女は性の奴隷にされ、病気になれば即殺される、
実験動物なような扱いも受ける使い捨ての命。
あまりの酷さに激昂しブチ切れたアイリンは、
国王に向かって高らかと啖呵を切った。
国王は声を出して笑ったが、
その次の瞬間、両の腕がなくなっていた。
どこから出したのかは分からない二刀の剣を両手に持ち
返り血を浴びて立つアイリン。
それから次々と
その国の兵達を相手に暴れ回り、
数日後には王国の兵力を全て壊滅させる。
宣言通りにアイリンは、その国の王と権力者、
すべての兵を奴隷にしたのだった。
隆盛栄華を極めた王国も
憤ったサキュバスにより亡国に追い込まれる。
魚人族の者達は、その話を懐かしがっていたが、
慎之介は一人できょとんとしていた。
アイリンの逸話はそれだけに留まらず
まだまだ沢山あるらしい。
確かに
慎之介も見たことがある。
その
そして人間とは桁違いに強いことも知っている。
だが一人で国を滅ぼすレベルに強いのだろうか。
慎之介は尋ねにはいられない。
ショックを受けた訳ではないが、
何かモヤモヤして複雑な気分の慎之介。
一人になって改めて
モヤモヤする気持ちの原因はなんなのかを考えてみる。