元呪術師の男
文字数 2,706文字
その男は乱暴に
喫茶『カミスギ』のドアを開けて入店して来た。
背が高く痩身で
銀髪の坊主頭に
ファーコート《毛皮》に、真っ赤な襟付きシャツ、
そしてピチピチの黒い革パン。
両耳には金のピアスリング、
首からは金のネックレスを何本もぶら下げ、
両手首に金のブレスレッドを幾つも着けて、
ジャラジャラと音をさせている。
大きな宝石が着いた指輪が
両手の指全てにはめられており、
存在感、アピールがただならない。
男は
怒鳴るような声で喋りながら近寄って来た。
しかし
その男に全く見覚えがない。
オラオラ系男はそう言うと
サングラスを外す。
思わず素っ頓狂な声を上げる
彼女がこんな声を出すのも珍しい。
しかし確かにこの目は
陰気で辛気臭い呪術師の目に他ならない。
異世界に居た頃は
黒いローブを着てフードを深く被り、
常に猫背で俯き加減、
いかにも人を呪いそうな
そんな恨めしそうな目をしていたというのに、
どうしてこんなことになったのか、
イメチェンなのか
それとも人間界デビューなのか。
改めて元呪術師の変貌ぶりに
驚きの溜め息を吐く
趣味が良いとは言えないが、
それでも身に着けている貴金属等は
すべて本物の純金や宝石類、
値段にすれば相当な額になるであろう。
元呪術師サムエラの話に
再び素っ頓狂な声を上げる
まさか一日に二度も
こんな声を出すことになるとは
本人も全く思っていなかっただろう。
やれやれといった表情で
首を横に振る元呪術師のサムエラ。
そこへちょうど
両手にコーヒーを持って運んで来た
慎之介が相槌を打つ。
本来コーヒーを運ぶのは
ウエイトレスである
コーヒーを出す慎之介を
斜に構えて一瞥するサムエラ。
ニヤニヤしながらそう言った。
それから、石化事件について
慎之介は事情を説明した。
サムエラは顎髭を触りながら
そう相槌を打った。
サムエラの言葉に頷きながら
慎之介は肝心な話を切り出す。
しばしの沈黙が流れ、考え込む慎之介とサムエラ。
やれやれといった表情を浮かべる
元呪術師のサムエル。