獣の臭い
文字数 1,679文字
歩道を歩いている女子高生。
その横に箱型バンが急ブレーキで止まり、
スライドドアが開いたかと思うと、
中から男二人が飛び降りて来る。
男二人は女子高生に襲い掛かり、
後ろから羽交い絞めにし、
手に持つ布で少女の口を
短い悲鳴を上げた女子高生は、
すぐに口が塞がれ、
何が起こったのかもわからず、
男を振りほどこうとするが、
男二人による力の前に抵抗
そのまま車内へと引きずり込まれる。
全身をバタバタさせ
車内で必死にもがく女子高生。
男達に力づくで抑え込まれ、
少女の瞳は恐怖に怯えている。
車内の男は総勢で四人。
運転手が一人に、先程の二人、
そして車内で待機していたもう一人。
少女の瞳は絶望に満ち、
その目には涙が溢れる。
獣のような男たちが
女子高生の制服に手を掛けた瞬間。
車のヘッドライトの中に
女のシルエットが浮かび上がる。
運転手が慌てて急ブレーキを掛けたため、
車内は大きく揺れ、男達はバランスを崩した。
運転手の大声での恫喝にも動じることなく、
車の前から動こうとしないライダースーツ姿の女。
車は一向に進もうとしない。
車のスライドドアを開け、
外へ飛び出した男三人だったが……。
男達の前に居るのは、
十数人以上のサキュバスの女達。
男三人が大声で恫喝したのも束の間、
サキュバス達の魅了・誘惑に即座に陥落、
あっという間に骨抜きにされる。
その隙に
サキュバスのロリッ娘・リリアンが
車内の女子高生を助け出した。
このライダースーツの女、
その名をアイリン。
サキュバス移民団のリーダーにして、
最高責任者であり、
異世界では千年近く生き続けていると噂された
伝説級のサキュバスでもある。
彼女達は、この人間世界で、
社会の一員として早く認めてもらえるよう、
性犯罪を未然に防ぐという
社会貢献活動に日夜励んでいた。
だが、実際にそう思っているのは
アイリンとリリアンぐらいのもので、
他のサキュバスの娘達は
性犯罪をするぐらいなら、自分達とまぐわって
精気を吸わせてくれと思っている節がなくもない。
アイリンが車を止め、
他のサキュバス達が男共を魅了し、
リリアンが女子高生を助け出す。
彼女達の作戦が見事に成功したと思われたその時。
その拳がリリアンに接触する寸前、
アイリンは片手でこれを受け止めた。
アイリンはそう言うと
運転手の拳を強く掴んで握り潰そうとする。
運転手はその手を振り払った。
運転手の体が見る見る膨れ上がり、
上半身の衣服は裂け千切れる。
リリアンは背中から蝙蝠の羽根を出し、
女子高生を抱えて空から逃げる。
相手が何者であれ、
空までは追って来られないだろうと考えたのだ。
運転手は筋骨隆々の肉体へと変身を遂げ、
全身を体毛が覆い尽くす。
夜空には雲ひとつなく満月が見える。